百年の恋
結婚式当日の朝が訪れる。
結婚式はこの国の王城の大広間で行なわれる。今日からはここが私の住まいとなる。騎士達に先導されながら、私は城の門をくぐる。
ドキドキしながら、花嫁の控室へと案内されるがまま入る。そこでオガルコフ家一同と合流する。ニセモノの父サーガと執事長も着飾っている。血のつながりが無いのに彼等は大喜びだ。私のおかげで王族に入り、甘い汁が吸えるからかなと感じた。
私は本物の父と母も結婚式に呼んだ。もちろん本当の事は王族の方達には言っていない。オガルコフ家の従者という形で出席するように私が手配したのだ。
私はメイドさん達に手伝われながら、白のウェディングドレスを纏う。そして、髪のセットやお化粧も王族お抱えのメイドさん達に施されている。
鏡の前で変わって行く自分を見ている。自分史上最高に綺麗でカワイイ顔だ。いつもと違う自分にかなり興奮してしまう。
控室の片隅にいつものボロボロのローブを纏ったダヴィードが腕組みをしている。彼はバタバタと慌ただしく支度している私の周りを見ながら、軽く微笑んでいる。
準備が整い、いよいよ挙式本番となる。
私とカイル様は城の中にある教会へと足を運ぶ。参列者はほとんど王族と貴族の方達ばかりだ。お金を持ってそうな上品な方しか見当たらない。ダヴィードの姿はここには無い。彼は遠慮して参加を辞退したのだろう。
私とカイル様は神父様の前で誓いを交わす。
「ヴァシリーサ、綺麗だ。君と結婚出来るなんて、私は本当に幸せ者だ」
カイル様が神父様の前で私を褒める。私は照れながら応える。
「ありがとうございます。カイル様もカッコイイですよ」
こうして無事に式を挙げ、大広間にて披露宴が行なわれる。ここでも王族と貴族の人間ばかりだ。結婚式の主役の私が一番場違いな所に居るなと感じてしまう。隣に居るカイル様が時折、私を気遣ってくれる。本当に優しい方だなと私は嬉しくなる。
披露宴も滞りなく終わり、私達は城から出た町をパレードする事となった。この国の国民に王女となる私を紹介する為のパレードらしい。私とカイル様は屋根の無い馬車に乗り、町の中央の道を進む。
私とカイル様は馬車の上から手を振って国民に応える。周りは大勢の平民達で溢れている。その平民達の間をすり抜けるように私達はパレードしている。
馬車の上から町の様子を窺う。手前のパレードに参列している平民達は暮らしぶりが良いのか皆、衣服もしっかりして笑顔だ。しかし、遥か後方に居る平民達は服もボロボロで痩せこけている。
私はこの町の現状を見ながら、考え事をする。
やはり、この国の平民は飢えているのだ。貧富の差がかなり激しい現状がうかがえる。王族と貴族は無駄に贅沢をしている。その代償を支払うように平民の最下層の人は空腹のままなのだ。
パレードも無事に終わり、やっと私は一息付くことが出来る。そして、カイル様と二人きりの夜が訪れる。
* * * *
私とカイル様は私達の寝室となる部屋で落ち着く。大きなカーテン付きのベッドが中央に設置されている。
これからここで彼と夜を共にするのだな。
私はこのタイミングしかないと決意を固める。
カイル様に私がヴァシリーサではなく、アルダである事を告白しよう。私は貴族ではなく、平民である事もキチンと説明する。私はそう決める。
これから夫となり、一緒に生きて行く人に隠し事はいけない。優しいカイル様なら、きっと分かってくれるはずだ。
カイル様はベッドに座っている。そんな彼に向かって私は話を切り出す。
「カイル様、大事な話がございます」
「どうしたんだい? ヴァシリーサ。そんなに改まって」
「カイル様にどうしても知っておいてもらいたいお話があるので」
カイル様は不思議そうな表情を浮かべている。
話を切り出したのだ。もう後には引けない。
私はモジモジしながら深呼吸をする。そして、ゆっくりと真実を述べる。
「私の本当の名前はアルダと言います。ヴァシリーサお嬢様とそっくりな顔だったので、影武者としてオガルコフ家に仕えていました」
カイル様の眉が動く。彼は黙って聴いている。私はドキドキしながら話を続ける。
「本物のヴァシリーサお嬢様はドン家の者に亡き者にされました。私はヴァシリーサ様の代役として、花嫁候補の争いに参加したのです」
「……何の冗談だ?」
低いカイル様の声が返って来る。少し恐くなったが、私は続ける。
「私は貧乏な農家の平民です。貴族ではありません。これから一生を共にする貴方だから、この真実を打ち明けました。今まで黙っていてゴメンナサイ」
私は頭を下げる。とてもじゃないが、カイル様の顔は見れない。しばらく沈黙が続く。彼の返答を待つ時間がとてつもなく長く感じる。カイル様は考えがまとまったのか、ようやく私に言葉を返す。
「もし……。もしだ、今の話が本当だとすれば、君とは離縁だな。私は王族の人間だ。選ばれた人間なのだ。悪いが平民などと結婚は出来ない。平民など奴隷だ。王族と貴族を豊かにする家畜と同じだ」
私の頭の中が真っ白になる。予想外の返事だ。彼なら本当の私を受け入れてくれる、そう信じていたのに。
私はニッコリと微笑む。そして、何事もなかったかのように冷静に返す。感情の変化を悟られぬように。
「ゴメンナサイ。カイル様を少しからかってみました。冗談です。驚きましたか?」
「もう、止めてよ。ホント、ビックリしちゃったよ。その手の冗談はきついよ。私は平民が大嫌いだから、二度としないでね」
私は表情を崩さない。笑顔のままだ。でも、拳はギュッと握っている。
これでハッキリした。私の気持ちがハッキリと。
私の百年の恋はここで冷めた……。
今まで読んで下さり、本当にありがとうございます。
次回で最終話になります。
長い間のお付き合い、感謝致します。




