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ひとめぼれ  作者: いむ


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5/10

第5話:別れ そして 出会い そして…

唐突だが、結果を発表しよう


-----桜井穂夏は合格し、僕は不合格だった-----


長く、苦しく、そしてひどく息苦しかった冬が終わった。


自分の受験番号が掲示板に「ない」ことを確認した瞬間、頭の中が真っ白になった。何十回も何百回も探した。悲しいとか、悔しいとか、そういう感情よりも先に、息苦しい生活からの解放をどこか喜ぶ自分がいた。そんな感情に僕はムカつき、こう投げかけた。


『これからどう生きていく?誰と、どんな人生を歩む?』


でも答えは出てこない。

出せない。


そのまま、結果を報告するために塾へと向かった。

重い、本当に重い足取りで階段を上がり、いつもの自習室の扉を開ける。

そこには、僕より少し早く来ていた穂夏がいた。僕の目にはうっすら涙が滲む。穂夏はいつものようにピンと背筋を伸ばして座っていたけれど、僕の顔を見た瞬間、彼女はすべてを察したように少しだけ目を伏せた。


平然と、平然と。

普通を装って普通に、普通に笑うんだ。「いやー、落ちちゃったよ」って、いつものお調子者の顔で。頭の中で何度も、何度もシミュレーションしたはずだった。


「さ、桜井さん……ぼ、僕……ダメだった、みたい」


ひねり出した声は、カッコつけるどころか、情けないほど震えていた。何もかもを捨てたように泣き喚いた。


穂夏は立ち上がり、僕のそばまで来ると、何も言わずにふんわりと、でも少しだけ震える声で言った。


「一ノ瀬くんが毎日遅くまで、誰よりも頑張ってたこと、私が一番知ってるからね」


ポロリ、と。

彼女の綺麗な目から、大粒の涙がこぼれ落ちた。

合格したはずの彼女が、落ちた僕のために泣いてくれている。その優しさが、プレッシャーから解放されて空っぽになった心に、痛いほど染み渡った。

そしてあの冬の夜、冷たい非常階段や駅のエレベーターの前で交わした「同じ中学に行く」という約束は、僕が、僕が破ってしまった。僕たちはこれから、別々の中学校に通うことになる。


そして、春。

”俺”は地元の公立中学校の入学式を迎えていた。


新しく袖を通した学ランは少しブカブカで、なんだか着られているような違和感がある。周りを見渡せば、小学校の頃からの見知った顔が半分、知らない顔が半分。

第一志望に落ちたという劣等感が、心のどこかにまだトゲのように刺さっていて、僕はどうしても周りに馴染めない気がしていた。


でも、普段はおしゃべりな僕だ。

ここで暗い顔をしていたら、変に心配されるか、あるいは舐められる。

だから僕は、いつものようにお調子者の仮面を被ることにした。


平然と、平然と。

普通を装って普通に、普通に笑うんだ。


入学式が終わり、ぞろぞろと生徒たちがそれぞれの教室へと移動する。

僕のクラスは1年3組。

窓際の、後ろから二番目の席。カバンを机の横にかけ、椅子を引いて腰を下ろした。


ガラガラ、と前のドアが開き、一人の女の子が入ってきた。

座席表を確認して、真っ直ぐに僕のいる窓際へと歩いてくる。そして、僕のすぐ隣の席の椅子を引いた。


「よろしく。私、恩田結愛おんだ ゆい


結愛が僕の顔を見て、ふっと人懐っこい笑顔を浮かべる。穂夏のあのふんわりとした柔らかさとは違う、どこかハキハキとした、元気な普通の女の子だった。


「あ、うん。一ノ瀬です。よろしく」


僕はいつものトーンで、普通に、普通に応えた。

緊張もしないし、声が上ずることもない。ただの隣の席の女子として、すんなりと会話が始まった。


「一ノ瀬くんって、どこの小学校? 私は光南小なんだけど」

「僕は光西小。駅の向こう側」

「あ、そうなんだ。じゃあ、あのどでかい光中央公園の近くだ」

「そうそう。うちの弟がいつもあの公園のグラウンドでサッカーしてるよ」

「えっ、ほんとに? うちの弟もあそこでサッカーやってる! 地元のクラブチームの……」


「「光FC?」」


僕と恩田の声が、見事にハモった。

僕と恩田が目を丸くして、それから一緒に大爆笑した


「うそ、一緒のチームじゃん! 一ノ瀬くんの弟、何年?」

「今度、小四。」

「うちの弟も小四! いつも泥だらけで帰ってくるんだよねー」

「わかる。玄関が土だらけになって掃除大変なんだよー」


僕たちの間にあった「初対面の壁」みたいなものは、弟たちのサッカーの話で、あっさりと崩れ去った。


恩田結愛は、なんていうか、謎に話しやすいやつだった。

変に気を使う必要もなくて、男友達と話しているような気楽さがある。第一志望に落ちて、穂夏と離れてしまって、どこか空っぽになっていた僕の心にとって、この「ふつーに話せる女子」の存在は、すごくありがたかった。


これからの三年間、こいつとはいい友達になれそうだな。

僕は窓の外の桜を見ながら、ただ純粋にそう思っていた。


「てかこの学校、人数多くね?www」

今日一番ビックリしたのはこんな頭の悪いことだった

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