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第68話 〜集会〜

 十一月の第一週、土曜日の朝。


 目が覚めて、枕元の懐中時計を、握った。

 温かい。


 ぼやけてはいたが、温かい。


 *(今日、温かい)*


 今日は、八王子の、いのちの家で、全国シェルター連絡会議が、開催される日だった。

 俺は、招かれていた。

 KY Pet Foods の代表として。


 時計が、温かい日に、こういう日が、重なるのは、いいことだ、と感じた。


 映像は、なかった。

 でも、温度は、確かだった。


 ノートに、記録を、つけた。

 「十一月一日 温/映像なし/会議」


---


 九時。

 吉野さんが、迎えに来た。


「会長、おはようございます」


「おはようございます。今日、八王子です」


「承知いたしました」


「西村と、藤原と、水沢さんは、別の車で、現地に直行します」


「了解しました」


 車内で、ペットボトルの水を、飲んだ。

 車が、青山から、中央道に、向かう。


 十一月の朝。

 空気が、冷たい。

 ジャケットの下に、薄手のセーターを、着ていた。

 もう、それで、ちょうどいい温度だった。


 窓の外、街路樹の葉が、ほとんど、落ちていた。

 あった葉も、赤か、茶色。

 秋が、深まっていた。


---


 吉野さんの運転は、いつも通り、滑らかだった。

 八王子インターで、降りた。

 住宅街を、抜けて、丘の上に、出た。


 いのちの家の、駐車場。

 いつもより、車が、多かった。

 関西、九州、北海道のナンバーが、混じっていた。

 みんな、レンタカーで、来たのだろう。


 車から、降りた。


 高木さんが、門の前で、待っていた。

 今日は、白いシャツに、紺のジャケット。

 いつもの作業着姿ではなく、少し、改まった格好。


「桐島さん、本日は、本当に、ありがとうございます」


「こちらこそ、お招きいただいて」


「皆さん、もう、お集まりです」


「藤原さんたちは」


「先ほど、到着されました。会議室の準備、進めてくださっています」


---


 いのちの家の、奥の方に、広い会議室が、あった。

 元は、倉庫だった場所を、改装した、と高木さんが、説明した。

 長机が、四つ、コの字型に、並べられていた。

 席が、十二席ほど。


 藤原と、配信スタッフが、会議室の隅で、カメラを、セッティングしていた。

 アンちゃんが、白いシャツに、紺のスカート。

 いつもより、おとなしい格好で、椅子に、座っていた。


「アンちゃん」


「あ、遊馬くん」


「準備、順調?」


「うん。藤原さんが、全部、やってくれてる」


「今日、よろしく」


「うん、頑張る」


 西村が、会議室の入口で、こちらに、手を、振った。


「会長、皆さん、もうすぐ、揃うって」


「了解」


 各団体の代表が、徐々に、会議室に、入ってきた。

 高木さんが、一人ひとり、紹介してくれた。


 関東圏内三団体の、代表(八月以降、KY Pet Foods から、月一搬送を、受けている)。

 関西から、二団体。

 九州から、一団体。

 北海道から、一団体。

 合計、八団体。

 高木さんを、含めて、九団体。


 みんな、五十代、六十代の女性、男性が、中心。

 共通点が、ある。

 日に焼けた肌。

 手が、太い。

 声が、温かい。


 *(みんな、現場で、動いてきた人たち)*


---


 午前十時。

 会議が、始まった。


 高木さんが、司会を、務めた。


「皆さま、本日は、遠路、お集まりいただき、ありがとうございます。本日の会議の目的は、二つです。一つは、各団体の現状報告と、課題の共有。もう一つは、KY Holdings 代表の桐島さんから、KY Pet Foods の全国展開計画を、お伝えいただくこと」


 俺は、頷いた。


「では、まず、各団体から、自己紹介と、簡単な現状報告を、お願いします」


 関東の、三団体から、順番に、報告が、始まった。


 茨城の団体:犬八十頭、猫四十五頭。九月から、KY Pet Foods のフードを、無償で、受け取っている。フード代が、年間五百万円、浮いた。その分を、医療費に、回している。今月、目の手術を、五頭、行う予定。


 神奈川の、井上さんの団体:犬六十二頭、猫二十八頭。九月、十月と、二回、KY Pet Foods の搬送を、受けた。スタッフが、もっと、保護活動に、集中できるようになった。


 千葉の団体:犬五十頭、猫二十頭。十月から、KY Pet Foods 搬送開始。


 関西の、二団体:兵庫の団体は、犬百二十頭、猫六十頭の大規模シェルター。大阪の団体は、犬四十頭、猫三十頭の中規模。両方とも、フード代が、月七十万円、年間で八百万円を、超える。


