第十四話 結成
第十四話。もう話の終わりまで半分切ってるかな。
琴音は保健室に行った後、先生の車で市立病院まで運ばれて行った。復帰した初日であれじゃあ、次はいつ復帰できるかわからなそうだ。
五時間目の授業。優希は最後列の席で、その後ろでフェンリルが透過魔術を使い、外を見張っていた。その表情は、午前と午後ではまるっきり違い、午後のフェンリルは、明らかに戦闘態勢の顔だった。
優希は、自分が不注意で、琴音に傷を負わせてしまったことを、気に病んでいた。そして、無力な自分を、心の中で責めていた。自分を叱咤していくうちに、空間から隔離される。それは闇の中にスポットライトを当てられた椅子に座っているような間隔だった。
(コンコンコン)
優希の机の左側を、白くて細い手が突付く。少しのラグの後、優希はそちらの方向を見る。すると、カーリーが見開いたノートを見せて、この部分がわからない。と、指で突いて示す。
優希は目を凝らして問題を読む。そして、何か閃いたような顔をして、問題の解き方を教える。カーリーは「ありがと」と小さく言って、黒板に目を向け、授業の世界に戻った。
*
チャイムと共に、五時間目の授業が終わった。今日の授業はこれで終わりで、優希は帰り支度を始める。
「よぉー、優希。」
後ろから、パンと勢いよく、藤村が優希の背中を叩く。衝撃で鞄に頭をぶつけ、優希は抗議の目線を藤村に送りながら、背中を擦った。そして、
「何だよ。痛ってえじゃねーか。」
と答えた。すると、藤村が、
「今日は何曜日か知ってるか?」
と、聞く。
「水曜日」
と、優希は答える。すると、藤村が口を大きくして言う。
「そう! 今日は水曜日。それもただの水曜日じゃない! 今日は第四水曜日!!」
「それがどうした?」
「オー、優希は相変わらず情弱だなぁ~。第四水曜日と言えば、秀一屋の日だろ。」
「お前あのラーメン好きだなぁ。否定はしないけどさ。」
秀一屋とは、超こってりラーメン屋である。そして、第四水曜日はチャーシュー増々が、通常価格で食べられる。正直、常人は吐く。
なぁ頼むよー。と、藤村は優希の肩を揺らす。優希は、「申し訳ないけど……、」と、話し出す。
「申し訳ないけど、今日はパスだ。先約が入ってるんでな。」
藤村の方向に振り向いて、優希は言った。藤村は、
「なーにー!? 今日が何の日か知っていながら断るだとー!? さては女か? 女か?」
優希は「ま、そんなとこだ。」と、言う。左から、カーリーが「ゴメンね。フジムラ君。」と、藤村に言う。藤村は血涙を流すような顔をして、
「くっそー、優希め、次から次へと女を拐かしやがって!」
「人聞き悪いわ。何だ? 羨ましいのか?」
優希は藤村に不敵な笑みを見せ、言った。藤村は悔しそうな顔をして、
「くっそー。次は覚えてろよ!」
と、言って、席に戻っていった。優希が黒板の方に目を戻すと、担任の先生が、教卓に居た。
担任の先生は、竹垣の葬儀の日程についてを連絡した。また、同じように、雄也の葬儀の日程、他クラスで死んだ人の葬儀の日程等を伝えた。優希は、竹垣と雄也の葬儀の日程をメモに写した。
そして、他の日程連絡を簡単に済ませ、「最近、物騒になってきていますので、皆さんもしっかり身の回りに気を張り、安全に過ごすように心掛けてください。」と、言って、その場を締めた。被害に遭ったほうが悪いようにも受け止められた。
*
放課後、優希はカーリーに、この辺で一番近い教会はどこか。と、聞いた。優希は、知っている範囲で、一番近い教会を案内することにした。歩く二人の主の後ろには二人の従者が。互いに透過魔術を使い、身を潜めながら、尾行していった。
まだ五月だけれども、強い日差しと、地面からの照り返しは、長袖のワイシャツですら鬱陶しく感じさせる程だった。
教会は、レンガでできており、屋根の頂点に十字架が立っているだけであり、大きさも、外装も、慎まやかであった。
二人は、平日も開放している礼拝堂の中へと入る。優希も、その教会の中へと入るのは初めてだった。優希は、カーリーの祈祷の方法を真似しながら、黙祷した。
二人は、礼拝堂から出ようとした時、辻結奈が、出口で遮るように立っていた。目の隈は、一層増えていた。
結奈は優希を見るやいなや、駆け寄って、優希の両肩を掴み、
「まぁ! 藍原先輩じゃないですか! わざわざわたしの家まで赴いてくださるなんて! わたし感激です。」
と、言って、光の無い目を向け、優希の体を揺さぶる。優希はうんざりした顔をしながら、なすがままに、揺さぶられる。そして、結奈は優希を揺さぶるのを止め、カーリーの方を見て、「貴女、誰?」と、邪魔者であるかのように聞く。
「あぁ、この人はカーリー。留学生で、その……、今日はカーリーに教会を紹介しにここに来たんだ。」
と、優希は答えた。カーリーは苦笑いして手を振った。結奈は淡々とカーリーを見つめていた。
「じゃあ、他に案内するところもあるから、今日はこれで。」
と、優希は言って、カーリーの腕を掴み、逃げるように教会を後にした。
少し教会から離れて、近くの公園のベンチに座り、二人は息を整える。息が落ち着いてから、優希が、「こんな感じで良い?」と、聞く。「ええ。」とカーリーは答えた。
