悪魔の動機
私の頭の中がまたパニックになる。
ダヴィードが私の事が好き? 私に恋愛感情を持っている? でも、洗脳魔法は使っていない? どういう事?
ダヴィードの顔を見つめる。彼は無表情で"死の悪魔”を見ている。そして、ゆっくりと彼は反論する。
「お前、バカなのか? 何で俺が惚れた女を洗脳しないで、他の男に譲ったりするんだ。好きな女なら確実に洗脳して自分の物にする」
それはそうだ。それが普通だと私も思う。という事は、ダヴィードは私に恋愛感情を抱いてはいない。やっぱりそうなのか。そうなるわよね。
そう結論付け、巧みに誘導している"死の悪魔"を睨む。"死の悪魔"はなおも笑顔で論破して来る。
「いや、違うよ。ホントに好きな相手だからさ。洗脳魔法を使いたくないんだよ。そんな卑怯な手を使うのはいけないと純情な君は感じているんだ」
「俺が純情? ふざけているのか、ケイデス。そうやって俺の心を揺さぶっているつもりか? 無駄だぞ」
ダヴィードは"死の悪魔"の名を呼び、眉根を寄せる。かなりイライラしているみたいだ。
「いやいや、君みたいな姑息な心理戦なんてしないさ。ただ俺は真実が知りたかったんだよね。"洗脳の悪魔"を動かした本当の動機ってヤツを。でも、分かったよ。俺の思った通りだ」
ケイデスはまた意地悪そうな表情を浮かべ、舌を出す。ダヴィードは拳を握り締め、今にもケイデスに殴り掛かりそうな勢いだ。
すると、退屈そうに話を聴いていたファシーが会話に割って入る。
「先生、あの悪魔がニセモノに恋しようが何しようが私には関係ないでしょ。早くあの二人を殺して、私を王女にして下さいよ」
「そんなに怒んないでよ、ファシーちゃん。ダヴィードを茶化すのが楽しかったんだよ。さ、今からビジネスをするよ。はい、切り替え、切り替え」
ケイデスが肩を回し、首を左右に動かしている。ダヴィードはさらに厳しい表情を浮かべ、敵の攻撃に備える。
その時だ。暗闇の向こうからバタバタを複数の足音が聴こえて来る。大勢の人間がこちらに近付いて来る。私達と敵二人は足音のする方へ視線を移す。
暗闇の中、町の大通りを走って来たのは白い鎧を纏った騎士達であった。先頭の白馬に跨った騎士が私の前で止まる。
「大丈夫でございますか、ヴァシリーサ様」
「はい、大丈夫です。あなた達は?」
「我々は王子カイル様より派遣された騎士団でございます。今からあなた様の護衛に入ります」
騎士団長らしき男が述べる。カイル様が言っていた護衛だと分かり、私は安心する。
"死の悪魔”ケイデスがファシー嬢の一歩前に出る。不機嫌そうな顔をし、首を左に傾けている。
「ファシーちゃん、コイツら皆殺しで構わないの?」
ケイデスの言葉でファシーはしばらく考える。
「ダメ、殺しちゃダメ。だって、王子様の保有している騎士だもの。殺しちゃったら、私嫌われちゃうかも。ダメダメ、それだけは絶対にダメ。先生、止めて」
「じゃあ、どうするのさ?」
「逃げましょう、先生」
と言って、ファシー嬢は背を向け、走り出す。ケイデスは、「え、マジ」」と言って呆然としている。そして、私達を一瞥すると、ゆっくりと向こうに歩いて行く。まるで、追って来たら殺すぞと言わんばかりの気迫だ。
一難去ったと私はフーッと一息をつく。ダヴィードの顔をチラリと見る。彼も警戒心を解き、力が抜けている。私はケイデスの言った言葉を思い出し、ダヴィードの表情が見れなくなる。
私の事が好きだから、協力してくれているの?
ダヴィードに聴きたい衝動に駆られるが、その言葉を心の中で留める。聴いてはいけない質問だと私は自分を戒める。
すると、騎士団長らしき男が私に近寄って来る。
「ヴァシリーサ様、オガルコフ領はやはり危険ではないかとカイル様が心配されておられます。カイル様の所持されておる別荘に移り住んで頂けませんか?」
私はどう返事をしていいか分からず、ダヴィードのを見る。ダヴィードはコクリと頷く。
「分かりました。カイル様の別荘の方へお邪魔させて頂きます。案内宜しくお願いします」
こうして、私とダヴィードは次の場所へと移動するのであった。
* * * *
王子様の騎士達の護衛されながら、私とダヴィードはカイル様所有の別荘に着く。今度の別荘は平原が広がり、周りを一望出来る場所だ。侵入者が来ればすぐに分かる。今の私達にはうってつけの隠れ家だった。
別荘は平屋で中に大きなリビングがあった。個室も三部屋ほどある。王族の所有の物だけあって、とても豪華な作りだった。
騎士団長が私に声を掛ける。
「我々は外を警備しますゆえ、何かございましたら我々騎士達の誰かにお伝え下さい」
「ありがとうございます。これから宜しくお願いします」
私は頭を下げる。一緒にお世話になるダヴィードは騎士団長を無視して、窓から外を眺めている。騎士団長はダヴィードを一瞥して眉根を寄せると、私に向き直る。
「ヴァシリーサ様、言い忘れておりました。明日、カイル様がこちらにお見えになります。もちろんあなた様にお会いにでございます」
私の胸は高鳴り、心臓の鼓動が早くなった。




