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刀── 其ノ参 「魔法にかけられて」


巨大な豪邸、甘利田邸。

辺りに並ぶ民家とは一線を画す豪邸、甘利田邸。

こんな中途半端な田舎には似つかわしくない豪邸、甘利田邸。


この屋敷、甘利田さんの家だったんだ。たまに通りかかることはあったけど、ずっと宿泊施設か何かだと思っていた。

門の前からでも分かるほどの広い土地。一体どこからこんな土地を見つけたのだろうか。


「元々は、普通の家ほどの土地だったのですが、辺りの家の土地を全て買い取って、土地を増やしたのです」


門の横についている機械にパスワードを打ち込みながら、聖蓮さんはそう言った。

わざわざ家の土地を大きくする為にそこまでするなんて。お金持ちの考えは平民の私には到底理解ができないな。


「ではいきなりですが傾様、貴方にこの家のパスワードをお教えしましょう」


「え、パスワード? そんなの勝手に執事の聖蓮さんが伝えていいものなんですか」


「メアリーお嬢様から伝えてくれ、と言われておりまして」


ほぼ初対面の私に家のパスワードを教えるなんて、甘利田さんはかなり警戒心がないらしい。

もし私がアルセーヌ・ルパンもびっくりの大怪盗だとしたら、この家はもぬけの殻になってしまうぞ。


この後に会ったら言っておかないとな。

無闇矢鱈にパスワードを人に教えないことと、嬉しくてもおしっこは漏らさないことを。


「パスワードは『1AD4Q8855@7B9Y #裏アカ男子と繋がりたい』です」


「えっ何!? 今、やばいこと言ってませんでしたか!?」


「失礼、聞き取りずらかったでしょうか。ではもう一度、『1AD4──」


「大丈夫です!! これ以上は大丈夫ですから!あと、このパスワードを考えたのが甘利田さんだったらスマホになにか制限をつけた方がいいですよ!!」


裏アカ男子なんてワード、大企業のご令嬢が知っていたら何か問題になりそうなワードだからな。


「このパスワードの考案者はお嬢様のお父様です」


「私、凄く心配だ、この家!!」


聖蓮さんがパスワードを全て入力し終えると、門は仰々しく音を立てながら開いた。

門の中に広がる屋敷の庭園は想像した通りに豪華で、植えられた木は整えられ、花壇には多種多様な花が咲き誇っていた。


「この先、玄関前にて冥土様と合流する流れとなっております。その後は、私は車を戻さないと行けませんので、傾様と冥土様、お二人で屋敷の中にお入りください」


めいどさま......? メイドのことだろうか。でも普通、メイドに敬称をつけるなら『さん』だよな。でも、聖蓮さんならメイドにも『様』を付けて呼んでいるのもおかしな話ではない。


