決着
次の瞬間、ダヴィードがポイゾネに向かって突進する。振り返っていたポイゾネは急いで正面に向き直る。私は必死でアゲリーナさんの姿を探す。しかし、ポイゾネの後方には誰も居ない。
「お前、騙したのか」
ポイゾネが再び毒の霧を放出するが、ダヴィードはポイゾネの肩にポンと触る。ポイゾネは力尽きたようにその場にうずくまる。そんなポイゾネを見下ろしながら、ダヴィードは言葉を掛ける。
「アゲリーナが後ろに居ると聴けば、毒の霧の放出を止めると思ったからな。やはり思った通り。お前の負けだ」
洗脳されたポイゾネは無言で項垂れている。ダヴィードは負けた相手を憐れむ様子もなく、淡々と続ける。
「お前を洗脳出来る時間は約三分だ。その間、色々聴かせてもらおうか。お前とアゲリーナ嬢の契約内容は? アゲリーナを王女にした時のお前の報酬は何だ?」
「……俺がアゲリーナを王女にした暁には、俺の身体の毒を取り除いてくれることになっている。医療魔術のスペシャリストを雇って、元の美しい姿に戻してくれる。そういう契約だ」
「なるほど」
ポイゾネの顔と腕を覗き見をする。今は火傷でより酷くなっているが、確かに黒ローブの隙間から見えたポイゾネの姿は赤く腫れ上がり、醜いと言わざるを得なかった。
これが”毒の悪魔”が命を懸けてまで戦った理由なの?
私はポイゾネを同情の目で見てしまう。
ダヴィードは残りの時間が迫っている為、立て続けに質問する。
「では、次の質問だ。アゲリーナ嬢は今どこに居る?」
ポイゾネの目が大きく見開く。答えたくない質問を再びされたようだが、洗脳の魔法には抗えない。”毒の悪魔”は言葉を絞るように応える。
「この別荘近くの町の宿に泊まっている。アゲリーナはそこだ」
納得の表情をダヴィードは浮かべる。
だから、さっきアゲリーナさんがそこに居るという嘘が通用したのだ。今になって私は理解をする。
キーネ家もアゲリーナさんを悪魔の護衛無しで家に匿うのは危険と判断したからなのか。”死の悪魔”に狙われる事も考慮して、”毒の悪魔”の近くに置くことに決めたのだろう。
しかし、ポイゾネの毒の霧をアゲリーナさんの近くで使うわけにはいかない。そういう状況が重なっての選択だろうと私は考えた。
「最後の質問だ。”死の悪魔”ケイデスに関して、何か知っている事は有るか?」
ダヴィードは冷たく尋問をしていく。
「何も知らない。即死魔法を使う事しか」
「そうか。分かった。もう用済みだ、ポイゾネ。そのまま真っすぐ歩け」
ダヴィードがポイゾネに告げると、ポイゾネは言われるがまま歩いて行く。その瞬間、ポイゾネの姿が消える。
「え、何?」
瞬間移動のように消えて行った”毒の悪魔”を探す為に消えた場所に近付く。
「アルダ、それ以上近付くな」
怒ったようなダヴィードの声で私は釘を刺される。私はその場に立ち止まり、もう一度ポイゾネの居た辺りを凝視する。すると、ポイゾネが居た所に大きな穴が存在している。私は覗き込むような格好で穴の様子を窺う。そして、ダヴィードが何をしたのか理解する。
「落とし穴ね。落とし穴に落として殺したのね」
私は振り返り、ダヴィードに確認する。ダヴィードは無言で私の前を通り過ぎ、穴の方へと向かっている。そして、穴の所で立ち止まり、穴の中を確認するように見ている。
何でポイゾネを殺したのよと、今回の私はダヴィードを責める事はしなかった。一歩間違えれば、私もダヴィードも”毒の悪魔”に殺されていた。穴の中の死体のようになっていたのは私達だったかもしれない。
ダヴィードは近くにあった木材を拾い上げ、土をすくって穴に放り込んでいる。ここをポイゾネの墓にするようだ。私は目を伏せ、見ないようにする。
小一時間くらいで穴を塞いだ後、ダヴィードは休むことなく次の行動に移す。
「アゲリーナの宿に行くぞ。一緒に来るんだ」
疲れている素振りも見せずに、ダヴィードは歩き出そうとする。私は彼に付いて行きながら、当然の質問をぶつける。
「アゲリーナさんも殺すの?」
「あのお嬢が生きていたら、アンタを生かしておくと思うか? それが答えだ」
私は無言で歩き続ける。
分かっていた。分かっているのだ。
この戦いになると決まってから、”毒の悪魔”が攻めて来た時から、どちらかの命が奪われるという事を覚悟していたのだ。
なのに、私はアゲリーナさんの命を奪いに行くことを躊躇している。友達にはなれない。分かり合えない。そんなことも分かっているのだ。
でも、どこかで友達になれるなら、分かり合えるならという淡い期待がある。
ダヴィードの背中を見つめる。彼にアゲリーナの命を助けてと言っても聴き入れてはもらえないだろう。もし、聴き入れてもらえたとしても、アゲリーナに一生命を狙われ続ける。それは私も嫌だ。
私は一体どうしたいのか? 私は何を望んでいるのか?
自問自答を繰り返しながら、アゲリーナの泊まっている宿へと私達は到着した。
小説を読む方は頭が良く、人の気持ちの分かる人だと聴きます。
そんな優秀な読者の皆さんの為に、面白い小説を書いていきますので、これからも読んで頂けると大変嬉しいです。
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