刀── 其ノ拾伍 「容態急変」
黄金郷を倒し、中で囚われていた甘利田さんを助け出すことができた。
長いようで短い戦いだったな。
いや、全然長かった。
めっちゃ疲れたし。
足もクタクタだ。
座りたい、休みたい、ベッドでゴロゴロしたい......。
黄金郷が完全に溶けて無くなると、空間が歪み始めた。
上も黄金、下も黄金、東西南北全て黄金、むせ返るほどの黄金で満ちていた部屋は、あっという間に普通の部屋に。
あちこちに絵画が飾ってあるが、芸術に対する感性が乏しいので、見ても無駄である。
私に抱かれた甘利田さんはスヤスヤと、心地よさそうに、安らかに眠っている。
安らかに眠っている──この言い方だとまるで甘利田さんが亡くなったような言い草じゃないか。
......。
本当に亡くなってないよな......!
これでポックリ逝かれていたら、全てが水泡になってしまう。
だが、そんな事はなかったようだ。
眠る甘利田さんの胸に耳をつけると、確かに心音が聞こえた。
ゆっくりと、そしてしっかりと、噛み締めるように。
耳に伝わる音、温もり。
直に伝わる温かみ。
なんだって、甘利田さんの今の姿は一糸もまとわぬ真っ裸なのだから。
丸見えは丸見え。大丸見えである。
それはもう、秘部から恥部まではっきりと。
あ、甘利田さん、ちゃんと毛の処理してるんだ。
どこがとは言わないが。
それも、完璧を求めるばかりに──か。
あれ? よく考えると、今すごくエロい状況じゃないか?
よく考えなくても、全裸のクラスメイトの胸に頭を寄せているのは、間違いなくエロい状況か。
心音を聞く為に耳を胸元につける際、豊満すぎる甘利田さんの胸がこれでもか思うほど当たり、私は欲情感と劣等感に誘われる。
全く、大きすぎるんだよ。けしからん。
この胸にしゃぶりついて、かぶりついて、しゃぶり尽くしてやろうかと思ったが、何とか倫理観が働いてくれたので、妥協して揉むだけに決めた。
言っておくが、私はレズでも百合でもない。
私は両手で、甘利田さんの巨大な双丘を揉む。
うおぉ、柔けぇ。
まず、指が胸に触れた瞬間、肌が指に吸い付いてくる。
今まで人生でおっぱいを触ったのは、自分のと我が妹である杏美里の合計二おっぱい(片乳を一として数えるなら四おっぱい)だけだったが、どうやら私が今まで触ったおっぱいは本当のおっぱいではなかったらしい。
甘利田さんのこの胸、このおっぱいこそが本当のおっぱいである。
大きさ、柔らかさ、形、弾力、どこをとっても完璧。
正におっぱい。
真におっぱい。
なんちゅうもんを揉ましてくれたんや......。
なんちゅうもんを......。
こんな凄いおっぱいを私は揉んだことない......
これに比べると、杏美里のおっぱいはカスや。
揉めば揉むほど指が胸に沈みこんでいく。
やめられない、止まらない。
カッパえびせんもびっくりだ。
それで、甘利田さんは起きているのだろうか。
今、合計二十揉みぐらいしているが、甘利田さんは一向に起きる気配がない。
同人誌とかでよく見る、寝ている間に色々えっちなことをするアレは本当にできるのか......!
いや、もしかして、起きている......!?
だが、もし起きていたとしたら揉んでいる私を止めるはずだ。
──少女思案中──
起きている上で、私が触っていることを許可している......!?
そうだ、そうに違いない。
誘っているんだな。そう捉えていいんだな。
起きていたとしてもヤッてやる!
よぉし、この胸にしゃぶりついてやる──
「何しているんだ......? 傾」
振り返ると、こちらから顔を逸らした剣さん。
なんで顔なんて逸らしているんだ?
「いやぁ〜、何もしてませんよ──」
「そのままでいいッ! 動かないでくれ......動いたら、見えてしまう......」
見える......?
