結婚式前日
「ダヴィード」
自分の為に命を懸けて戦ってくれた悪魔の名を叫ぶ。彼の元に駆け寄り、私はダヴィードを抱きかかえる。
彼は背中からかなりの血を流している。呼吸も荒い。早く治療をしなければ、命に関わる。
私は周りを見回し、再び大声で叫ぶ。
「騎士団長、居るんでしょ。出て来なさい」
遥か向こうで避難している騎士達に声が伝わる。騎士達も戦いが終わった事に気付き、慌てて私達の所へ走り寄って来る。ダヴィードを抱きかかえている私の前に騎士団長が姿を現す。
「ヴァシリーサ様、ご無事ですか?」
「私は大丈夫です。彼を、ダヴィードを早く助けて」
騎士達が血まみれのダヴィードを見つめる。そして、大勢でダヴィードを抱え、別荘の中へと連れて行く。私も騎士達に付き添い、ダヴィードの様子を窺う。
「絶対に死なせないで。お願い」
私は大粒の涙を流しながら、担ぎ込まれて行くダヴィードに付いている。
こうして、私達の悪魔との戦いは幕を閉じた。
* * * *
そして、数日の時が流れる。気が付けば、結婚式前日だ。
私はカイル様から貸して頂いた別荘に滞在したままだ。今はその別荘の一室に居る。部屋を見回す。
壁際に庭の見える窓が付いている。部屋にはタンスと机が置かれており、壁にはシングルベッドがくっついている。その簡素なベッドに横たわる人物が居た。ダヴィードだった。
「もう、大丈夫なの?」
包帯でグルグル巻きのダヴィードに私は声を掛ける。
「あぁ、大丈夫だ。回復魔法と薬草で止血してくれたんだろ? 助かったよ。ありがとう」
ダヴィードは首と目だけ動かし、私に応える。
ダヴィードは"死の悪魔"との決戦の日から今の今まで、目を覚まさなかったのだ。一時期は本当に助からないかもという危険な状態だった。安心した気持ちにやっとなり、私は涙を流す。
「いえ、お礼を言うのは私の方よ。今まで助けてくれてありがとう。あなたが居なかったら私はこうして生きていなかった。本当にありがとう」
私は頭を下げる。涙が止まらない為、大粒の涙が床に零れ落ちる。
「そういうの止めろ。俺が好きでやった事だと言ってるだろ。知的好奇心を満たす為だと。ただの暇つぶしだ。気にするな」
「そうね、いつもそう言ってたわよね。ずっと意味が分からなかったけど、やっと意味が分かったわ」
寝ているダヴィードの表情を見る。彼は照れているのか私から視線を逸らす。そんなダヴィードを見ながら、私は悩んでいる事を打ち明ける。
「ねぇ、ダヴィード。私、このまま王子様と結婚しても良いのかな?」
ダヴィードがどうしたんだというような表情で私の顔を見る。そしてまた視線を逸らし、無感情で応える。
「良いんじゃねぇのか。今までの戦いを勝ち抜いて来た権利だろ」
「でも、私は元々貧乏な農家の平民よ。ヴァシリーサお嬢様の影武者をやる為に無理やり連れて来られただけの女よ。そんな私が王女になってもホントに良いの?」
「さぁ。でもそこは重要な問題じゃないだろ? 結局、アルダが王子と結婚したいかどうか、それだけが大事な事なんじゃねぇのか」
なるほど、ダヴィードらしいな。
納得して、私は微笑む。
そうだ、私は自分らしく生きたいように生きると決めたんだ。
迷いは吹っ切れた。でも……。
私はもう一つ知りたい事を確認する。本気で聴くとまたはぐらかされるので、冗談ぽく軽く質問を試みる。
「ダヴィードはそれでいいの? 私、お嫁に行っちゃうよ。私の事が好きなら止めないと後悔しちゃうよ」
ダヴィードは眉根を寄せる。不快な顔を私に見せると不機嫌そうに応える。
「だから、そういう感情はねぇよ。何度も言わせるなよ。あったとしても無理だろ。あんたは王子様にゾッコンだし、あんたには俺の洗脳魔法が効かないし」
「いや、分かんないわよ。王子様より俺を選んでよって、試しにお願いしてみれば。私の気が変わるかもしれないよ」
私は笑いながらダヴィードをからかう。ダヴィードは顔を引きつらせながら、私に背を向けるように寝返りを打つ。私から表情が見えない状態でダヴィードは力強く言葉を掛ける。
「アルダ、幸せになれよ。今まで不幸だった分、思いっ切り幸せに」
「うん、ありがとう。あなたへの恩は一生忘れない」
私はそう言って、ダヴィードの休んでいる部屋を出て行く。そして、別荘の廊下を歩きながら、漫然と考える。
私はダヴィードに結婚を止めて欲しかったのか?
どこかで王子の花嫁なんて止めて、俺と一緒にならないか、なんて言葉を期待していた自分が居る。
ダヴィードからは洗脳魔法を受けていない。なぜなら、私は魔法を一切受け付けない体質だからだ。私は彼に洗脳などされていなかったのだ。
では、なぜこんなに彼の存在が大きくなっているのだ?
私はカイル様じゃなく、ダヴィードを本気で愛してしまったの?
答えの出ない疑問がつきまとう。
王子様との結婚式は明日なのだ。こんなに心が揺れ動いてはカイル様に失礼だ。
これはマリッジブルーの一種なのだ。私はそう思い、明日の結婚式に挑んだ。
小説を読む方は頭が良く、人の気持ちの分かる人だと聴きます。
そんな優秀な読者の皆さんの為に、面白い小説を書いていきますので、これからも読んで頂けると大変嬉しいです。
もし良かったら、今後も宜しくお願いします。




