この国の悪の王女に
こうして、カイル様がお帰りになる時間となる。私とダヴィードは王子様一団を見送る。王子様が私を見ている。
「ヴァシリーサ、次に会う結婚式当日の日まで無事でいてくれ。念の為、騎士達の数を増員しておいた。本当は私もここに留まり、君と居たいのだが」
「カイル様は公務を請け負う忙しい身。私の為にばかり時間を取らせる訳にはいきません。それに騎士の方達は優秀な方ばかり。なので心配いりませんわ」
「うむ、そうか。すまない。迷惑を懸ける。では、結婚式当日に」
「はい、カイル様もお気をつけて」
カイル様一団がお城へと帰って行く。私とダヴィードは彼等を見送る。そして、彼等が見えなくなった辺りでダヴィードが話を始める。
「奴等が来ているな」
「えぇ、私、見たわよ。どこで戦うの?」
「今日はやけに好戦的だな。いつもみたいに戦いを避けたいのって言わないのか?」
「あの二人には何回も言ったけど、無駄だった。それだけよ」
私が冷たく応えると、ダヴィードは肩をすくめる。そして、笑みを浮かべ別荘の庭の方へと足を向ける。
「じゃ、この別荘の広い庭で最後の戦いと行きますか」
彼はそう言うと別荘の庭へと歩を進める。私はダヴィードの背を見ながら付いて行く。私の周りは殺気立った騎士達で囲まれている。騎士達もここが戦地であると理解しているみたいだった。
私とダヴィードは庭へと到着する。整った芝が広がる大きな庭だ。
そこにはすでに先客が居た。例の二人組だった。ピンクのドレス姿のファシー嬢と白ローブ姿の”死の悪魔”だ。ファシー嬢は扇子で口元を隠し、上品に私に挨拶をして来る。
「またお会いしましたわね、ニセモノさん。何しに来たかご説明致しましょうか? オホホホホ」
「大丈夫よ、ファシーさん。さすがに分かるから」
「話が早いから助かりますわ。こちらは頭に来すぎて今すぐ消し去ってやりたいと思ってましたのよ。私の王子様に媚を売るニセモノの泥棒猫さんを地獄にね」
「私も大人しく、はいそうですかと命を差し上げるわけにいかないから抵抗するわよ」
私が応えるや否や、護衛の騎士達が私を護るように壁を作る。皆、剣を抜き、盾を構えている。彼等は私の為に命を投げ出そうとしている。騎士団長が私の方に振り返り声を上げる。
「ヴァシリーサ様、ここは我等におまかせを。必ず命に代えてもお守り致します」
「結構よ。騎士達は皆、下がりなさい」
「しかし、それでは……」
「王女となる私の命令が聴けないのかしら。下がりなさいと言ったら、下がりなさい。二度と言わないわよ」
私は語気を強める。騎士団長並びに騎士達は驚きの表情を見せ、戸惑っている。
もう誰にも死んで欲しくないのだ。だからお願い、余計な事はしないで。
騎士達は渋々庭の外れへと下がって行く。王子様に何らかの罰が与えられるのではと、恐れているように見えた。
騎士達が居なくなった事で広い芝生には四人だけとなった。ファシー嬢の隣には”死の悪魔”。私の隣には”洗脳の悪魔”が居る。ファシー嬢の顔が真っ赤になっている。例の如く怒っているようだ。
「おやおや、ニセモノの平民風情が言うようになったわね。誰が王女ですって。王女はこの私よ。勘違いしないで。ムキーッ」
ファシー嬢が大声で叫ぶ。ヒステリーを起こしているようだ。相手の感情に流されないように私は冷静に返す。
「カイル様の騎士にはあなたも手は出したくないんでしょ。私もそう。彼等に死んで欲しくないの。初めて利害が一致したわね。私達、お友達になれるかも」
隣のダヴィードがお腹を抱えて笑い出す。こんなに大爆笑している彼を見るのは初めてだ。
緊張感がないわね。今から命を懸けた戦いだと言うのに。
冷たい目で彼を一瞥した後、ファシー嬢を見る。ファシー嬢は”死の悪魔”ケイデスにおねだりを始める。
「ねぇ、先生。今日こそは、ホントに今日こそはあの忌々しいニセモノの女を殺してくれるんですよね? もうさすがに待てませんよ。今すぐ瞬殺して」
白ローブを纏ったケイデスは腕組みをし、口を開く。
「任せなよ、ファシーちゃん。今日の俺の占いの結果知ってる? 絶好調だってさ。今日のあなたは無敵です。どんな相手も敵わないでしょう、だってさ。だから、今日の俺は負ける気がしないのよ。だから、君たちを逃さない。ダヴィード、君とは今日でサヨナラだ」
向こうも今日はやる気だ。私は警戒心を強め、ゴクリと唾を飲み込む。そして、頼りの味方悪魔を見つめる。彼はまだ笑っている。笑いながら私に話し掛ける。
「アルダ、アンタ変わったな」
「え、そう?」
「あぁ、いい感じだ。この国の悪の王女に相応しいぜ」
「そうね。これだけ多くの人達が私達の為に死んで来た。もう十分悪女と呼ばれてもおかしくないわよね」
私も笑って返す。ダヴィードは不敵な笑みを浮かべる。
そうだ。私も自分の事を清廉潔白な女性だとは言い難い。だったら、どれだけ汚い女と言われてもいい。思うように、後悔の無いように、自由に生きさせてもらうわ。
敵二人を私は睨み付ける。ダヴィードも首や肩を回して準備運動を始めている。
私の最後の戦いが始まる――――。
勝てば王女、負ければ死……。
決戦の火蓋は切って落とされた。