石でできた噴水を越えると、玄関が見えてくる。

すると玄関の前には、一人の年端もいかなそうな幼女が立っていた。


幼児体型でずんぐりとした体つき、可愛い。

焦げ茶色の髪に、柔らかそうな頬っぺがついた顔、可愛い。

着ているものは、フリルの付いた黒いメイド服、可愛い。

両手を前で組み、必死に背筋を伸ばしている、可愛い。


そんなロリっ娘メイドは私たちを見つけると、


「あっ、聖蓮さんっ! それに後ろにいるのは、メアリー様の言っていた──」


こちらにぽてぽてと走ってくる幼女によって、私の心の奥に眠っていた、どす黒い物が目を覚ました。

ロリータ・コンプレックス、略してロリコン。

未発達の少女に対し、劣情を抱くどうしようもないゴミ人間の総称である。

私はそんなゴミ人間ではないが、彼女を愛でたい、彼女を撫でたい、彼女を触りたい、彼女を舐め回したい。

可愛い。可愛い。可愛い。可愛い。可愛い。可愛い。可愛い。可愛い。可愛い。可愛い。可愛い。可愛い。可愛い。可愛い。可愛い。可愛い。可愛い。可愛い。可愛い。可愛い。


考えるより先に、体が動いていた。脳が理性を取り戻す前に、体が行けと叫んだ。

前に立つ聖蓮さんを抜かし、目の前のロリっ娘メイドに一直線に飛び込んだ。


「え? えっ、えっ? な、なんですか!? いきなりこっちに──」


「──はぁ、よしよしよしよしよし!! 可愛いねぇ、可愛いねぇ、なんさいでちゅかぁ? こんな小さいのにメイド服着てお仕事して偉いでちゅねぇ」


ロリっ娘メイドの矮躯な体を抱きしめる。彼女の頭をわしわしと撫で、彼女の頬をつんつんと突き、彼女のお腹をまさぐる。

気持ちいい。気持ちいい。気持ちいい。

収まらない。収まらない。収まらない。


「ハァハァ、ハァハァ、ほっぺぷにぷに、ぷにぷにぷにぷに。お腹も、腕も足も、全部全部、もっちもっち、可愛い、可愛い。クンカクンカ髪の毛クンカクンカ。ペロペロしたい──」


「うにゃーーー!!!! 聖蓮さんっ!! 助けてくださいっ!! ロリコンですっ!! ロリコンに襲われてますっ!!」


「ロッ、ロリコンッ!? ロリコンだなんて失人聞きの悪い!! 私はただ、なんか小さくて可愛いやつが好きなだけの淑女です!!ロリコンなんかと一緒にしないでください!!」


「同じですっ、同類ですっ!! 離してくださいー!!」


嫌がる彼女のことなどお構い無しに、その体を弄くり回す。こんな高貴な場所で脇目も振らずに幼女をおそいまくる私、恥もひったくれもない。

でも、やめられない、止まらない。


生き恥を晒し続ける私と、襲われるロリっ娘メイドを見かねたのか、聖蓮さんはこちらに近づき私を引き剥がした後。


「少し失礼、致します」と私の襟を掴むと、


次の瞬間、視界は艶やかな焦げ茶色の髪の毛から朱混じりの青空へと移り変わった。


「............え?」


理解の追いつかぬまま、次の瞬間──


「ーーーーッ!!!」


背中全体が硬い石畳に打ち付けられ、激しい痛みが走る。

投げられた、私は投げられたのだ、聖蓮さんに。

背負い投げ、相手のバランスを前方に崩し、投げ落とす手技。


「いきなりこんなことをしてしまい、誠に申し訳ありません。ですが、このままでは傾様が一線を超えてしまう気がし、甘利田家に仕える執事として玄関の前でおっぱじめられると行けませんでしたので、このような手段を取らして頂きました。メアリーお嬢様との用件が終わり次第、空き部屋をお貸ししますので、そこでなら何なりと」


