表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
泡沫戦争メモワール  作者: ハル
16/18

第十六話 WARSS

十六話。よろしくお願いします。


 レオンの体に、力が集まる。肌からは煙が出て、傷口は紫色に発光する。

 レオンがレオンでない何かに豹変していくのを、デーヴィッドは矢を止め、身構える。


「ウウウ……」


 レオンは上の犬歯をむき出しにして、呻き声を上げる。

 デーヴィッドは素早く矢を放った。レオンは避けようともしなかった。そして、一本一本、矢はレオンに刺さっていく。

 レオンは地面を蹴り、デーヴィッドへと一直線に飛び付く。デーヴィッドは矢で受太刀をした。しかし、その剣の重さは到底返せるものではなかった。

 レオンの狂剣を受けていた矢が、バキッっと音を立てて折れる。デーヴィッドは身を捻るも、薄い切り傷を方から腰にかけて負う。

 デーヴィッドは矢を放ち、距離を取ろうとした。しかし、レオンは止まること無く、正面から一直線にデーヴィッドを襲う。

 その狂気に塗れた姿は、正気の沙汰では無かった。


 デーヴィッドはレオンに体を押し込まれ、壁を破り、礼拝堂の壁へと叩きつけられた。

 反対側の崩れた壁には、目と傷口を光らせたレオンが煙を吐いている。

 デーヴィッドの傷も、浅くは無かった。体のいたる所に傷を負い、血は地面へと溜まって、円状へと広がっていく。


 デーヴィッドは銀色にマークしたクロスボウを取り出し、目を瞑る。その時、レオンはデーヴィッドへと地面を蹴り、放物線状にデーヴィッドへと飛ぶ。

 デーヴィッドは目を瞑ったまま、日本語でも英語でもない言葉で詠唱し、弓を引く。


 あと一秒後に、レオンの刃がデーヴィッドに当たる時、


「Evangelium argenteas(銀の福音)」


 銀色の矢が、美しく光り、レオンを一閃した。命中して間もなく、レオンから衝撃波が発され。シャンデリアなどのガラスを割り、蝋燭を倒した。

 銀色の矢は、天井を貫き、流星の如く、天へと旅立った。


 レオンは真下に落ちた。そこには血溜まりがあった。

 けれど、レオンは立ち上がった。心臓部が撃ち抜かれ、穴が空いている中。不気味な呻き声を上げて、デーヴィッドの前に立っていた。

 デーヴィッドは膝の力が抜け、立ち竦む。レオンは息をスゥーっと吸って、


「──。────!!」


 と叫んで、デーヴィッドを切り裂いた。重たい魔力が混じった剣戟が、デーヴィッドの体に、痛みとなって伝わった。



 教会は、崩壊した。この戦闘で教会の中枢が破損していたため、全壊するのは時間の問題であった。

 わたしは、その教会が砂埃とともに崩れていくのを、暗視機能付きの双眼鏡で見ていた。

 わたしが双眼鏡を構えているのは、市立西中学校屋上。肉眼だと教会は、点に等しいぐらい小さかった。


「主殿、水色と紫色。どちらからに致しましょう」


 老人がわたしに問いかける。わたしの従者のアールネの声だ。

 わたしは素っ気なく、


「貴方の好きにやりなさい」


 と答えた。

 アールネは笑みを少し浮かべ、「承知しました」と言った。そして、言い終わった直後、アールネの長い狙撃銃の先端が光った。

 音はサイレンサーのお陰であまり耳に障らないが、発砲時の発光は目障りだった。実際、勘の良い主を撃ち逃した事がある。それが宝石持ちだというのだから、頭が痛くなる。


 わたしが双眼鏡へと目を戻すと、砂埃の中から金髪の少女が、眉間を撃ち抜かれ、死んでいるのが観測できた。

 そして、もう一発、双眼鏡の左側が発光する。この暗視機能は、光を当てても、使用者に影響は無いが、それだけが、狙撃の脆弱性だと考えるわたしにとっては、目障り極まりなかった。


 双眼鏡の目線を右にずらすと、心臓を撃ち抜かれた全身黒の少女の死体を、発見した。その時、わたしは左手を確認する。

 私の左人差し指から、左小指それぞれに指輪が填めてあった。戦争の発端から持っている、黄色の宝石を持つ月女神の指輪。刀女から奪った、赤い宝石を持つ、太陽神の指輪。さっきの黒髪の少女から奪った、不気味な紫色の、死神の指輪。そして、金髪の少女から奪った、水色の、天空神の指輪。

