惚れちやったの?
ダヴィードが一息ついてから話を切り出す。
「アゲリーナ嬢よ。分かっていると思うが、アンタは負けたんだ。しかも、そちらから戦いをふっかけてだ。残念だが、そういう事だ」
ダヴィードがソファから腰を上げる。アゲリーナは覚悟したのか、下を向き目を閉じる。辛くなった私は彼女から目を背ける。
「アルダ、見たくないなら、部屋から出ていろ。言っておくが、止めても無駄だぞ」
ダヴィードの言葉で私は席を立つ。アゲリーナが死ぬ所など見たくはない。部屋の外に出ようと出口に身体を向ける。
その瞬間、ダヴィードが大声で叫ぶ。
「アルダ、伏せろ!」
その声に驚き、私は振り向く。ダヴィードが私を覆うように抱きついて来る。私とダヴィードは床に転がるように倒れる。
すると、部屋の壁から何本も光の直線が入って来る。光は外側から部屋の壁を貫通して来たものだ。
これは魔法だ。
以前、見た事のある光景に頭が刺激される。どこで見たのか。私は恐怖と共に記憶を蘇らせる。
即死魔法だ。"死の悪魔"が使っていたあの魔法だ。
「ダヴィード、これって死の魔法なの?」
「そうだ。あの野郎。もう攻めて来やがった」
ダヴィードと私は伏せながら移動する。光はアゲリーナを貫通している。アゲリーナはニコッと笑うと、最期の言葉を告げる。
「ファシーの奴が来たのね。アンタなんかに幸せになられてたまるものですか。地獄で待ってるわよ」
アゲリーナが崩れるように椅子から倒れる。彼女は"死の悪魔"に殺されたと私は判断する。私とダヴィードは這いながら、部屋の外へと抜け出す。
部屋を出ると私達は立ち上がり、周りを見回す。退路を探しながら、隣の悪魔に訊ねる。
「どうするの? ダヴィード。戦うの?」
「相手がどこに居るか分からねぇ。明らかにこちらが不利だ。だから、逃げる」
頼もしいのか頼もしくないのか、よく分からない答えを導いた悪魔に私は仕方なく付いて行く。向かっているのは、どうやら宿屋の裏口のようだ。
裏口のドアを手に掛け、ドアを開く。すると、目の前に見た事のある二人組が現れる。
「あら? ニセモノのアルダさん。またお会いましたわね。ホント奇遇ですわね。オホホホ」
ドン家のファシーお嬢様が口元に手を当て、笑っている。隣に居るのは白のローブを纏った細身の男だ。それが"死の悪魔"だと私は直感した。
ダヴィードが私を庇うように前に立ち、敵二人に話し掛ける。
「婚約が決まったから、祝福しに来たのか?」
「おバカさんですの、そちらの悪魔さん? ニセモノの花嫁さんを殺しに来たに決まってるでしょ。ついでにアゲリーナの奴も殺せちゃった。わたくしって本当に要領がいいですわ、オホホホ。やはり、この国の王女になるべきなのは、わたくしですわね」
ファシー嬢は羽根のついた扇子を片手に口元を隠している。相変わらずこんな所にでも豪華なドレスでお越しだ。暗い夜空の中、町の明かりが男女四人を照らす。
好き勝手言い過ぎよ。
私の我慢も限界に来たので、負けじとファシー嬢に言い返してやる。
「カイル様に争いは禁止と言われたでしょ? 貴族の称号を失ってもいいの?」
「そんなのどうとでも揉み消せるわ。そうやって今までやって来たの。そして、これからも。ご心配なさって頂いて感謝致しますわ。オホホホ」
脅しても向こうは怯まない。戦うしかないのか。私は隣の味方悪魔を窺う。ダヴィードは無言で"死の悪魔"を見ている。
ファシーが"死の悪魔"を見ながら、お決まりのおねだりをする。
「ねぇ、先生。今日こそはあの二人、殺して頂けますわよね?」
色白な"死の悪魔"は表情を変えずに淡々と応える。
「そうだな。今日の占いの運勢は普通。可もなく不可もなくか。でも、横槍に注意しましょう、だってさ。仕方がないなぁ。面倒臭いんだけど、お仕事しますか」
"死の悪魔"がファシーの前に出る。ダヴィードも私の前に出て、二人の悪魔は睨み合う。すると、"死の悪魔"が意地悪そうな笑みを浮かべ、会話を始める。
「ひょっとしてダヴィード、そのニセモノの女の子に惚れちゃった?」
意外な事を聴いて私は驚き、ダヴィードの顔を確認する。ダヴィードは眉一つ動かさず敵の悪魔の動向を窺いながら応える。
「そんなんじゃねぇよ。ただの暇つぶしだ。お前こそ、何でそのお嬢様に付いたんだ?」
「ファイスとポイゾネが貴族の争い事に参加したから。アイツらと本気で戦ってみたかったからね。でも、先にダヴィードが倒しちゃうんだもの。予定が狂っちゃったよ」
"死の悪魔"は顎に手を当てて続ける。
「ホントの事を言うと、一番本気で戦ってみたかったのはダヴィード、君だ。何でかって言うと、一番強いから。俺には分かっていたよ。君は強さを隠してた。みんなに分からないようにね。そんな君を倒して、俺が最強の悪魔として歴史に名を残す。てのが、理由かな? 俺も暇つぶしなるのかな?」
"死の悪魔"は子供みたいに目をキラキラさせている。ダヴィードも相手をバカにするような表情をし、冷たく返す。
「厨二病かよ、お前は。まぁ、三悪魔の動機の中では一番笑える答えだがな」
「いや、君の動機が一番笑えるよ。確信した。君はニセモノの女の子に恋をしている。なのに、洗脳魔法も掛けずに王子に譲っちゃうの? 純愛だね」
小説を読む方は頭が良く、人の気持ちの分かる人だと聴きます。
そんな優秀な読者の皆さんの為に、面白い小説を書いていきますので、これからも読んで頂けると大変嬉しいです。
もし良かったら、今後も宜しくお願いします。




