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ひとめぼれ  作者: いむ


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6/10

第6話:入学後の生活を築け!

入学式からいつの間にか数日が経っていた。

新しく袖を通した指定の紺色のブレザーは、まだ生地が少し硬くて、肩のあたりが少し大きく、重く感じる。


今日は、ホームルームでの自己紹介と、これからの三年間を左右する「部活」と「委員会」を決める日だった。


第一志望に落ちた劣等感はまだ胸の奥にあったけれど、隣の席の恩田結愛という「普通に話せる女子」のおかげで、僕のガチガチだった緊張は随分とほぐれていた。


「次、一ノ瀬くんの番だよ」

「あ、うん」


恩田に小声でつつかれて、俺は立ち上がった。

深呼吸をして話しだした。


平然と、平然と。

普通を装って普通に、普通に笑うんだ。

するとなぜかスラスラと言葉が出ていた。


「一ノ瀬圭介です。南小出身です。趣味は音楽を聴くことで、中学ではソフトテニス部に入ろうかなーって思ってます。三年間、よろしくお願いします」


声が上ずることもなく、しっかりとお調子者らしいトーンで挨拶を終える。僕が席に座ると、隣で恩田が「おおー、無事に終わったね」とニヤニヤしながら小さく拍手をしてくれた。

多分、受験のときの地獄の面接を乗り越えた副産物っぽい。


だが、僕の本番はここからだった。

自己紹介が終わり、黒板に各委員会の名前が書き出されていく。俺の目は「放送委員」という文字からどうしても目を離せなかった。


実は、僕は放送委員への熱量がめちゃくちゃ高かった。なぜって?お昼の放送で自分の好きな音楽を流せるチャンスだし、何よりマイクの前で喋るという行為に、どうしようもなく憧れていたのだ。そして、去年・一昨年ともにじゃんけんで負けて放送委員になれていないのだ!!!!絶対に、絶対にこの枠を勝ち取ってやる!!!


僕が真っ先に自信満々に手を挙げると、担任の先生が「お、一ノ瀬、やる気満々だな。今日の放課後のオーディションに参加しろよー」とやる気に満ちた僕を見て微笑んだ。

しかし、びっくりしたのはこのあとだ


「あ、じゃあ私も放送委員やりまーす」


隣の席で、恩田がひょいっと手を挙げた。


「えっ、恩田も?」

「うん。なんか一ノ瀬くんがすごい気合入ってたからさ、なんか面白そうだし」


恩田は少し笑って、僕を見た。

変な打算も照れもない、本当にただの「面白そうだから」という軽いノリ。


放課後、オーディション会場の空き教室には希望者が溢れていた。

「去年は定員割れ寸前だったらしいけど、なんじゃこの量は」

「これ倍率バグりすぎだろ」

今回のオーディション参加人数は脅威の50人。なんと学年の3分の1近くの人が参加していたのだ。僕のクラスでは二人だけだったのに、他のクラスが多すぎたようだ。でも、合格できるのはたったの6人。超争奪戦だ。


渡されたのは、お昼の校内放送を想定したテスト原稿。周りのやつらが緊張でそわそわしている中、僕の心臓は、不思議と静かに脈打っていた。緊張なんかしていない。むしろ、早くマイクの前で喋りたくてウズウズしていた。


『次は、一ノ瀬圭介くん』


名前を呼ばれ、前に出る。

平然と、平然と。いや、平然どころか、完璧に、完璧にやってやる。


マイクを前にして原稿を開いた瞬間、僕のスイッチが入った。


「こんにちは。お昼の校内放送の時間です。今日の担当は……」


聞き取りやすいトーン、完璧な滑舌、絶妙な間。

自分で言うのもなんだけど、完璧なアナウンスだった。読み終えた瞬間、審査をしていた先輩たちの目が一斉に見開かれたのが分かった。手応えは十分。いや、十分どころか、余裕のトップ合格を確信した。


席に戻ると、恩田が「え、ちょっと待って、一ノ瀬くん上手すぎない!?」と目を丸くして驚いていた。それがどうしようもなく気持ちよくて、俺は「まあね」と誇るようにドヤ顔をした。ちなみに恩田も、あの持ち前の明るい声で見事に合格を勝ち取っていたそうだ。


帰り道、俺たちは合格通知のプリントを手に持ちながら、一緒に廊下を歩いた。


「一ノ瀬くんがあんなに放送ガチ勢だとは思わなかったよ。あ、部活は予定通りソフトテニス部?」

「うん、明日から仮入部行く。恩田はどうするの?」

「私もソフトテニス部にしようかなーって」

「え、奇遇。テニスやりたかったの?」

「ううん。小学校からの親友が女子バスケ部に入るから猛烈に誘われてるんだけど、私あんまりハードに走るの得意じゃないからさー。テニスなら自分のペースで楽しそうかなーって」


そんなこんなで無事に二人とも放送委員に受かった。そして、部活も同じソフトテニス部。練習中は男女でコートが分かれているからほとんど話すことはないだろうけれど、部活終わりにたまに言葉を交わしたり、あの狭い放送室で一緒にお昼の時間を過ごすことになるかもしれない。

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