ああ、甘利田さんのことか。
こんな見た目をしているが、剣さんの年齢は十七歳。
思春期の男子に甘利田さんの裸はちと刺激的すぎるか。
よく甘利田さんの裸があるのに、見ないのはかなり紳士だな。
昨日、廃工場で斜忍さんが検診していた時も、見ないようにしていたな。
私が男だったら、視姦しまくってしただろう。
「俺たちにはまだやることがあるんだからな」
お遊びもそこら辺にして、甘利田さんの胸から手を離す。
甘利田さんを追いかける時に、階段を降りたりしたはずだから、ここは一階の何処かだ。
甘利田さんの服は二階にあるので、取りに行かないとな。
二階には斬血・剪定刀があった──
その時──
その時だった──
床に横たわり、眠る甘利田さんの体に斜め一文字に刀の斬り跡が浮かび上がる。
「ああああああああああっ!」
そして、甘利田さんの絶叫。
何が、起きているんだ?
それだけでは終わらなかった。
どんどん、どんどん、甘利田さんの体には黒い斬り傷がつけられていく。
まるで本当に刀で斬られているような。
そんな傷が、顔に、体に。
斬り傷が一つ、二つと付いていく度に、甘利田さんは──顔を歪め、歯を食いしばり、歯を食いしばりきれず、絶叫をあげる。
「剣さんッ!! なっ、何が......!! 何が起こってるんですか!! 黄金郷は倒したはずじゃ──」
「ちょっと待ってくれ......! 俺もまだ答えが出ていない......」
剣さんは床に足をトントンと貧乏ゆすりをしながら俯き、思案している。
一体何が......甘利田さんに......
「多分だが、答えが出た。傾、斬血・剪定刀には三つの怨念が入っていると言ったのは覚えているか?」
確か、一つが斬血・剪定刀により殺された百人斬り事件の被害者の怨念。
そして二つ目が百人斬り事件の犯人である斬血・剪定刀の持ち主の残留思念。
最後三つ目が斬血・剪定刀本体の刀の意思。
「そう。俺と斜忍はその三つの内、甘利田に呪いをかけたのは被害者の怨念だけだと思っていた。だが、違ったんだ。甘利田に呪いをかけたのはもうひとつ──刀の意思だ」
付喪神──剣さんはそう言った。
長い年月使用された道具に、霊魂などが宿ったもの──と世間一般的に言われているが、それは間違いらしい。
この世の万物は全て出来た時から、物に魂は存在しており、長年かけてその力を増大させたものを付喪神と呼ぶらしい。
斬血・剪定刀の付喪神。
人間を百人以上斬り殺し、刀身を血で染めたまま、何百年もあり続けた刀の魂。
それがどれだけ恐ろしいものかは、考えなくとも理解できた。
「剣さん......どうしたら?」
「このまま行くと、甘利田が痛みでショック死する可能性もある。一刻も早く、あの刀を破壊しなければ!」
剣さんはそう言い、四足歩行で走り出した。
「私はっ! どうしたらっ!」
「傾には危険過ぎる。甘利田の傍で待っていろ!!」
あっという間に、見えない距離まで走っていった剣さん。
テレビで四足歩行の百メートル走でギネスを取った人を見たことがあるけど、その人よりも全然早いと思う、いや思うではなく完全にそうだ。
だってそもそも走り方が違うんだもん。
ギネスを取った人は人間が無理をして四足歩行をしているという感じだったが、剣さんはまるで獣のように四足歩行が様になっている。
四足歩行で長年過ごしていたような。
「って──そんなことより、甘利田さん......大丈夫!?」
「フゥ......フゥ......ンン......アァ......!!」
何度も声掛けするが、甘利田さんは苦しむだけで返事をしてくれない。
黄金郷の呪いの時もそうだった。
デジャブはデジャブでも、こんなの最悪だ。
私には何も、できないな......。
剣さんの所の向かっても、私に出来事などないのだ。
それはさっき、私の目で見てわかった。
剣さんは私が倒すのに、あんなに足らない知恵を絞り、労力をかけて倒したムシャを一瞬で倒してしまったのだから。
あの時は、連れて行かれた甘利田さんを追いかける為に走っただけで、甘利田さんが傍にいる今は私はここで待機していた方がいい......。
でも、なんだろう、この無力感は......。
あんなちょっとのことで、剣さんの力になれると思っていた自分が恥ずかしい。
それに、剣さんの力になることも、甘利田さんの苦しみをどうにかするもできない、そんな自分の存在価値が分からなくなってきた。
「ンン...... ングゥ......。か、傾サン......」
「......!?」
甘利田さんは重い片瞼を開ける。
右瞼だけ開ける。
それしか開けられないのだ。
反対側、彼女の左瞼を含めた左頬に斬り跡が浮かび上がっているからだ。
「甘利田さん......! 大丈夫!?」
「だ、大丈夫デスヨっ...... カ、カカッ、傾サン...」
──全然大丈夫じゃない!
