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泡沫戦争メモワール  作者: ハル
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第十七話 決戦

十七話。よろしくおねがいします。


 優希は西中学校の前で、遠ねえと合流した。琴音と遠ねえの仲は険悪だった。

 優希は二人の間を歩いた。意見がかみ合わない二人の仲介は、『ユーキも大変だな』と、フェンリルに同情される程であった。


 遠ねえに案内され、道を歩くこと二十分ほど、大きな洋館のような建物が見えた。

 「あそこよ」と、指を刺して遠ねえは言った。優希と琴音は訝しげな顔をした。なぜならあそこは市立西図書館だからだ。

 遠ねえはそこが、西図書館であることを肯定した。西図書館は市立図書館で最も小さな図書館で、大きさの割りには蔵書が少なかった。

 中学校の図書室よりはマシ。そんな感じであった。


 話し合いの結果、一階をオリヴィエ・琴音、二階をハーデス・遠ねえ、三階をフェンリル・優希で向かうことが決定した。

 話し合いと言っても、遠ねえのダイスロールアプリで決めた、根拠も策もへったくれもない決め方であった。


 三人は、”狙撃手”が住むと言われる洋館の三百メートル付近で、別れた。優希とフェンリルは、壁に沿って、洋館が視界に映らない位置取りをしつつ、方向感覚に身を任せ、館に近付く。


『この辺で良いだろう』


 フェンリルが足を止めて言う。優希はキョトンとした顔でフェンリルを見る。今、張り付いている塀は、館を挟む最後の民家であった。

 フェンリルは、優希を手招きする。優希がフェンリルに近付くと、フェンリルは優希の膝裏と、背中を、それぞれ片腕で支えた。

 優希は、自分がお姫様抱っこをされていることに、すぐ気がついた。そして、どこからか情けなさと、恥ずかしさの念が湧き出て赤面する。


『よし。心配するな。少し飛ぶだけだ。』


 フェンリルは地面を強く蹴り、館の間にある民家の屋根に飛び乗る。そして、その屋根を蹴り、学校の屋上にも届きそうな勢いで飛翔する。

 優希は、体に伝わる強い力と、今までに感じたこと無い風圧を感じ、顔をしかめる。放物線の軌跡を描きながら、フェンリルは館三階の窓を蹴り割って突入する。ガラスの破片が散らばった、エンジ色のカーペットに優希は降りた。

 その部屋は寝室であり、天井にはシャンデリア、右手にはカーテン付きのベッド、左手には綺羅びやかなチェストや、ドレッサーが並んでいた。赤紫色をモチーフにした部屋に、優希は貴族の家に紛れ込んだような気持ちになり、言葉を失った。


 気を戻した時、下からもガラスの割れる音がする。そして、直ぐ様銃声が下から響く。

 「下か!」と優希は強く呟く。優希は寝室の扉を開き、二階へと向かう階段を探す。フェンリルは『先に行ってるぞ』と言って、割れた窓から飛び出していった。


 レッドカーペットの敷かれた床に、大理石の壁、対岸に部屋は無いためか、ドアは無かったが、普段目にしない光景に、多少たりとも、優希は目を奪われた。

 見とれていた世界から、ハッと我に戻り、優希は階段を駆け下りて、音のなる部屋へと向かう。大きな木製の扉を開けようとした時、弾丸が、左側近くを掠めていく。

 ドアに目を戻すと、弾丸で穴の開けられた跡がはっきりと有った。優希はそこから、戦闘の様子を覗く。



 老人の周りを、水色の狼が剣で舞い、赤の少年が死神のように鎌で断罪する。

 険しい顔をしたフェンリルとハーデスに対し、アールネはすました顔で、密度の高い斬撃を捌いていく。


 ハーデスは黄色い弾を背に浮かべ、アールネ正面へと、不自然に少し後退してから打ち込む。

 サブマシンガンで相殺され、弾は空中で破裂する。

 アールネは後ろから迫る気配を感じ取り、アールネ視点で左上から迫るフェンリルの剣先を右後ろに下がって躱す。


 窓ガラスが割れる音とともに、壁越しに斬撃が走る。そちらの方をアールネが見ると、崩れた壁からオリヴィエが、館の二階へと入る。


「おや、三対一ですか。私を随分と、高く評価しているみたいですねぇ……」


 アールネは口元に笑みを浮かべて言う。その顔には、余裕の二文字がまだ残っている。

 フェンリルは口元を力ませ、「貴様」と呟く。オリヴィエは剣を構え、アールネへと距離を詰める。


「こういう時は」

 

 アールネはジャケットのポケットから少し大きいチューブのような形をしたものを、地面へ放おった。


「同時に相手しないことだ」

 

 アールネの声は煙幕とともに消えた。

 濃霧で囲まれた中、オリヴィエとアールネによる剣の打ち合いが始まる。

 