 九州の団体:福岡。犬七十頭、猫五十頭。

 北海道の団体:札幌。犬九十頭、猫四十頭。冬の暖房代が、月六十万円、年間二百万円。


 各団体の数字は、衝撃的だった。

 俺は、メモを、取った。

 全国の規模が、現実として、見えてきた。


---


 各団体の報告が、終わった。


 高木さんが、桐島に、目を、向けた。


「桐島さん、お願いします」


 俺は、ゆっくりと、立ち上がった。


 会議室の、八団体、九人の代表が、こちらを、見ていた。

 藤原のカメラも、こちらに、向いていた。

 配信が、すでに、始まっていた。

 同時視聴、八百人。


「皆さま、はじめまして。KY Holdings の桐島と、申します」


 深く、頭を、下げた。


「八月の、いのちの家への、初荷搬送から、二ヶ月半が、経ちました。九月、十月で、関東圏内の三団体に、定期搬送を、拡大しました。本日は、全国の皆さまに、お会いできて、嬉しく、思います」


「桐島さん、よろしくお願いします」


 関西の、兵庫の団体の代表、五十代後半の女性が、頷いた。


「単刀直入に、お伝えします。来年の一月から、本日お集まりの八団体すべてに、月一回の定期搬送を、開始します」


 会議室が、しんと、静まり返った。


「兵庫、大阪、福岡、札幌、千葉、いのちの家を、含めて、全八団体。各団体の頭数と、フード消費量に、応じて、無償提供量を、決定します」


「桐島さん」


 北海道の代表、六十代の男性が、口を、開いた。


「うちは、札幌で、犬九十頭、猫四十頭、抱えています。月間消費量が、ドライフードで、八百キロ、ウェットフードで、二百キロです」


「了解しました」


「それを、無償で、毎月、運んでいただけるのですか」


「ええ。送料を、含めて、すべて、こちらで」


「……札幌まで、ですよ」


「わかっています」


「桐島さん、それは、いくら、コストが、かかるんですか」


「皆さま、合計で、月間約二百万円程度の、無償提供コストです」


「年間で、二千四百万円」


「ええ」


 会議室の、空気が、変わった。

 みんなが、お互いの顔を、見ていた。


 俺は、続けた。


「もちろん、無償提供だけで、事業は、成り立ちません。KY Pet Foods の主力は、有料の販売です。全国のペットショップと、ネット販売で、月間二千万円から、三千万円の売上を、目指しています。その利益の中から、無償提供分を、賄います」


「事業として、成立しているのですか」


「現時点では、ぎりぎりです。来年、再来年、と、販売を、伸ばしていきます」


「桐島さん、本当に、これは、続けてくださるのですか」


 兵庫の代表が、聞いた。


「ええ」


「失礼ながら、一過性の話で、終わる気は、ありませんか」


「ありません」


「なぜ、断言できるのですか」


 俺は、少し、考えてから、答えた。


「金で買えないものを、金で買えるようにする方法を、探しているからです」


 会議室が、また、静かに、なった。


「シェルターの活動は、お金が、なければ、回りません。でも、お金は、いくらでも、稼げる。フードを作る工場も、私たちが、買いました。これを、続ける仕組みは、できています」


「……」


「皆さまには、シェルターを、続けていただきたい。私たちは、その応援を、続けます。それが、事業として、成立する範囲内で」


 兵庫の代表が、ゆっくりと、頷いた。


「桐島さん」


「はい」


「ありがとうございます。代表として、心から、お礼を、申し上げます」


 各団体の代表が、順番に、頭を、下げた。


 俺は、深く、頭を、下げ返した。


---


 会議は、午後にも、続いた。

 昼食を、挟んで、議題が、進んだ。


 各団体の、フード以外の課題:

