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この結婚は間違いじゃない〜告白相手を間違えた令嬢は、溺愛されていることに気づかない〜  作者: 涙乃


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4/10

フレデリックside①

後頭部に手を当てると、ぬるりとした感触がした。この程度すぐに治る。


リディア……。


先程のリディアの姿を思い出したフレデリックは、急いで侍女を呼び、リディアを自室へと送り届けさせた。


心なしか刺すような視線を感じたが、致し方ない。皆、私の不甲斐なさに呆れているのだろう。


フレデリックは「これで良かったのだ」と何度も自分に言い聞かせていた。


部屋に鍵をかけると、鬱憤を晴らすように酒へと溺れる。


アーサー、生きていてくれて嬉しい。



リディアも……これで幸せになれる。



これで、いいんだ。


離縁を告げたリディアは、瞳を潤ませていた。

余程、アーサーの無事が嬉しかったのだろう。


くそっ! 


あのかわいい翡翠色の瞳に映るのは、私だけでいい。アーサーを映さないでくれ。

私以外を映すことなど、受け入れられない……。いっそのこと私だけのものに……。


邪な考えばかり襲ってくる。


こんなことではだめだ。自分を律せねばならない。


「リディア……」


だめだ……あの格好が目に焼きついて離れない。


フレデリックは酔ってリディアを襲いに行くことのないように、鍵を再度確認する。ソファーを移動して扉の前にバリケードを作る。


これくらい簡単に壊せるが、酔った自分が壊さないことを祈るしかない。


グラスにワインを注ぐと、一気にあおる。


「しまった……」



再度グラスにワインを注ごうとした所、手がおぼつかずグラスを倒してしまった。

テーブルの上に赤いワインが広がる。


フレデリックは、後で拭けばいいだろうと、ボトルから直飲みを始める。


まだ……足りない。


中々酔えないことに苛立ち、ワインからブランデーへと手を伸ばす。



リディア……、この2年間は辛かっだだろう。


ずっと君を見てきた。


フレデリックは、学園の頃を懐かしむように思いを馳せる。


いつも図書室で見かけていた。

何が気になるのか、自分でも分からなかった。

気がついたら、目で追うようになっていた。


話すきっかけが欲しくて、わざと君のお気に入りの席に座ったんだ。


初めて声をかけた時、君の微笑みにぐっと心を掴まれた。まるで、一斉に周囲に花が咲いたように、明るく輝いて見えた。陽の光を受けた君の穏やかなブラウンの髪も、柔らかそうで触れてみたいと思った。邪な気持ちを抱いたのは事実だが、私の話に耳を傾けてくれて、気にかけてくれるリディアの存在が、私の心の支えだった。君を守りたい、と思ったんだ。


それからは、ずっと隣の席に座るようにした。 他の輩に見せたくなくて。

リディアの隣に相応しいのは私だと、見せつけたかったんだ。



恥ずかしそうに笑うリディアを見ると、幸せだった。


浮かれていたんだ。


まさか、リディアがアーサーのことを好きだとは知らずに……。


あの笑顔は、私だけに向けてほしかった。


悔しかった。


あんなに側にいたのに。

リディアの気持ちに気付いてあげられなかったなんて……。


私は、愚か者だ。


リディア、アーサーはいい奴だ。


信用できる。 


卒業式のあの後、何度も私にリディアに告白するよう言ってきた。


私の気持ちを知っているから、気を遣ってだろうがな。


ほんとにいい奴なんだ。


だが、遠征があんなに長引くことになるとは。


アーサーの帰りを待つリディアを想うと、胸が張り裂けそうだった。


アーサーがいなくなって、5年経過した頃、私は、これはチャンスだと思った。



すまない、アーサー。


友人の妻を奪う私は非道だ。許してくれ……。


だが、どうしてもリディアのことが忘れられないんだ。

側にいたいんだ。大切にしたい。その役目は私でありたい。


せめて、決して触れることはしないと誓う。


この2年、その誓いを守ってきた。



優しいリディアは、契約結婚を引き受けてくれた。


事情を知っている両親からは、応援されている。

早く孫が見たいという両親を言いくるめて、早々に引退してもらい別宅へと引っ越してもらった。 


義両親と暮らすなど、リディアにとっては負担になる。なるべく顔を合わせないようにするには、こうするしかない。

当主となれば、後はどうにでもなる。


母が管理していた庭園も、リディアの好きな花へと総入れ替えした。


父のこだわりの応接室も、家具も一新した。

この邸は、リディアの為のものだ。



様変わりした邸を見た両親は、特に母が落ち着かないからと近寄らなくなった。庭園の花を撤去したことには、激怒されたが。構うものか。


これで、私が学園の頃からずっとリディアのことが好きだと、ばらされる心配はない。



邸の使用人達は、詮索せずリディアに対して好意的なのでほっとしている。私の気持ちに気づいている者もいるが、何も言わずに見守ってくれるのはありがたい。

さすが両親の人選は素晴らしい。


契約結婚であるにも関わらず、リディアは妻としての務めを果たそうとしてくれた。


理性が飛びそうになるのを必死に堪えた。


提案しておきながら、自分が破りそうになるなんて、どこまでも非道な自分が許せない。


妻……私の妻。


いい響きだ。かわいい。だが、それも、もう終わりにしなければいけない。


己の欲のために、君の気持ちを蔑ろにしてはいけない。


離縁という傷をつけてしまう私を許してくれリディア。


アーサー、お前が羨ましいよ。

お前と顔を合わせたくない。

リディアを誰よりも見てきたのは私だ。

許されるなら、このまま……。


フレデリックは、空になったボトルを確認すると、テーブルに突っ伏し、叶わぬ恋の夢の中へと落ちていった。








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