貴族娘の執念
私とダヴィードはファシー嬢と”死の悪魔”ケイデスと対峙する。私の頬を風が伝い、長い髪がなびく。
ここは広い芝生の庭だ。木々も一本も生えていない。隠れる場所も回避できる場所も無い場所だ。
接近戦主体のダヴィードはまたもや不利な状況に置かれている。ケイデスの即死魔法は光を複数放つ遠距離攻撃型だ。
洗脳魔法は確かに便利だけれど、魔法使い同士の戦いは絶対的に不利。もう少しどうにかならなかったの。
と、毎度のことながら思う。でも、当人のダヴィードは何も気にして無いようだ。
すると、”死の悪魔”ケイデスが手を上げ、発言をする。
「ねぇ、戦いが始まったらさ、一瞬で決着が着くかもしれないじゃん。何かお互い最後に話しとく事とかないの?」
「先生、無いわ。無駄な時間だから喋らないで下さい」
「せっかちだな、ファシーちゃんは? そっちのニセモノちゃんは無いの?」
敵悪魔に話を振られる。せっかくなので私は敵のお言葉に甘え、ファシーに話し掛けてみる。
「ファシーさん、ちょっといいかしら?」
「良くないわよ。話なんていいから早く死んで頂けないかしら」
機嫌が相変わらず悪い。私は確かめたい事があった為、ファシーに尋ねてみる。
「あなた、王子様、いえカイル様の事、本当に好きなの?」
ファシーの動きが止まる。彼女は一点を見つめ、私に返して来る。
「何が言いたいの?」
「あなたの行動、そして言動から気付いたの? あなたは王子としてのカイル様じゃなくて、一人の男性としてカイル様の事を愛しているんでしょ?」
しばらくファシーは沈黙し、考え込む。そして、身体の中に溜まったストレスを吐き出すかのように喋り始める。
「えぇ、そうよ。子どもの頃からずっとカイル様の事が好きだった。大好きだった。それをあんたが奪おうとしているの。だから、殺すの。いけないのかしら? 私の邪魔をしないで頂戴」
ファシーは興奮している。肩で息をして、顔も真っ赤だ。そんな彼女を見ながら、私は冷静に話をする。
「やっぱり。同じ女性同士だから、そんな気がしたの。そっか。あなたもカイル様の肩書きじゃなくて、人柄を好きになったのね」
私はウンウンと頷く。私はファシーに共感をする。
「何それ? カイル様が私を選ばずに、ニセモノのあんたを選んだ事でいい気になってるのかしら? 調子に乗らないで頂ける」
ファシーは腕組みをし、少し冷静さを取り戻す。そして、意地悪そうな笑みを浮かべ話を続ける。
「いい事を教えてあげる。もし、婚約中のあんたが死んだ場合、どうなると思う? 花嫁候補者は私だけになるわけ。つまり、カイル様があんたを想おうとなかろうとあんたが死んだ時点で私が王女になるの。確定なの。ご理解頂けて?」
「それでファシーさんは構わないの?」
「構わないわ。結婚してからでもいい。私がカイル様を好きにさせてみせる。ニセモノのあんたなんか、すぐに忘れさせてみせるから」
スゴい執念を感じる。ファシーのカイル様を想う気持ちは本物だ。
昔の私ならその執念に押され、カイル様を譲っていた。王女の座を降りていた。でも、カイル様の気持ちを知った今、私も退けない。ファシーに勝たなければならない。けど……。
私はなおもファシーに質問をする。
「じゃあ、あなたが王女になったら、この国をどうするつもりなの? この国の人達、平民の人達をどうするつもりなの?」
「はぁ? そんな事どうでも良くなくて? 王女の仕事は王子様と幸せに暮らすの。そして、王子様の子どもを産むの。平民? どうでもいいわよ。くだらない事、言わないで頂戴」
この言葉で私の決心は固まる。
同じ男性を愛した事で共感し、危うく迷いが生じる所だった。でも、もう迷いは無い。
この女性を王女にしてはいけない。自分の幸せしか考えていない。この女性は王女に相応しくは無い。
最後に私はファシーに告げる。
「やっぱり、あなたには王女は譲れない。譲りたくはない」
「だから、最初から奪い取るって言ってるでしょ。先生、お願い。あの女を早く消して。ムカつくわ」
ファシーはケイデスにすがりつくように頼む。ケイデスは笑みを浮かべながら話し掛けて来る。
「いやぁ、女性同士の戦い。面白かったね。ダヴィード、君もそう思わなかったかい? この機会を設けて良かったよ。いいものが見れた。じゃ、そろそろ俺達も始めようか。どちらが最強の悪魔なのかをハッキリさせようよ」
ケイデスがファシーの前に出る。ダヴィードも私の前に出て敵を睨んでいる。
ケイデスが右手を前に出す。そこから、複数の光が放たれる。即死魔法だ。あれに身体を貫かれれば即座に死ぬ。光は生き物のようにダヴィードに襲い掛かる。
ダヴィードは持ち前の身体能力を生かし、全て交わしている。なおも光はダヴィードを追い掛けるように狙いを定めている。ダヴィードはターゲットを私にされないように私から離れて行く。
「スゴいね、ダヴィード。この魔法をここまで交わせるのは君くらいだよ。動きが魔法使いじゃないよね。まるで勇者のような動きだよ。立派、立派」
ケイデスはダヴィードを褒めた後、冷たい表情に変わる。そして、私に視線を合わせる。"死の悪魔"はダヴィードと離れた私に向かって死の魔法を放つ。
「え……」
私は声を上げる。その瞬間、私の身体を死の魔法の光が貫通して行く。
「はい、終わり。皆さん、お疲れ様でした」
ケイデスはそう告げ、私に背中を向けた。
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