 オリヴィエは両手剣を片手剣と同じぐらいの剣速でアールネを斬る。しかし、アールネは、時に身を動かし、時にレイピアで受け流して、オリヴィエの剣を無力化する。


 音を頼りに、フェンリルは氷の槍を飛翔させ、アールネへと飛ばす。しかし、耳を頼りにした攻撃は、あまりにも、アールネに当たるようなものではなかった。


 オリヴィエは剣を打ち返され、一瞬の隙が生まれる。隙きを逃さぬよう、アールネのレイピアが、オリヴィエの心臓を貫こうをする。

 しかし、すました顔を一瞬強張らせ、アールネは斜め後方へと退く。


 退く前の位置にフェンリルは着地し、目視でアールネの姿を確認し、二本の素早い剣戟がアールネを襲う。


 アールネは押され気味になるも、力任せに剣を押し返し、少し空いた間合いに空かさず弾丸を打ち込む。

 

 部屋の換気システムが働き、段々視界が元に戻る。さっき換気のスイッチは銃で打って切ったはずだがと、アールネが照明スイッチの方を一瞥すると、その傍にはハーデスの姿があった。

 しかし、アールネが表情を崩すことは無かった。


 優希は二階の戦闘が行われている大広間の扉の傍に、遠野山は大広間の優希とは反対側の小さな扉の向こうに、琴音は大広間ベランダの影に隠れていた。

 オリヴィエ、フェンリル、ハーデスは近中レンジでの連携で幾度となく攻撃を仕掛けるも、傷を負わせることは困難であった


 攻撃を仕掛ける度に消耗するのは、数の優位を保てるはずの、優希陣営だった。

 爆音が再び響き、戦闘の波が一つ過ぎ去る。


「三人がかりでの奇襲は確かに有効でしょう。私の主殿の持つ宝石の数から妥当です。

 しかし、近接戦闘による連携は、些か難しい所がございます。

 ましてやこの屋内戦闘。君たちの敗因は詰まる所この二点にございます。

 けれど恥じることはありません。屋内故に、主を皆殺しにするのはかえって手間ですから」


 のらりくらりとした表情で、アールネは話す。傷を所々負った従者三人は、反論できず、ただ腕に力を入れているだけだった。


『一旦ここは退きましょう。このまま戦っても、ジリ貧になるだけです』


 オリヴィエが、優希陣営全員の脳内に語りかける。


『駄目だ、間違いなく、犠牲が出る』


 フェンリルが答える。


『なら、退くふりをして、もう一度奇襲するのはどう?』


 琴音が皆に聞いた。


『私は良いが、他はどうだ? 囮になった一人は、間違いなく犠牲になる』


『一人で済めば良いほうだよ。どのみちこのまま戦ったって負け確定だ。俺は、勝機のある方に乗るね』


『だ、そうだ。オリヴィエは、それで良いか?』


 フェンリルがオリヴィエに承認の有無を聞く。


『……主殿の提案なら仕方ないでしょう。やりましょう』


『わかったか? 優希、遠野山』


 「ああ」「ええ」と、返事が返る。


『というわけで、適当に打ち合って撤退だ。うまくやれよ』


 三人は、アールネに再び立ち向かう。何度やっても無駄な事を、と呟いてから、アールネは攻撃の手を解いていく。


 オリヴィエの両手剣と、アールネのレイピアが衝突し、大きな金属音を上げる。それを合図に、フェンリルは大広間の出入り口方向に、ハーデスはもう片方の、小さな扉の方向に、オリヴィエは窓から一階へと、三人は散開した。


「おや、ここに来て逃げるとは。……では先ずは、弱い方から狩っていきましょう」


 アールネはオリヴィエの方向を追った。オリヴィエは一階のロビーへと降りていた。広く、紫色を基調としていて、両側には大きな階段が、盛大なカーペットを敷かれた状態で、聳えていた。


 銃声が響き、屋内へと銃弾が降り注ぐ。オリヴィエは盾で身を守り、銃弾の来る方向に目を遣る。

 しかし、アールネは現れない。その代りに、手榴弾が一つ投げ込まれる。


 オリヴィエは後ろへ跳躍し、盾を構える。

 爆発音と同時に、手榴弾からアールネが現れる。オリヴィエは何が起きたのかがわからず、一瞬唖然とする。

 

 オリヴィエが手を止める暇なく、アールネは銃弾を撃ち、回り込んでレイピアで斬り込む。

 オリヴィエは左手に盾、右手に片手剣を持ち、盾で銃から、剣でレイピアから身を守る。


 何度も金属音が響き、何度も火花が散った。

 単純な剣の腕前であれば、正当騎士であるオリヴィエの方が上であった。

 そして、その腕前の差から、アールネから、隙きをもぎ取る。

 

