刀── 其ノ肆 「American Idiot」
「............」
言葉が出なかった。クラスメイトで同性なんだから、着替えの際に下着姿を見ることぐらいはあったが、こうやって全裸を直視したことはなかったから。
甘利田さんの見事なまでの体のプロポーションについて語りたいのも山々だが、それよりも先に目に付いた、甘利田さんの体の異変──
体中に付いていたおびただしい数の手形。
人の手形。
真っ黒な手形。
体の至る所、肩、二の腕、胸、背中、腹、腰、臀、太もも。
ありとあらゆるところに黒い手形が。
ヤンチャな彼氏と一晩体を重ねた際にできたスパンキングの跡のような手形が、甘利田さんの体中にびっしりと付いていた。
「その体ッ......!」
「ハイ......ワタシはこの体について、傾サンに相談がしたくて、ここに呼びマシタ」
甘利田さんは手をモジモジさせ、俯きがちにそう答えた。
「ちょっと、触ってみても?」
「エエ、大丈夫デスヨ......」
甘利田さんの巨大な双丘を鷲掴みするかのような形で付いている黒い手形を人差し指で触れる。
ヌチョッ..................。
うわぁ......。嫌な感触。なんの感じに似てるだろうか。見た目も込みで言うのならコールタールとか......。
「アノ......そこまで露骨に嫌な顔をされるとワタシも傷付くのですが......」
「あっ! ごめんなさいっ!」
しまった、顔に出てたか。
彼女の胸からゆっくりと指を離すと、糸を引き、それがさらに私の眉を顰めさせる。
指の胸の間に引いていた糸が切れ、私は人差し指と親指を擦り合わせたが、粘り気は一切として無くなっていた。
「聞きたいことは色々あるんだけど、一つずつ聞いて言ってもいい?」
「ハイ、大丈夫デス。その為にここにアナタを呼んだのデスカラ」
「まずなんだけど、なんで全裸なの?」
1番最初に聞くべき質問ではないが、どうも気になってしまって。
体に付いている手形を見せたいのだとしても、一部分だけ見せたらいい問題で、わざわざ素っ裸になる必要はない。
それとも、何かあるのか? 全裸になる必要が。
「コレはただ、裸の方が興奮するからデス」
「ただの変態だった!」
変態。
卓越した変態だった。
「ワタシ、人に見られないと興奮しないンデス」
「超マニアックな変態だ!!」
見られると興奮するのではなく、見られないと興奮しないのは逆に不都合が生じるような気もするが。
性癖はその人個人の自由だからな、これ以上とやかく言うのはやめておこう。
「じゃあ次は、甘利田さんの体についてなんだけど」
なぜ服を着ていないのかという質問よりも、もっと先にすべき質問だったろうと思う。
私の質問に思案顔を浮かべた甘利田さん。
やはり、話すのに躊躇う訳があるのだろう。
「ワタシのカラダについて......ウーム......。この胸の大きさは、遺伝もありますけど、日々の規則正しい食事と睡眠によって織り成せるもので──」
「ああ、違う違う。胸について知りたいんじゃなくて、手形について知りたくて」
惜しげも無くたわわに実った自身の両胸を弄る甘利田さん。
普通に考えて、私が甘利田さんのバストの成長の秘訣について気になる訳がないだろ。
「アア、ソッチの方でしたか。ついてっきり胸の方かと」
甘利田さんは自身の胸と私の胸を何度も見比べる。
「何が言いたい!!」
単純な財力だけでなく胸の貧富の差まで、そうまじまじと見せつけられるとは。
言っておくが、私の胸が小さいわけではない、甘利田さんのが大き過ぎるのだ。
嫋やかな顔の下に付いた凶暴なまでの大玉スイカ。
私が女だから耐えれているだけで、もし私が男だったなら、今すぐに甘利田さんに飛びつき、その巨大な双丘を貪り尽くしていただろう。
それほどまでに魔性の乳。
最後にもう一度言おう、私の胸が小さいわけではない、甘利田さんのが大き過ぎるのだ。
甘利田さんはクスリと笑った後、真面目な顔に戻り、
「ワタシのカラダにこの手形が浮かび上がってきたのは、数日前のことデシタ。パパは骨董品集めが趣味でして、巴市立美術館で行われる展覧会に、パパがいくつか出展するので、ソノ荷物を運ぶ手伝いをしてマシタ」
甘利田さんは腕を胸の前(大きすぎて胸を持ち上げる形になっていたが)で組み、語り始めた。
