第113話:祝祭のシャンパン 銀光の誓い
第25R、終焉。
ニュルブルクリンクのポディウムは、24時間の死闘を潜り抜けた怪物たちの狂喜で溢れかえっていた。
「……おほほほ! ……あ゛ぁ、冷たくて、……痛くて、……最高ですわ! ……オーナー! 見ていらして!? この、わたくしたちの勝利を!」
乱菊が、受肉したばかりの「肌」でシャンパンの刺激を全身に浴び、レーシングスーツを濡らしながら高笑いする。
その瞳には、もはや人格の混濁はない。
すべてを飲み込んだ一人の女王が、そこに立っていた。
その隣で、全身全霊の「正解」を叩き折られたカイザーが、濡れた前髪を無造作に掻き上げる。
「……フン。論理の果てに、これほどの屈辱が待っていようとはな。……だが、次はこうはいかない。……私は、論理のその先にある『正解』を……今度こそ、射抜いて差し上げよう」
敗北を糧に、さらなる深化を誓うカイザー。
その冷徹な宣言に、ファンたちは「パルスがまた逆流しそう!」と悲鳴のような賞賛を送る。
「……リベンジだ、乱菊ッ!! ……俺は、……俺たちは、……次は負けねえッ!! ……世界中の、……俺たちへの……アモーレェェェッ!!!」
プリンスが、世界で泥臭い愛を絶叫する。
かつての「完璧な王子」なら、シャンパンで髪が乱れることすら許さなかっただろう。
だが今の彼は、ファンから贈られた泥を勲章のように纏い、誇らしげに胸を張っていた。
そして、そんな狂乱の中でも。
「……おやおや。皆様、飛沫が飛ぶのは少々……エレガンスに欠けますな。……ですが、主人の命じられたこの『喜び』……、……あくまで拝領いたします」
ジェントルが、濡れた白手袋さえも優雅に扱い、お嬢様たちへ完璧なドヤ顔を捧げる。
その不気味なほどのエレガンスは、祝祭の夜をどこまでもねっとりと、美しく蹂躙していた。
一方、ピットロードの片隅。
「……菖子さん。……あの、……さっきの、……『一生管理』の件……」
ボロボロの機体から降りたモンスターが、真っ赤な顔で菖子に詰め寄る。
「……まったく。全人類の前であんな公開ネゴをしておいて……。……分かりましたよ、……結局、私が面倒を見なきゃダメみたいですね」
菖子が眼鏡を直し、震える手で彼の汚れた頬を包み込む。
「……はい、承認印。……一生、私の管理下から逃さないわよ、モンスター君」
おっちゃんやエンジニアたちの爆笑が、朝露に濡れたピットに地鳴りのように響き渡った。