 オリヴィエは両手剣を構え、魔力を集中する。オリヴィエの剣は青く光り、強風が室内に吹き荒れる。

 それは一瞬の出来事で、アールネが形成を整えるよりも早かった。その姿を琴音は階段の影から、固唾をのんで見守った。


「この剣はモノの本質を断つ。理に生きる剣」


 その剣をアールネへと振り切った。


純潔に宿る破壊の剣(オートクレール)」 


 オートクレールは、確かにアールネを斬った。しかし、アールネの体は無傷で、体勢を整えていた。


「いやはや、私のレイピアを叩き斬るとは。これは少々戦い辛い」


 オリヴィエは唖然とした。彼の頬から、冷や汗が伝わる。


「流石は知将の剣。主殿の援護無しではやられていたでしょう。このレイピアを折った貴方を称え、礼として、私も奥義を披露しよう」


 アールネは、軽機関銃に少し力を加える。


「魔術結界、── 起動」


 アールネの言葉とともに、華美なロビーは、朱に染まった空間に変わる。地面にはおびただしい数の頭蓋骨が転がっていた。


 オリヴィエはその場から動かなかった。いや、動けなかった。


「如何です。金縛りに遭った気分は」


 すました顔で、アールネは言う。


「そう怖い顔をしないで下さい。もう直ぐ、楽になりますから」


 アールネは、変形した軽機関銃に、一つの弾を込める。

 そして、ゆっくりと、オリヴィエに銃口を向けた。


 引き金を絞り、銃弾が放たれる。ゆっくりと、ゆっくりと、埋め込まれるように、オリヴィエの心臓に刺さる。


「魔術結界、── 解除」


 景色がロビーへと戻る。そして、大きな破裂音が響く。琴音は咄嗟に耳を塞いた。そして、階段から、オリヴィエの方向に目をやる。


 そこに、オリヴィエの姿は無かった。オリヴィエが立っていた場所には、血が吹き飛んだ跡があった。

 琴音自身が隠れていた階段からも、床へ、血が滴り落ちていた。


「この弾は、魔力と反応して膨大な空気へと変容する物質が含まれております。魔術結界の中では時間軸が遅いため、ダメージにも至りませんが、解除した瞬間爆発四散です。」


 アールネは琴音の気配を察知していることを知っているかのように、自分の奥義の説明を始める。


「貴女は幸運なようで、不運です。さぁ、早くお逃げなさい」


 アールネは軽機関銃を装填し直してから、銃口を琴音の方向へと向ける。


「私が殺してしまう前に」


 大きな銃声が、部屋の中に響く。琴音は、物陰を伝って、出口の扉へと近づく。

 そして、脱出のために、ドアへと近付いた。そこは、アールネの射線内だった。


 アールネの口元が吊り上がる。チェックメイトという顔だった。


 瞬間、天井が崩落し、その中から、ハーデスが、アールネの真上へと、鎌を振り下ろす。

 アールネは表情を崩し、シールドを張り、鎌から身を防ぐ。間髪入れずに誘導弾で別方向からハーデスは攻撃を試みる。

 アールネは軽機関銃を数発撃ち、後退する。琴音はこの隙間を縫って、館から脱出する。

 アールネの顔には、多少の焦りの顔が出ていた。今、アールネの主は、2階の奥の部屋に居る。


 アールネは、主がフェンリルに斬られる可能性を懸念しながら、軽機関銃で応戦する。

 ハーデスはジグザグに素早く動き、距離を詰める。


 アールネは長いジャケットの中から、ショットガンを出し、ハーデスの先を読み、至近距離で銃を向けた。


 二人の動きがピタリと止まった。しかし、時が止まったような瞬間は、ハーデスの不敵な笑みで崩壊する。


 アールネに寒気が刺した。それと同時にショットガンを発砲した。ハーデスは心臓を撃たれ、倒れた。


 アールネの嫌な予感は当たった。金縛りだった。自分の結界に連れ込んだ相手の顔を、今度はアールネがする番だった。


 崩落した天井から、フェンリルが現れる。

 その後方にある階段を優希は駆け下りながら、手の甲をフェンリルに翳す。


 優希の召喚士刻印が光り、フェンリルの周りに、白い霧のような、オーラのような何かが取り憑く。

 それから瞬く間に、辺りは氷一面で囲まれた、舞踏会でも開かれそうな、豪華な大広間へと変容した。


 そして、明るい大広間は、暗転する。


「お前が他人の命を、狙い続けたこと。それを私は許さない。

 ここで消えろ、── 泡沫に帰す薄氷の夢(ダイアモンドダスト)


 空間が圧縮され、景色が元の館の広間に戻る。

 爆発と爆音が、アールネを包んだ。


 その時、優希は手に違和感を覚える。

 反射的に自分の手を見ると、左手と右手に三つずつ、指輪が填めてあった。


 爆心地にアールネの姿は無かった。もう、アールネは消滅していたからだ。

 優希は、両手を見て、事実を飲み込めないような表情をした。


(遂に、勝ったのか……)


 その現実を飲み込む前に、外からの悲鳴が水を刺した。

 琴音の声だった。優希は、館の出口へと駆け、重く大きい扉を開いた。


「──!!」


 そこには、赤い髪をして、軽装な鎧、背中に槍を待機させていた少女、オーディンが、眠っている琴音を、お姫様抱っこで、両手に携えていた。


 優希は抗議の声を発しようとするも、オーディンは背を向け、立ち去ってしまった。

 優希は両手を強く握って、小さくなるオーディンの背中を見ていた。



次回、最終回。

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