*
カーリーと別れた後、優希は帰路に着き、山の入口の道路を歩いていた。道幅が広く、綺麗に舗装された道だが、車は一台も通らなかった。
山道を登り始めて五分。見覚えのあるバイクが、路肩に止まっていた。後部席には、大きなローブをして、鎌を背負っていた人が座っていた。丁度バイクはカーブの真ん中に止まっていて、優希の進行方向と垂直方向に、バイクは停車していた。
見覚えのあるバイクの操縦手は、見覚えのある人だった。優希を宝石戦争の存在を仄めかした、遠ねえだった。
遠ねえは「はぁい」と言って、こちらに手を振った。優希が、手を振って会釈をしようとした時、フェンリルが透過魔術を解き、ローブをした人へと駆ける。優希は「やめろ」と言う。フェンリルは不思議に思いながら、優希を見る。「大丈夫。知ってる人だから。」と、優希はフェンリルの目線に答える。
「やぁ、やけにあからさまだね。」
優希は遠ねえに言った。遠ねえは左薬指に、優希と同じ形をした指輪を填めていた。
「だって、優希にも居るんだし。隠す必要ないかなーって。」
と、遠ねえは自分の指輪を、ガードレールの外に、手ごと翳しながら答えた。
「で、何の用? 待ち伏せ? 琴音が帰るまではもうちょいかかると思うよ。」
と、優希は言う。琴音という名前がでて、遠ねえは虚を突かれたような顔をしたが、すぐにいつもの表情に戻して、
「今日は誰も襲わないわよ。できれば、今、琴音ちゃんも居たほうが良かったんだけどねー。」
と、遠ねえは頭を少し?きながら言う。そして、
「ま、今から話すことを実行するなら、琴音ちゃんに伝えておいてね。」
と、付け加えた。そして、優希が小さく頷くと、遠ねえは話し始める。
「今日までで、この子に宝石持ちを漁って貰って、一つを除いて大体性質を把握したわ。」
続けて、
「まず、物理強化の宝石、次に、狂化の宝石、浮遊の宝石、魔術強化の宝石、私の空間を歪める宝石、そして、優希が持っている防御の宝石。」
と、言った。すると、フェンリルが、
「あと一つの宝石の在り処は把握している。効果はわからないけど、従者はそこまで強力ではない。」
と、言った。すると、遠ねえが、少し曇った顔が戻り、「そう。なら、安心して、決行できるわ」と呟く。
「優希も知っていると思うけど、今、宝石の半分は、あの狙撃手にあるようなものなのよ。」
と、優希に言う。優希はきょとんとして、
「半分は、無いと思うよ? 多く見積もっても、狙撃手の宝石は二つでしょ?」
と、聞く。遠ねえは、
「現状は、ね。けれど、その二つの所有者はもうその狙撃手は知っている。だから、直にその狙撃手のものになるわ」
と、険しい顔で答えた。優希は、
「じゃあ、もうすぐあの二人が死ぬと?」
「ええ。あの二つの宝石は、防御型じゃないもの。私達の宝石は、狙撃と相性が良いから、後回しにされている。と、言った方が正しいかもね。」
「……あの二人を助けることはできないのか?」
「無理ね。きっと明日の夜には、死んでいると思うわ。」
「そこまで知っていて、助けないのかよ……」
「酷いかもしれないけど。そうするしか無いのよ。でも、助ける方法が無いわけでは無いわ」
「それは、どうやって?」
「宝石よ。宝石戦争の勝利者の権限を使えば、甦らせることも可能だわ。勿論、そんなお人好しが勝利すればの話だけどね。」
二人の会話が、一旦途切れる。そして、優希は、
「……勝とう。勝って甦らせる。おれが、ヒーローになってやる。」
優希の言葉は、小さい声ながら、強い意志が籠もっていた。
「そうね、勝てればね。そのためには、私達が、協力する必要があるのよ。」
と、遠くを見ながら言う。
「そのためにコトネがここに居れば都合が良いってことか。」
と、フェンリルは意図を飲み込み、呟いた。
「そう。単刀直入に言うと、あの狙撃者を三人で倒す。明日の夜辺りに決行を考えているわ。」
「何か考えはあるのか?」
遠ねえの提案に、フェンリルが聞く。少し、言葉を詰まらせてから、遠ねえは、
「まぁ、三人で掛かれば何とかなるでしょ……」
と、目線を逸らして言った。そして、「あ、そだそだ」と遠ねえは呟いて、
「私の従者の紹介がまだだったね。この子がハーデス。可愛らしい男の子よ。」
すると、ハーデスはこちらを向いて、ニコッとしてから、
「やぁ。明日はよろしくね。」
と、営業スマイル全開で言った。
「ああ。私はフェンリル宜しくな。」
と、フェンリルは自己紹介をした。そして、「優希、行こう」と、フェンリルに促され、優希とフェンリルはその場を去った。
「珍しいね。共闘だなんて。」
ハーデスが遠ねえに言う。
「まぁね。それに、例え私達が宝石を手にできなくて負けても、卑劣な人に取られるより、優希とか、知っている人の手中に入ったほうが納得がいくしね。」
遠ねえは答えた。
「でも、誰かに宝石を渡す気は、両方の意味でさらさら無いでしょ?」
ハーデスが笑みを浮かべ、言った。遠ねえは、
「当然よ」
と答えた。
バイクのエンジンが起動して、駆動音が山に響く。そして、遠ねえは山の裏へと続く道へと、発進して行った。