 

 わたしは左手を空に翳す。美しい宝石が、各々の輝きをわたしに見せた。

 あと半分。あと半分で、願いが叶う。実態も根拠も無い自信が、わたしの顔をほぐした。


 そんな気を抜いていたのも束の間、アールネはわたしの手首を強く引っ張る。「ちょっと何よ!」とわたしが批判の声を上げると、「誰か来るようです。下っていてください」と、アールネは手早く狙撃銃を畳み、軽機関銃を長いジャケットの内側から出した。

 アールネが軽機関銃を展開すると、屋上の左側のフェンスから、打ち上げられた黄色く光る弾が打ち上がり、放物線を描いてこちらへ落下する。


 アールネは軽機関銃を左手で連射し、無駄玉を一つも出さずに黄色い弾を撃った。黄色い弾はアールネの弾丸と衝突し、爆発した。響く轟音に対して、わたしは咄嗟に耳を塞いだ。

 爆発した弾の方向から、目線を元に戻すと、右から黒い影が見えた。その影は大きな鎌を持ち、ローブで顔を隠してアールネを襲う。

 アールネは左腰に提げているレイピアを右手に握り、大鎌を引っ掛けるようにして受け止める。


 わたしは、アールネに左手の甲を向け、赤い宝石の付いた指輪に意識を向ける。直後赤い宝石が光る。

 物理攻撃を増幅させる宝石によって強化されたアールネは、大鎌から伝わる力を跳ね除け、大鎌使いをフェンスへと飛ばす。

 大鎌使いの黒いフードから、赤い瞳と赤い髪がちらっと見えた。大鎌使いは口元に力を入れ、こちらを見ている。


「私相手にここまで近付けた人はそうおりません。よく練られた戦術です。感服しました」


 アールネは大鎌使いへ向けて言った。それは本心半分、遊び半分の声だった。そして、ところで……、とアールネは呟き、隣にある、同じ高さの建物の屋上に設置されている、室外機の群れへと、軽機関銃を向けて、


「貴方の主の所在は、あちらでお間違いないでしょうか。」


 と、言って、銃を向けた先に連射する。室外機のシルエットの中に、一つ有った人の形の影が、室外機の影に隠れた。

 大鎌使いは口元を固くし、冷や汗を一つ頬に流して、室外機の方に目を遣る。

 アールネは乾いた笑顔で大鎌使いに銃を向ける。「チッ」っと、大鎌使いは言葉を漏らした。瞬間、大鎌使いの足元に魔法陣が浮かび上がる。


 アールネは表情を戻し、身構える。しかし、何も起きず、大鎌使いはその魔法陣の中へと、消えていった。


「おや、宝石魔術でしたか」


 気の抜けた声でアールネは言った。



 重く静まり返った中、僧侶がお経を読む声だけが、小さい空間に響いている。

 正面には、雄也の遺影。眩しいぐらいの笑顔が、参列者の涙を誘った。そして、遺影の周りは、菊の花が寄せられていた。

 借りた会場は小さい空間だった。しかし、親族、教員、生徒会役員を始め、クラスメイト、部活のメンバー、直接接点の無い後輩、さらには他中の人までが参列していて、会場は窮屈に感じられた。

 それは、雄也が愛されていた確固たる証拠であり、死を強く惜しまれた証拠でもあった。


 死因は出血多量。実際は射殺された事が直接的な原因だが、証拠不十分で認められなかった。

 勿論、証拠がないため、犯人も見つからない始末だった。


 そのせいか、「誰が殺したのよ……」とか、「いつまで警察は怠けてるんだ」とか、犯人が見つからないことに対する不満や怒りをあらわにしている人も、少々見受けられた。

 優希は焼香、黙祷をして、閉式後、親族からの通夜振る舞いを丁重に断って、会場を後にした。


 会場を出ると、雨が降っていた。強く、冷たい雨だった。


『別れは済んだか?』


『ああ』


 入り口で待っていたフェンリルと合流し、傘を刺して、歩道を歩く。少し通行量の多い道路だった。道路の両端には、一定の水量が流れていた。

 優希は、通夜の重い雰囲気を引きずったまま、水溜りを踏まないよう、下を向いて歩いた。


 