 医療費。

 ボランティアの人材不足。

 譲渡率の低さ。

 行政との連携。


 俺は、メモを、取り続けていた。


 兵庫の代表が、提案した。


「桐島さん、医療費の支援についても、何か、お考えは、ありますか」


「現時点で、私たちが、できることは、まだ、ないです。獣医師の紹介や、提携病院との価格交渉なら、考えられますが、現金支援は、難しい」


「わかります。フードの支援だけでも、十分です」


「ただ」


「はい」


「シェルター同士で、医療費の相互支援基金、というものを、作れませんか」


「相互支援基金?」


「ええ。各団体から、月一万円ずつ、共通の口座に、積み立てる。八団体で、月八万円。年間で百万円弱。それを、緊急の医療費に、使えるようにする」


「八団体で、年間百万円ですか」


「規模としては、小さい。でも、もし、各団体の独自の寄付窓口で、その基金を、紹介して、寄付を、募れれば、もっと、増やせます」


「いいですね、それ」


「事務局を、いのちの家に、置く。会計は、私たちKY Holdings の山下が、お手伝いします」


「桐島さん、それも、よろしいのですか」


「はい。事業の外側で、こうした支援基金が、回るのは、いいことです」


 兵庫の代表が、頷いた。

 高木さんも、微笑んでいた。


---


 夕方の四時。

 会議が、終わった。


 各団体の代表が、シェルターの庭で、コーヒーを、飲みながら、雑談していた。

 犬たちが、サークルの中で、走り回っていた。


 西村が、横に、来た。


「会長、すごい会議だった」


「ええ」


「百万円の基金も、決まったしね」


「うん」


「会長、いいスピーチだった」


「スピーチ、苦手だ」


「そんなに見えなかったよ」


「ありがとう」


 藤原が、配信を、終了させた。


「会長、配信、ピーク三千二百人でした」


「すごい」


「アーカイブも、すぐに、伸びると思います」


 アンちゃんが、こちらに、来た。


「遊馬くん、お疲れ様」


「うん、お疲れ」


「私、ほとんど、しゃべってないけど、いいかな?」


「いいよ。今日は、会議の中継だから」


「うん。でも、コメント欄、すごかったよ」


「どんな反応?」


「『うちの近所のシェルターも、入ってほしい』『寄付したい』『フード届けたい』。ものすごい、共感の嵐」


「いいね」


「次のシェルター訪問配信も、すぐに、決めたい」


「藤原さんと、相談して」


「うん」


 *(アンちゃんが、自分の役割を、ちゃんと、果たしている)*


 *(私が、口を、出さなくても、伸びる)*


---


 帰り際、高木さんが、こちらに、来た。


「桐島さん、本当に、ありがとうございました」


「いえ、こちらこそ」


「ご縁を、ありがとうございます」


「お互い、ですね」


「桐島さん」


「はい」


「実は、来年の二月に、田畑さんという方が、ご紹介したい人が、いるんです」


「田畑さん」


「八王子で、子ども食堂を、運営されている方です。元、小学校の先生。お年は、六十八歳」


「子ども食堂」


「ええ。月三回、地元の子どもたちに、夕食を、提供しています。食材費が、苦しいと、ずっと、相談されていました」


「ああ」


「桐島さんの、シェルターへの取り組みを、田畑さんに、お伝えしたら、ぜひ、お会いしたい、と」


「了解です。来年の二月、田畑さんに、お会いします」


「ありがとうございます」


 *(高木さんが、シェルターから、子ども食堂へと、繋いでくれている)*


 *(金で買えないものを、金で買えるようにする。次は、子ども食堂か)*


---


 帰りの車。

 吉野さんの運転で、八王子から、東京へ、戻った。


 車内で、ぼんやりと、考えていた。


 今日、八団体が、集まった。

 一人ひとりが、現場で、動いてきた人たち。

 みんな、似ていた。

 日に焼けた肌。

 手が、太い。

 声が、温かい。


 *(これが、社会の中の、繋がりというものだ)*


 *(俺は、その一部に、入った)*


 *(時計が、終わっても、この繋がりは、続く)*


 窓の外、夕方の中央道。

 西の空が、赤く、染まっていた。

 夕焼け。

 十一月の、夕焼けは、夏の夕焼けより、少し、深い色を、していた。


---


 タワーマンションに、戻った。

 リビングに、入った。


 懐中時計を、テーブルに、置いた。

 握ってみた。

 朝のままの、ほのかな温度。


 *(時計が、今日も、ありがとう)*


 ソファに、座って、コーヒーを、淹れた。

 窓の外、東京の夜景。

 十一月の夜は、冷たい。


 スマートフォンに、桑原さんから、LINEが、来ていた。


 *「今日の配信、見ました。シェルターの会議、すごかったですね。桐島さんのスピーチも、よかったです」*


 *「ありがとうございます」*


 *「来年から、八団体への定期搬送ですか」*


 *「ええ」*


 *「すごい規模ですね」*


 *「みんなのおかげで、できることが、増えました」*


 *「桐島さん、今、お電話、いいですか」*


 *(電話? 珍しい)*


 桑原さんから、電話が、来ることは、めったに、ない。