甘利田さんは腕を、脚を、頭を、全身をガクガクと痙攣させながら。
「あんまり話さない方がいいよ。どれぐらいの痛みが襲ってきてるかは分からないけど、とりあえず今は安静にしておいた方が──」
「ん......ンン......大丈夫デスヨ。全く心配いりマセーンよ。ワターシ、全然痛くないデース」
「痛すぎてキャラ変わっちゃってるよ!!」
甘利田さんはたしかにカタコト日本語使いだったけど、そんな伸ばし棒ばかり使う話し方じゃなかったぞ。
ペガサスか。
「痛くないと言ったら嘘になりますガ、別に耐えれないほどの痛みじゃありませんカラ」
そう言って、震える右手でグッドマークを作った甘利田さん。
そんな歪んだ顔で言われても説得力がない。
剣さんがあんなに焦っていたんだ、多分黄金郷の被害者の怨念の呪いなんかより何倍も強い呪いであり、何倍も激しい痛みが甘利田さんを襲っているのだろう。
なのに、なのに甘利田さんは私に変な不安を持たせないために気丈に振舞っている。
どれだけできた人間なんだ貴方は。
「さっきの話を少し耳に挟みまシタガ......ワタシは今、斬血・剪定刀の呪いにかかっちゃったってコトなんですよネ」
「それで今、剣さんが何とかしに行ってるから。甘利田さんもきっとすぐ大丈夫になるから」
「傾サンは──傾サンはワタシのところにいるよりも、戦刃通サンのところに行ってきてクダサイ」
「そんなことできないよ! それに私が行ってもできることなんて......」
何を言っているんだ甘利田さんは。
私が行ったところで何の役にも立たないんだから、言ったところで無駄だ。
「傾サンが戦刃通サンのところ、斬血・剪定刀がある所に行きたいって顔に浮き出てマスヨ」
「私、こんなに顔に出やすいタイプだったっけ!?」
つい、自分の顔をペタペタと触ってしまった。
顔に出るってそんな言葉通りの意味じゃないに。
「顔に出てないか確認したってコトは、傾さんは本当に剣さんのところに行きたいって思ってたってコトですね」
「アッ!」
カマかけられた!!
マヌケは見つかってしまったようだ。
「まさか傾サンがこんなに騙されやすい人だったとは、正直驚きデス」
「で、でもっ 。別にここで甘利田さんの容態を見てるのが嫌とかじゃ──」
「分かってますよ。これぐらい。傾サンがワタシを助ける事を考えているのは」
「──だからこそ、傾サンには行って欲しいのです」
「で、でも私が向こうに行ってる間に甘利田さんが死んじゃうかも──」
「ワタシは死にませんよ。傾サンがワタシを助けようとしてくれている限りは」
「............」
こんな事。
こんな事言ったって。
死なないだなんて、そんなこと。
何の確証もないのに......。
「だから、傾サンも死なないでクダサイネ」
「分かったよ。任せて」
私は立ち上がり、甘利田さんを見つめる。
絶対に生きて、甘利田さんを助ける。
絶対に助けて、甘利田さんには生きてもらう。
「ングゥ......ゥ......傾サン......最後に一つダケ......」
いい感じの言葉が出たので、上手く締めれたと思ったのに。
「何? 甘利田さん」
「おっぱいを触る時は、モット優しく揉んでほしいです」
起きてたのか!!




