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胡蝶の夢 ~帰蝶転生記~  作者: 猫丸太郎
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美濃の者共

「……頼純様。此度の美濃守護職への就任、祝着至極にございます」


「うむ。諸君らも今まで通り、この美濃の為に力を尽くしてくれ。頼みにしておるぞ」


「「「ははあっ!」」」


 今日はこの大桑城に、頼純様の守護就任を祝う為に多くの国人達が集ってきた。

 国人ってのはこの美濃の国内に自分の領地を持っている武家の人達のこと。

 美濃の国人達はみんな独立性が強くて、彼らを手懐けることにはあの道三も四苦八苦していたんだよね。


 さて、私も斎藤道三の娘で土岐頼純の妻なんだ。

 全員とは言わずとも、代表的な国人の顔くらいは覚えとかなきゃならない。


 頼純様に頭を下げる国人達の最前列に座るのが、この美濃で特に力を持っている美濃三人衆ともよばれる面々。

 如何にも頑固親父といった髭面強面の人が稲葉良通さん。

 思慮深そうでスマートなイケおじ風の人が安藤守就さん。

 立派なガタイと特徴的なちょび髭が印象に残る人が氏家直元さん。


 この3人は美濃西部で非常に大きな力を有しており、彼らを味方につけられるか否かが、この美濃の覇権争いにおいて重要なことの1つだろう。


 その他の有力者としては、西美濃の不破、竹中。東美濃の遠山、佐藤あたりは覚えておこうかな?

 竹中なんて絶対後々あの人が出てくるだろうし……


 おっと、忘れちゃいけないのがまだいたな。

 この美濃の有力者として、明智家の光安さんと光秀もこの場にいる。


 そして私の実家、斎藤家からは……道三の長男である義龍(この頃の名前は利尚)と、道三の弟である長井道利さんが最前列の一番端に座っている。

 予想はしちゃいたけど、道三本人は出てこずに使者を出しただけみたいだね。



 ……と、どうやら話は終わったみたいだ。

 私も頼純様に追従して部屋から出るとしようか。


「……ふう。美濃の連中の前で話すのは久しぶりだったな。少し疲れたわ」


「お疲れ様でした。守護として、見事な振る舞いでしたよ」


「うむ。ところで帰蝶、美濃の連中を見た感想はどうだ?」


「……感想ですか? それはまあ……食えない方々が並んでいるなあと……」


「はっは、違いないな。あの連中を統べるのは一筋縄ではいかんよ。どいつもこいつも、大切なのは自分の領地と既得権益、いくら力があろうとも、それだけでは奴らは従わんよ」


 ……その頼純様の言葉は、私に向けられているようには感じられなかった。

 彼が今見ていたのは私ではなく、私の後ろに見える……道三だ。


「……だから、父では美濃は統べられないと?」


「……ああ。我が土岐家が何代もかけて作り上げたこの美濃の秩序を、あの油売りめは壊そうとしている。だが、美濃の者共は頑固者揃いだ。既存の秩序を壊し、新たなる秩序を作ろうとしている者に、そう簡単には靡かんよ」


 ……頼純様の言う通りだろう。だから、道三はあんな哀れな最期を遂げたんだろうから。


「……だからだ、帰蝶。もし土岐と斎藤が再び争うようなことになるなら……お前は土岐を選べ。あの斎藤利政という男には、明るい未来は訪れないだろう」


「……それは……」


 確かに、道三が、斎藤家が、哀れな最期を遂げるのは確かだ。

 でも、それは頼純様の土岐家も同じ。旧時代の象徴として、新世代の起こす波に飲み込まれることになる。


 いずれこの美濃は全て、織田信長に……


「……いや、今のは忘れろ。それに、利政めと争いにならずに美濃を治めるに越したことはないからな」


 答えに言い淀む私の心情を察してか、頼純様はそれ以上は言わずにその場を去った。

 口では争いにならないことを望むとは言っているけど……きっと、そうはならないんだろう。

 そう遠くない未来、再び斎藤と土岐の間で争いは起こるはずだ。

 私は、これからどうすればいい?

 下手に歴史を弄ってもいいのか、そもそも私に歴史を弄ることなどできるのか……未来を知っていても、自分の行動の答えは何も分からない。


 ただ1つ言えるのは……私の旦那様であるこの土岐頼純という人には、死んでほしくないということだ。

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