最高にいい女
真実を知って驚いていた私はまた敵に注意を戻す。ファシーとケイデスも落ち着きを取り戻している。ファシーはケイデスの両手を掴んでお願いを始める。
「先生、魔法が効かなくても、先生なら殺せるんでしょ」
「いやぁ、ホントにビックリした。変わった体質の人が居るんだね。世界は広いや。俺の即死魔法が効かない人間なんて初めてだ。ダヴィードが興味を持つのも無理はないね」
ケイデスは納得した表情で応える。そしてローブをめくり腰の辺りをゴソゴソと触り始める。そこからケイデスは短剣を取り出す。鞘から短剣を抜き、右手で構える。
「魔法以外で人を殺すのって何年ぶりだろう。ニセモノちゃん、君は面白い人間だけど、ファシーちゃんとの契約があるからね。ゴメンね。やっぱり死んでもらう」
私とダヴィードはケイデスに注意を向ける。正面を向いたままダヴィードは私に話を続ける。
「魔法耐久力の話をアルダに内緒にしてたのは、この情報を敵に知られたくなかった事もある。奴等は魔法使い。必ず魔法であんたを殺しに来る。しかし、今のようにバレてしまったらどうなる? そう、物理攻撃に移行することになる」
「あなたがベラベラ喋ってバレたから短剣出して来たんでしょうが」
「俺が説明しなくても、ケイデスは気付く。俺がアルダに魔法を掛けた時のように。ベラベラ喋ったのはアルダに分かるように教える為だ」
私に批判されたダヴィードは納得のいかないような顔で返す。彼の気持ちは放っておいて、私は次の話に移る。
「これで有利になったわ。作戦はあるの?」
「有利じゃねぇよ。状況はそんなに変わらない。なぜなら、ケイデスの即死魔法を俺が受ければ、俺は死ぬからな」
「だって、あなたも魔法耐久力があるんでしょ?」
「多少あるけど、あんたほどじゃない。奴も言っていただろ。ケイデスの即死魔法で死なない奴はアルダくらいだって」
私は愕然とする。確かにそうだ。私が魔法が効かなくても、ダヴィードが先に死んでしまったら、この戦いは詰みだ。
ケイデスが左手を伸ばす。そこから即死魔法の光が放たれる。光は私の隣に居るダヴィードに襲い掛かって来る。ダヴィードは再び左右に動き、光を交わす。が、隣に居たダヴィードは私から距離を離される。
ケイデスが私の目の前まで迫る。ダヴィードは即死魔法を避けた為、私の近くには居ない。
早い。ダヴィードが間に合わない。殺される。
ケイデスが短剣を振り上げる。”死の悪魔”はニヤリと笑みを見せる。ケイデスの短剣は私の首目掛け降って来る。
ダメ、それは無理。終わった……。
「ケイデス、甘いぞ」
ダヴィードの声が聴こえたと同時にケイデスの動きが止まる。ケイデスの肩に小石が当たり、小石が芝生に転がる。何が起こったのか瞬時に私は理解する。
ダヴィードの間接魔法攻撃だ。小石に洗脳魔法を掛け、それをぶつけてケイデスの動きを封じたのだ。
と、安心したのも束の間。
「やっぱり占いの結果通りだ。俺の勝ちだ、ダヴィード」
ケイデスはそう告げると、短剣を私に振り下ろす。グシャという鈍い音と共に鮮血が辺りに飛び散る。
私の頬に血の雫が雨のように伝う。私は目を見開き、状況を確かめる。
ダヴィードが覆い被さるように私を抱き抱えていた。ケイデスの短剣はダヴィードの背中に突き刺さっている。ケイデスはダヴィードの背中から短剣を引き抜く。血がまた溢れ出す。冷静なケイデスは左手をダヴィードに向ける。
左手から死の光が放たれる。光は真っ直ぐダヴィードへと向かう。
イヤだ。ダヴィード、死なないで。
私はダヴィードの前に立ち両手を広げ、壁を作る。光が私の身体に触れる。光は私の身体を貫通出来ずに留まる。
ケイデスが眉根を寄せ、私を見る。そして、血だらけの短剣を私に振り上げる。
「アルダ、あんたは最高にいい女だぜ」
ダヴィードはそう言うと私の身体を払いのける。そして、短剣を振り上げているケイデスに手を伸ばす。ダヴィードの右手がケイデスに触れる。ケイデスは驚き、私からダヴィードに視線を移す。
「ケイデス、勝負ありだ」
ダヴィードは呟くと、ファシーに顔を向ける。
「ケイデス、ファシーに即死魔法を」
ダヴィードがケイデスに命令すると、ケイデスは放心状態で左手をファシーに向ける。そこから、死の魔法が放出される。死の魔法の光は一直線に進み、ファシーに狙いを定める。
「いや、王女になるのは私なの、いやぁ」
ファシーが叫ぶと同時に、彼女の身体を死の光が貫通して行く。ファシーは膝から崩れ落ちる。そして、芝生の上にうつ伏せで倒れる。それを確認したダヴィードはケイデスに次の指示を与える。
「ケイデス、今度は自らに即死魔法を掛けろ」
ケイデスは左手を胸に当てる。そして、自分自身に死の光を放つ。光がケイデスの身体を貫通し、上空に上がって行く。ケイデスは絶望した表情を浮かべながら、その場に倒れる。ダヴィードは倒れた二人を一瞥すると、私に身体を向ける。
「全て終わったな」
ダヴィードは私に呟くと、力尽きたように前のめりで倒れる。
読んで頂きありがとうございます。
読者の皆さんに支えられて何とか書き続けられています。
あともう少しでこの小説も終わりを迎えますので、もう少しお付き合い頂ければ幸いだと思っています。