「ダメですからね、聖蓮さんっ!!」


頭を深々と下げて謝罪をしながらも襲うことを許可した聖蓮さんに、ロリっ娘メイドはすかさずツッコミを入れた。


場所も考えず、いきなり襲ったのは申し訳ないと思うが、ここでいきなりおっぱじめるような獣だと思われていたのは心外だ。

多分、止められなかったら、ヤッてたけど。


「つい可愛いかったので襲っちゃいました、すいません」


私が詫びると、ロリメイドは「本当ですよ、もう」と頬を膨らませた。怒ってる姿まで可愛い、こんなのズルじゃん。


「私の名前は冥土めいど御周おんしゅうです。ここ甘利田家に仕えるメイドを束ねるメイド長なんです」


ふん、と小さな胸を張る冥土さん。

胸は触られると大きくなるとはよく言ったものだが、私が触ってこの胸を大きくしてあげようカナ? ナンチャッテ。


これは流石に不味かったかな。


「なんかすごーく嫌なことを考えてそうな顔をしてます。それにお生憎様ですが、私の年齢は二十四歳、傾さんが望むようなロリっ娘メイドではございませんので」


「二十四歳......。合法ロリか、イケるな」


「癖に刺さらないでくださいっ!!」


私と冥土さんのやり取りを聞いていた聖蓮さんは上品に笑い、


「それでは冥土様、私は車を戻してきますので傾様をお嬢様の元までよろしくお願いします」


「はい、傾さんは少し心配ですが、私に任せてください」


去っていく聖蓮さんを見送り終わると、冥土さんはドアノブを掴み、


「先にお入りください」


そうドアを開ける冥土さん。

扉が開かれると、屋敷の内装が露になる。

豪華で煌びやか。

だが、それよりも気になるものが。


中には何人もの人がいた──。

黒服にサングラスをかけた多種多様な人種の男女が、中腰で膝に手を置き、左右に等間隔で並んでこちらに花道を作っていた。


なんだこれは、怖い、本当に怖い。なにかただならぬオーラを発している。

動作も表情を一切として変わっていないのが、さらに怖い。


「め、冥土さん、この人たち、なんですか?」


「あぁ、別に大丈夫ですよ。この人たちは甘利田組......ン、ンッ、甘利田家に忠誠を誓ったボディガードさんたちですから」


「言った、今、組って言った! 組って言いましたよね!」


「言っ、言ってないです!! この人たちはカタギ......ン、ンッ、一般人の人たちですから!!」


「言った!また言ったこの人!」


口が軽いというかおっちょこちょいというか、これでよくメイド長が勤まっているな。

どことなく、ボディガードの人たちの顔も焦っているように見える。


だがすぐに無表情に戻し、こちらをじっくりと見てくる。

まぁこれ以上聞くと私が消されかねないので、深追いはやめておこう。


「あの......なんか見られてて怖いんで手を握ってもらってもいいですか......」


「えぇ、仕方ないですねぇ、はい」


冥土さんはこちらに手を差し出す。

合法ロリと手を繋ぐことができるなんて。

やったね。


等間隔に並ぶ屈強そうなボディガードたちの間を、冥土さんに手を繋いでもらいながら歩く。

この小さい手の温かみを感じたいのに、黒服たちに見られながらだと喜び半減といったところだ。


冥土さんに連れられ階段を登ると、壁に大きな写真が飾ってあった。

左側には金髪の小太りで口ひげを蓄え、いかにも成金そうな男性が。

右側には赤子を抱いた、容姿端麗な金髪の女性が。


「これは、甘利田家の家族写真です」


私の心を呼んだかのように答える冥土さん。


「左側にいるのが、メアリーお嬢様のお父様である甘利田・アーノルド・アルベルト様で右側でまだ赤子のメアリーお嬢様を抱いているのがお母様である甘利田・アルト・アルデバラン様です」


揃いも揃って分かりにくい名前だな。

お父さんとお母さんは自分の名前で苦労したことは少しぐらいはあるだろうに、どうしてアメリア・メアリーなんて呼びにくい名前を付けたのか。


そう考えながら歩いていると、ドアの前に着いた。

そのドアの左右には二人の黒服のサングラスをかけた男女が。

右側には金髪の角刈りのガタイのいい男性。

左側にはスタイルのいいブロンドの女性。

まるで阿形吽形、狛犬獅子である。


「お待ちしておりました。冥土様、そして傾様。私たちは甘利田家ボディガード隊の隊長です。この部屋にメアリー様はお待ちしております」


金髪の女性は冷徹な声で続けて、


「この部屋に入る時のルールをお嬢様から受け賜っていまして。ライオネル、説明を」


ライオネルと呼ばれた角刈りの男性は返事して、


「メアリーお嬢様から受け賜った話は、この部屋に入る際は目をつぶってから入ること、そしてこちらが了承するまで、絶対に目は開けてはならないと、そう言われております」


本当に怖くなってきた。私はこの先、部屋で何をされるのだろうか。


「傾さん、もし無事に生きていられたら私の体、好きなだけ触らせてあげますから......。どうかご無事で」


「なんで愛する彼を戦地に送り出す女みたいな感じなんですか!? 私、この先で何されるんですか! 凄く怖いです! 冥土さん、着いてきてくださいよ!!」


「申し訳ありませんが傾様と2人きりでお話がしたいとお嬢様が」


ライオネルさんはそう私と冥土さんを引き離す。血も涙もない。


私は意を決して扉の前に立ち、目を閉じる。

扉が開く音がし、一歩づつ慎重に歩く。


数歩歩くと、バタンッという大きな音とともに背中と首に風が当たるのを感じた。

扉が閉められたのだ。これで私は逃げるところなしとなる。


「傾サン、やっと来てくれたのですね。それではあと六歩、前に進んでください」


それは、甘利田さんの声だった。

言われた通りに一歩づつ歩みを進める。


一歩。


二歩。


三歩。


四歩。


五歩。


六歩。


「それでは目を開けていいデスヨ」










目を開けるとそこには、全裸の甘利田さんが立っていた。





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