刀── 其ノ拾陸 「思い、繋げて」
走る。
走る。
走る。
ひたすら走る。
ただただ走る。
剣さんの元に行く為に。
甘利田さんを助ける為に。
私の為に。
痛む足に鞭を打ち、部屋を出て、階段を登り、正面を突っ走る。
向かうは──二階北エリア。
二階北エリア。
特別展示室。
斬血・剪定刀の置かれた場所。
「はぁ......はぁ......はぁ......」
斬血・剪定刀が置かれてある二階北エリア特別展示室に着くと、そこに入るための扉は固く閉ざされていた。
多分、剣さんが閉めたんだろうな。
その理由は明確、誰にも(今、この部屋に入ることのできる状況にいる人間は私だけだが)入ってきて欲しくないからだろう。
扉越しからでも分かる禍々しいオーラ。
だが、そんなものに気圧されてはいられない。
私は全体重をかけ、思い切り扉に体当たりをした。
............。
ビクともしなかった。
まだ一回だけだからな、めげずに続けよう。
「痛い......」
..................。
あれ、こういうのって二回か三回やればできるもんじゃないのか?
もう十回ぐらいは扉にぶつかっているのに、一向に破れないぞ。
漫画だともう空いてるはずなのに。
ろくに運動もせず毎日ぐうたら三昧だから、体重が軽いわけでは決してないんだけどな。
こういう時に必要なのは、筋肉であり脂肪ではなかったか。
「ふんっ! ふんっ! ふんっ!」
諦めずにぶつかり続け、腕の骨が悲鳴を上げ始めた時、ようやく扉は開いた。
部屋の中心にそびえ立つ──山のような黒い塊。
そして黒い塊、斬血・剪定刀と相対する剣さんの背中。
「......剣さんっ!」
「傾、どうしてお前がここに!」
こちらに振り向き、驚いた顔をした剣さん。
こんなに驚いた顔をした剣さんは初めて見た。
そりゃ、待っとけって言った相手が言いつけを守れずにすぐに自分のところに来たらこんな顔になるか。
「私も、なにか力になることはないかと思って......」
「全くお前って奴は......はぁ......」
剣さんは私に呆れたのか大きく溜息をついた。
分かっています、私なんかが来ても役に立たない、いや、足を引っ張ることを。
でも、甘利田さんと約束したんです。
──助けるって。
「それで、今の状況はどうなってるんですか?」
「正直言うと、近づくことも出来んな」
剣さんは腰に付けた鞘から饕餮刀を取り出し、巨大な黒い塊に向かって走り出す。
すると、黒い塊からいくつもの人の顔が浮かび上がってきた。
うわぁ、悪趣味。
斬血・剪定刀を守る為に出来上がった黒い塊に浮かび上がった顔は口を開き、その中から触手が飛び出す。
一つの顔、一つの口につき、触手は一本だが、幾つもの顔から伸びる触手の総量は二、四、六、八──十八、二十──二十本ぐらい。
先端が刃物のように尖った触手たちは剣さんを串刺しにしようと襲い掛かる。
剣さんは、さすがに二十本の触手には避けきれず、全身が串刺しに──なることはなく、華麗に躱し、向かってくる触手を切り裂いていく。
向かってくる無数の触手は切っても切っても、再び生えてくる。
終わりが見えない。
終わりがない。
「こんな調子で、斬血・剪定刀のある黒い塊まで近づけないんだ。甘利田を助けるには、いち早く奴を倒さねばならんのに」
剣さんが私のいる入り口付近まで下がると、触手の攻撃がピタリと止み、浮かび上がる顔面の口へと戻っていく。
「あれ? 攻撃してこない......」
「それは多分、俺が奴の敵対対象から外れたからだろう。奴には一定の敵対範囲があり、その中に入ってきた者だけを敵対し攻撃しているのだと俺は推測する」
今は、剣さんがこの敵対範囲から出たから触手が引っ込んだ。
近付かなければ敵対することはない──それだけ聞けば、大して危険な感じはしないが、現に斬血・剪定刀は範囲にも入っていない無関係の甘利田さんを傷つけている。
早く何とかしないと、甘利田さんが痛みでショック死してしまう。
なにか方法はないか......?
考えろ。
考えろ。
私が役に立つ作戦を。
私が役に立つ方法を。
あるか? そんなもの。
私と剣さん。
攻撃力、防御力、体力、その他色々、全てにおいて剣さんに劣っている私が役に立つ方法? 作戦? こんなものあるのか?
そんな弱い私がいっちょ前に案なんて考えても──
いや、そんな卑屈な事思うな。
甘利田さんを助ける、剣さんは力になる、そう確固たる意思で来たんだろ。
そんな考えをする時間があるなら、作戦を考えろ。
私が熟考している間も、剣さんは斬血・剪定刀に対し、何度も突っ込んで刀を振るい触手を断ち切る。
だが、剣さんが刀を振れば振るほど、触手を斬れば斬るほど、触手の勢いは強くなっていく。
黒く鋭い触手は切断されると、口の中へと戻り、また新しく先端を鋭利にした触手が再び生えてくる。
いたちごっこ、いや時間がかかればかかるほど、甘利田さんの体力が減っていくから、完全にこちら側が不利である。
攻撃する度、触手の攻撃も激しくなる。
そんな相手と、どう戦えば──
私がいるからこその──私がいてこその作戦を考えないと。
剣さん一人ではなく、剣さんと私、二人いるからこそできる作戦を。
あぁ、指で直接脳みそを弄れたらなぁ。
でも私は不死身でも吸血鬼でもない。
こんな痛いことはできないし、頭の中に直接指を入れる力もない。
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海馬が焼き焦げるぐらい考えに考え、私の脳には、一つの策が浮かんだ。