「ただいま」


 優希は浮かない口取りで言った。

 ダイニングへ入ると、琴音が椅子の上で体育座りをしながら、雑誌を読んでいた。

 彼女の目の前にあるテーブルには、空になった丼があった。


「おかえり」


 琴音が優希の顔を一瞥して言った。

 優希は冷蔵庫から、昼のうちに作っておいた夕飯を電子レンジに入れた。次に洗い物をしようとその場を振り返ると、「あ」、と琴音は何かを思い出したかのように呟いて、優希の顔を見た。


「そういえばさっき、警視庁から電話が来ていたよ。『藍原優希くんは居ないか』って」


 説明口調で琴音は喋った。そして、「後で電話しておけば」と、付け加えた。

 優希は洗い物を済ませ、食事を取った。食べ終わったあと、流しの中に食器を入れて、受話器を取った。


 少し遅いが、ダメ元で優希は折返し電話をした。電話は繋がった。後ろが少し騒々しいのが第一印象だった。

 優希は、自分のことで何かありましたか? と、聞くと、警察の人は、現在西中学校で起きている死亡事件について聴かれた。

 優希は、わかっていることを正直に話し、わかっていないところは素直に分からない、と伝えた。


 状況確認の最後の質問は、結奈とカーリーと、最後に会ったのはいつか。というものだった。

 優希は今日の昼で、カーリーを教会に案内したときに、結奈に会った。その後二人とは別れているから、今どうなっているかどうかは、はっきりと言えない。と、答えた。

 警察は、はい、そうですか。と相槌を打った。二人について何か起こったんですか? と優希は聞いた。しかし、警察は答えなかった。


 警察は、今後またお話を伺うことがあると思いますので、その際にはどうぞよろしくお願いします。と言って、会話を締めた。


 優希は、受話器を戻した。


「あ、そうそう。明日の学校は休みだってよ」


 琴音は言った。「危険だから家に籠もってろだってさ。どこのオリヴィエだろう」と続けた。


 優希は、二人が宝石持ちだという共通点を思い出し、狼狽した。

 その時、また、電話が鳴った。「今日はいつになく元気ね」と、琴音は呟いた。優希は受話器を取った。

 「もしもし」と、優希が言うと、「もしもし、遠野山です」と、雨を背景に、どこか猫を被った遠ねえの声が聞こえた。

 そして、声のトーンを戻し、「ああ、優希?」と、遠ねえは呟いた。「うん」と、優希は答えた。

 遠ねえは、少し焦った声で、「結果から言うわね」と、前置きをして、


「さっき、あの狙撃手の主に、宝石が四つあることを確認したわ」


 と言った。優希の直感は当たっていた。つまり、残る宝石所持者は、優希、遠ねえ、宝石戦争裁定教会となった。

 優希が、あのさ、と言った時、遠ねえも、あのさ、と同じタイミングで言った。反動で、ほんの少しだけ、会話が止まる。


「私と組んで、あの狙撃手を倒そう」


 遠ねえは言った。優希も言おうとしたことだった。優希は、口元に笑みを浮かべた。


「オーケー。おれも、あいつを一回殴らないと、気が済まない」


 優希が言うと、遠ねえは「時間は、明日の夜でいい?」と訊ねる

 優希は、「今日。今から、決着を付けに行こう」と言った。

 遠ねえは少し間を開けてから、「わかったわ。場所は西中学校の前にしましょう」と言って承諾した。

 また後で、と言って、優希は受話器を戻した。


 優希が振り向くと、外着に着替えた琴音の姿が見えた。白いパーカーに、紺のショートパンツを履いていた。


「今から行くんでしょ? あの”狙撃手”の場所に」


「ああ。けど、どうして琴音まで着替えているんだ?」


「そりゃわたしだって、”狙撃手”に恨みはあるし、それに、遠野山さんに、宝石は渡したくないから」


「けど、オリヴィエが許さないんじゃないか?」


「いいわよ。意地でも連れて行くから」


 優希と琴音は家を出た。通り雨だったらしく、雨は止んでいた。優希の後ろにはフェンリルが、琴音の後ろにはオリヴィエが居た。

 優希は、あのオリヴィエが、二つ返事で付いてくるのは拍子抜けしたが、これで三対一。勝率は上がったはずだ。と確信し、自信に溢れた顔をしていた。


 優希は山を降り、街の方角を向いた。何も変わらないような夜景が、目に留まった。

 「行こう。これが、最後の戦いだ」と、優希は呟き、街を目指し、歩き始めた。


ご購読ありがとうございます。後、数話で完結予定です。

Twitter:@haru1939


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