お許し下さい
私が王女になってから、数日後の事だ。
カイルの父である国王が演説をする為に国民を集める。
演説会場は王城の広場だ。広場の高台には王族や貴族達が並んでいる。私はもちろんこちら側に参列している。王が高台の正面に立ち、平民達を見下ろしている。国王は平民達を見渡すと声を上げる。
「今日、皆の者に集まってもらったのは他でもない。我が国の新しい政策を聴いてもらおうと思う」
平民達は沈黙し、王の次の言葉を待つ。
「これからは平民達の税を緩和する。そなた達に負担をかけ過ぎておった。誠にすまなかった。これからは王族、貴族達の贅沢品も禁止する事とする。その贅沢品に当てた財をそなた達、平民に還元する。これからは誰も飢える事の無い、そのような国を作って行く。これからもこの国を支えてくれ」
国王が頭を下げる。それを見た平民達が驚き、歓喜を上げる。王族と貴族達も目を見開き、そんな話初めて聴くぞ、というような驚きの表情をしている。
「国王、そんな話受け入れられませぬ。平民達に重税を課せなければ、我々の生活水準が下がってしまいまする」
王族、貴族の人間が口々に叫び、慌てふためいている。しかし、王は毅然とした態度で応える。
「贅沢などせずとも、そなた達は生きていけるであろう。しかし、平民達は違う。飢えて亡くなっている者達が居るのだ。これはすでに決定事項だ」
王の言葉により、王族、貴族達はその場にへたり込む。そんな彼等を見ながら、私は口元を抑え微笑む。
「カイル様、貴方からも王を止めてくだされ。そんな事をしたら、貴方も質素な生活をしなくてはなりませぬぞ」
貴族の一人がカイルにすがりつく。カイルはその貴族を冷たく一瞥した後、感情を込めずに応える。
「私も父の意見に賛同している。この政策は絶対だ」
王族と貴族達は呆然としている。私は彼等を横目に見た後、私の後ろにいる悪魔を見つめる。
なぜ、国王とカイルがこうも変わったのか?
答えは簡単だ。
私がダヴィードに彼等を洗脳するように頼んだからだ。
* * * *
結婚式のあった夜、私はダヴィードに会いに彼の部屋を訪れる。彼は驚いた顔で部屋のドアを開ける。私はそんな彼を押し退けて強引に部屋に入る。
「ねぇ、ダヴィード。お願いがあるの。国王と王子を魔法で洗脳して」
「アルダ、言ってる事が分かってるのか? そんな事すれば、歴代最悪の王女になっちまうぞ」
「構わないわ。あの国王と王子では国民は飢えて死んでしまうの。そんなの見てられない。私は平民のみんなを救いたいの」
「それは分かるけど。王子の事はどうするんだよ? 愛してないのか?」
「その事ね。私、カイルの事、嫌いになっちゃった。あの人、自分の事は王子という肩書きで見ないでくれって言ってたのに、私を平民という肩書きで愛せないとか言うんですもの。頭に来ちゃった」
「あらま、結婚初日で離婚するつもりか?」
「そうしたいんだけどね。そうするとあの国王と王子が政権を持つから。それは許せないの」
「つまり何か、俺があの二人を洗脳して、あんたが影で操るって事か?」
「そういう事。話が早いわね」
「いやいや、悪魔の俺もそこまで悪い事は出来ないぜ。あんた、そこまでやる気なの?」
「えぇ。みんな幸せになって欲しいから」
私の答えに迷いは無い。これが自分らしい生き方だ。私はダヴィードの顔をじっと見つめ、大事な事を確認する。
「ダヴィード、私は貴方の事を愛してる。貴方の気持ちはどうなの?」
「え……」
ダヴィードは驚いた顔で固まっている。とても困った表情をしている。が、急にフッと笑い出す。
「本当に最悪な女だな。誰がそんな風に変えたんだよ?」
「あなたよ、ダヴィード。全部あなたが悪いのよ」
「チッ、そうか。仕方ねぇな。愛してるぜ、アルダ。」
ダヴィードは私を抱き締める。私は彼の胸でうずくまる。ずっと離れたくない。私はそう思い、彼の身体をギュッと抱き締めた。
* * * *
一方、私とカイルの関係はと言えば……。
「ヴァシリーサ、愛してるよ」
カイルが私に抱きついて来る。ここは従者などが見ている大広間だ、人目をはばからず、イチャイチャして来る王子に皆、少し失笑している。そんな王子に対し、私は微笑み、言葉を返す。
「私もよ、カイル。愛してる」
カイルは私を溺愛するよう洗脳魔法を掛けておいた。だからカイルは難しい事を考えずに、幸せそうに日常を送っている。何も問題はない。
私はカイルと離れた後、人目につかない部屋でダヴィードと密会する。私とダヴィードは見つめ合い、抱き締め合う。
「いいのか、王女様。こんな所で悪魔とこんな事しても」
「いいのよ。私を大事にしない男の事なんて知らないわよ。だから、貴方も私を大事しないなら捨てちゃうから」
「恐いね。俺は一生アルダの事を大事にするよ」
「本当?」
「本当だ。悪魔は契約は破らない」
そう言って、ダヴィードは私にキスをする。
私は天を仰ぎ、遠く離れて住んでいる両親の事を想い始める。
お父さん、お母さん。
あなたの娘は悪魔の力を借りて、この国の王を影で動かす事になりました。
どうやら、私はニセモノの悪役令嬢から本物の悪の王女になったみたいです。こんな娘をお許し下さい。
ま、でも、いいよね。国民のみんなはお腹いっぱいご飯を食べられるし、カイル王子も幸せそうだから。
近い内に大好きな人を連れて行きます。ビックリしないで下さいね。
読んで頂きありがとうございました。
この小説はこれで終わりになります。
また良かったら、次の作品も宜しくお願いします。
長い間、本当にありがとうございました。