 *「もちろん」*


 すぐに、電話が、鳴った。

 桑原さんの声が、聞こえた。


「桐島さん」


「桑原さん、こんばんは」


「夜分、すみません」


「いえ」


「配信、見ていて。なんとなく、声が、聞きたくなって」


「ありがとうございます」


「桐島さん、今日、輝いていました」


「……」


「シェルターの会議で、お話している桐島さん、いつもより、強く、見えました」


「そうですか」


「ええ。私が、フランスに行く前に、もう一度、会いたくなりました」


「いつでも、会えます」


「では、来週末、ふくろうで」


「了解です」


「桐島さん」


「はい」


「もっと、続いていく桐島さんを、見たいです」


「……ありがとうございます」


「では、来週末」


「来週末」


 電話が、切れた。


 俺は、しばらく、スマートフォンを、手に持ったまま、いた。


 *(桑原さんが、電話を、かけてきた)*


 *(声を、聞きたかった、と言ってくれた)*


 *(それは、桑原さんが、踏み込んできた、ということだ)*


 *(こんな桑原さんは、初めてだ)*


---


 冷蔵庫から、ビールを、出して、飲んだ。

 長い一日が、終わろうとしていた。


 窓を、開けた。

 冷たい夜風が、入ってきた。

 十一月の東京。

 遠くで、街の音が、聞こえていた。


 *(明日も、続いていく)*


 *(多分、ずっと、続いていく)*


 ベッドに、入った。

 目を、閉じた。


---


**── 残高メモ ──**


| 項目 | 金額 |

|:--|--:|

| 10月最終週〜11月初週 ギャンブル収益 | +約150万円 |

| 個人費用 | ▲約5万円 |

| 前話繰り越し(個人) | 約26,670万円 |

| **桐島遊馬 個人資金** | **約26,815万円** |


| 項目 | 金額 |

|:--|--:|

| 桐島個人より追加出資(11月分) | +5,000万円 |

| FORECAST 11月月次売上 | +約780万円 |

| 不動産賃料収入(11月分・5物件) | +約265万円 |

| 各種経費・人件費(11月分) | ▲約450万円 |

| 既存融資返済 | ▲約180万円 |

| 新規融資返済 | ▲約284万円 |

| 品川ローン返済 | ▲約30万円 |

| 恵比寿物件取得・諸費用 | ▲約8,200万円 |

| 前話繰り越し(法人) | 約17,408万円 |

| **KY Holdings 法人口座** | **約14,309万円** |


*11月、桐島個人からの追加出資5,000万を実行(計1億)。恵比寿の店舗物件取得(取得額8,000万+諸費用200万=計8,200万)。融資借入残高:約23,718万円。品川ローン残高:約6,832万円。来月12月にも、追加出資5,000万を実行予定。*


| 項目 | 金額 |

|:--|--:|

| ギフト収入合計(事務所分10%・11月) | +約50万円 |

| 企業案件収入(事務所分30%・11月) | +約50万円 |

| 人件費・ライバーサポート等(11月分) | ▲約160万円 |

| 前話繰り越し(KY Live) | 約75万円 |

| **KY Live 法人口座** | **約15万円** |


*月間収入100万、赤字幅60万。年内黒字化、視野に入る。*


| 項目 | 金額 |

|:--|--:|

| 受注加工売上・大手取引(11月分) | +約580万円 |

| 諸経費(11月分) | ▲約475万円 |

| 前話繰り越し(ナカジマ精工) | 約5,057万円 |

| **ナカジマ精工 口座残高** | **約5,162万円** |


*月次黒字12ヶ月連続。来月、超小型インペラ論文掲載予定。*


| 項目 | 金額 |

|:--|--:|

| 月間売上(11月分) | +約2,750万円 |

| 経費・無償提供原価 | ▲約2,610万円 |

| 前話繰り越し(田島フーズ) | 約1,615万円 |

| **田島フーズ 口座残高** | **約1,755万円** |


*KY Pet Foods、来年1月より全国8団体への月一定期搬送を開始予定。シェルター医療費相互支援基金(年間百万円規模)の事務局を、いのちの家+山下CFOで設立予定。*


| 口座 | 残高 |

|:--|--:|

| 桐島遊馬(個人) | 約26,815万円 |

| KY Holdings(法人) | 約14,309万円 |

| KY Live | 約15万円 |

| ナカジマ精工 | 約5,162万円 |

| 田島フーズ | 約1,755万円 |

| **総資産(融資別)** | **約48,056万円** |


*恵比寿物件8,000万取得により、不動産事業は計6物件に拡大。総資産は、追加出資・物件取得・諸経費を経て約4億8千万円。融資借入残高:約23,718万円。品川ローン残高:約6,832万円。来年2月、田畑(八王子の子ども食堂運営者・元教師)との面談予定。*


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