「ソノ時、ワタシは一本の刀を見つけたんデス。名前がなんだったかは忘れましたが......。その刀を見たワタシは、つい出来心で手に取って鞘から抜いてしまったノデス。仕方ないでしょう、とてもかっこよかったのですもの、アノ刀。しかし、鞘から引き抜いた刀は錆びて、刃こぼれだらけだったんです。ワタシは、自分が壊してしまったんのではと思って、パパに怒られるのが怖くて、すぐに鞘に戻し、その場から逃げ去ってシマッテ」
「それが手形となんの関係が──」
「──その日の夜からデシタ、ワタシのカラダにこの手形が浮かび上がったのは......!!」
悲劇のヒロインかのように自身の体を抱く甘利田さん。
「それからは、目が覚めた時、お風呂に入ろうとした時、トイレに行った時、見る度見る度、手の跡は増えてイッテ......。こんな姿、他の誰にも見せれませんの......」
甘利田さんの目尻には、涙が浮かんでいるように見えた。
そう思えば、最近の体育の時、制服で休んでいるのをよく見たが、着替えで見られるのが嫌だったのだろう。
「それで、どうして私なんかに相談を? 私と甘利田さん、接点とかないよね。それなら他にも、仲良さそうにしてた雨衣野さんとか、先生とか、それで言うなら、聖蓮さんや冥土さんなんかに話せば──」
「──駄目なんですッ!! 駄目、なんです。あの人たちの前では、ワタシは完璧でないと──不完全なワタシなんて、許されませんの」
いきなりの大声につい気圧されてしまった」
「アア、スミマセン......。怒鳴るつもりは......」
甘利田さんの声は尻すぼみに小さくなり、この広い部屋に消えていった。
広い部屋。そして、異様な部屋。
教室二個分程の大きさの部屋に置かれた家具は、中心に置かれたクイーンサイズのベッドのみで、それ以外は一切としてない。
整然として、爽然。
色々な物が乱雑に散らばる斜忍さんの廃工場とは違う。
だがそれは床の話である。
床に他には何も置かれていないと言うだけで、部屋にベッドしか置いていないとは言っていない。
壁だ、壁である。
甘利田さんの部屋の壁にはおびただしい数の武器が飾ってあった。
大剣に、ククリナイフに、太刀に、斧に、銃に、槍に、鞭に、弓に、モーニングスターに、棍棒に、ヌンチャクに、刺股に。
今言ったのでもほんの僅かで、部屋を囲う四面、全てに武器が立てかけられている。
レプリカ、だよな。銃刀法違反とかあるし。
「傾サン、こんなチョロチョロと当たりを見回してどうしたのデスカ? 」
「いや、その壁に掛かってる武器って、流石に本物じゃないよね。これで本物だったら犯罪になっちゃうし」
「傾サン、ニホンにはこんな言葉があるんですよ『バレても犯罪じゃない』って」
「それを言うなら『バレなきゃ犯罪じゃない』でしょ! バレたら全然犯罪だよ!」
「隠蔽、があるんですよ」
指で輪っかを作るお金のマークをする甘利田さん。お金にものを言わすなんて、狡い、狡すぎるぞ。
「アノ、いきなり話を変えてしまうのデスガ、今のワタシってすごく恥ずかしい状況なのでは?」
腰に手を当てた甘利田さんは唐突に言ってきた。
ほとんど話したことの無いクラスメイトの前で全裸、同性だとしても普通に考えて羞恥以外何物でも無いだろう。
「今更、気づいたんだ」
「そうですわ、今更ですわ! ワタシ、露出狂の痴女じゃないですか!」
「そこまでは言ってないけど......」
「なら、傾サン、アナタもワタシと同じく全裸になってクダサイヨ!」
「どうして、甘利田さんが服を着る選択じゃなくて、私も全裸になる選択を選んだの!?」
裸で私の手を掴む甘利田さん。こんな姿他のクラスの子たちが見たら卒倒してしまいそうだ。
「なら、野球拳をしましょう! 野球拳ならどちらも平等ですわ!」
野球拳。ジャンケンをして負けた方が一枚服を脱ぐ脱衣ゲーム。これなら運まかせであり平等か──
「──って! 甘利田さんはもう全裸だから失うものがないじゃん! この場合、私は負けたら脱がないといけないけど、甘利田さんが負けても何の損もないじゃん」
「ウーム、じゃあ、もしワタシが負けたら、体の一枚づつ皮を剥ぎます」
「怖いよ!!」
皮を剥ぐための道具はこの部屋に揃っている。この事実がさらに恐怖を煽る。
だが、仕方が無い。売られた勝負に怖気付き、おずおず撤退するような私ではない。
この野球拳勝負、私と花京院の魂をかけて、やってやろうではないか。
「「やーきゅうーすーるなら〜」」
「「こういう具合にしやしゃんせ〜」」
「「アウト!!」」
「「セーフ!!」」
「「よよいのよい!!!」」




