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この結婚は間違いじゃない〜告白相手を間違えた令嬢は、溺愛されていることに気づかない〜  作者: 涙乃


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3/10

リディアside③

「え⁉︎ 俺⁉︎ リディア?まじか‼︎ 」



「ア、ア、ア 、アーサー? なんでっ、ここに?」



机に突っ伏していたアーサーが、上体を起こし振り向いて驚きの声を漏らす。




何かがぶつかったような激しい物音が入口から聞こえて、2人は一斉にその方向へと視線を向ける。駆け出して行くフレデリックの後ろ姿が目に入った。



「おい!フレディ! 遅かったじゃないか、っておいどこ行く?おーい!

あー……まいったな……リディア?

君の気持ちは、分かったよ」



アーサーは婚姻届を受け取ると、私の頭にぽんと軽く手を乗せてから、立ち去る。


時が止まったように呆然としたリディアは、そのまま脱力するように床に崩れ落ちた。


どうして、確認しなかったんだろう。

どうして後ろから声をかけたんだろう。


どうして、どうして、どうして……。


フレディが、机に突っ伏していることなんてなかったのに。



あまりにも緊張しすぎて、きちんと見ることもできなかった。


その席に他の誰かが座っているなんて思いもしなかったから。


まさか、よりにもよってアーサーが座っているなんて。



そんなこと想像もしなかったから。


恥ずかしい……。



見られてしまったの? フレディ、どこから見ていたの?もしかして……。


告白相手を間違えたのだと、アーサーに伝えなければいけないのに、臆病な私はすぐに追いかけることもできなかった。



翌日、婚姻届を返してもらおうとアーサーを訪ねた。けれど、間の悪いことにすでに遠征に出立した後だった。



その後、リディアはアーサーからの手紙をフレデリック経由で受け取ることになる。


手紙の内容は「あの婚姻届は、提出するから心配いらない」と一文だけだった。





いつアーサーが帰ってくるのか分からない、いつまで待ち続けなければいけないのか、不安な日々が続いた。


きちんと話し合いたいのに、どこにいるのかも分からない。


無事でいてくれたらいいと、友人として待っていた。

書類上は、あなたの妻かもしれないけれど。


帰ってきたら、何から話そうかと毎日毎日ずっと考えていたの。


でも、5年過ぎた頃には、ほっとしたのも事実。


アーサーの行方が分からないのに、安堵するなんて、私は、自分勝手な酷い人間よね。


そんな時フレデリックから、プロポーズされて、嬉しすぎてもう死んでもいいとさえ思った。


例えそれが契約結婚だとしても。


フレディ、この2年間はとても幸せでした。永遠にこのまま時が止まればいいのに。

そう、縛り付けているのは私の方。

あなたの優しさにつけ込んで、妻の座に居座ってしまった。あなたの時間を奪ってしまった。こんな関係はよくない。分かってる。あなたの幸せを考えるなら解放しないといけないって。

でも……、もう少しだけ、このまま……。

アーサーにどんな顔をして会ったらいいの?

おかえりなさい、と笑顔で言える自信がない……。


結局私は、あの時から何も進めていない。

劇的な出会いじゃない。情熱的な交際をしてきた訳ではない。

それでも、あなたのことを忘れることなんてできない。

同じ時を一緒に過ごすうちに、あなたの存在は私の心の中で大きくなっていた。

側にいてくれると安心する。あなたもそう想ってくれたらと……。心から通じ合える日が……。なんて、大きな夢を見てしまった。



リディアは、フレデリックの署名の入った離縁書を眺めながら、はらはらと涙を流していた。



「リディア……、私の前で泣かないでくれ。

(泣くほど嬉しいのか……。)」


フレデリックは、そっとリディアの涙を拭う。


「やめて……」


優しくしないで。別れるなら突き放してほしい。優しくされたら、諦めきれなくなる。これ以上わがままになりたくないのに……。


リディアはフレデリックの手を軽く振り落とす。


「リディア……、許可なく触れてすまない」


肩を落とし後ずさるフレデリックの姿を見て、リディアは無性に腹が立った。


「なぜ謝るの?何を謝っているの?フレディ、いつもあなたはそう。肝心なことは何も言ってくれない。

この結婚のことだって……。ねぇ……どうして……」


私達、結婚しているのよ。許可なく触れたっていいじゃない。謝られると傷つく。


「ひどい……どうして…分かってくれないの。私……ずっと……」



リディアは泣きじゃくりながら、フレデリックへと近づく。けれど距離を詰めようとするリディアを避けるようにフレデリックは後ずさる。


「こ、これ以上はまずい……リディア、分かってくれ。(私の理性がもたない)」


必死に平常心を保とうとするフレデリックは、思わず眉間に皺を寄せる。


「どうしてそんな顔をするの、ねぇ、フレディ、あっ!」



勢いよくフレデリックに詰め寄ろうとしたリディアは、絨毯に足を取られて転びそうになった所を何とか体勢を整える。


一方のフレデリックは、リディアを抱き止めようと駆け出したものの、無事なリディアを見て急停止しようと試みる。


リディアに触れてなるものか、と、全体重を後ろへとかけた。


「ぐぁっ!」


ガツンと鈍い音が室内に響く。

後方へ転倒したフレデリックは、サイドテープルへと頭を打ちつけてしまう。



「フレディ⁉︎ しっかりして、大丈夫? フレディ⁉︎ た、大変、血が……だ、誰か来て、誰か!」



「だい、大丈夫だ、と、とにかく、話は以上だ。お願いだから一人にしてくれ、頼む……誰も呼ぶ必要はない」




「でも……分かったわ。傷の手当てを誰かにお願いしておくわね」



蹲るフレデリックのことが気がかりだったが、リディアは部屋を後にした。





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