第十一話 太刀少女・大鎌少年
第十一話 鶴姫 vs ハーデス
鶴姫がハーデスへと、一直線に斬りかかる。
刀は日の反射で丸みを帯びた軌跡を作った。ハーデスは鎌の手持ちの部分や刃の部分を鶴姫の刀に当て、一歩ずつ後退していく。
引き下がるハーデスを追い、斬り続けようとした鶴姫であったが、何かを感じ、一歩引き下がる。下った直後に、鶴姫が居た足元から、中庭の土を貫き、ビームが射出される。
そのビームを目眩ましに、ハーデスは先端に重りのついた鎖を投げる。
鎖は鶴姫の刀に絡む、それを伝って、ハーデスは左手で鎖を引っ張ったまま、右手に握る鎌で襲いかかる。
引き下がろうとする鶴姫の背後から、牽制するように地面と垂直にビームが射出される。鶴姫は、後方のビームの射出が終わると、刀から手を離し、後方へと飛ぶ。そして、すばやく弓を構え、矢を放つ。
矢は刀の柄を弾き、鎖を抜け、ヒュルヒュルヒュルと回転しながら、放物線を描き、鶴姫の足元の土に、刃先が刺さった。
二人の戦いに目を奪われている優希に、フェンリルが言う。
『しっかり周りを見ろ。流れ弾を喰らうぞ。』
優希はフェンリルに注意されて、辺りを一瞥する。そして自分が一番戦場に近い位置に居るのに気がつく。フェンリルは学校の非常階段の影から、戦闘の様子を伺っていた。
雄也も、優希と同じ、戦闘に目を奪われていた。しかし、彼には冷や汗が少し流れており、普段目にしない光景に、当事者故、焦りを感じていた。
地面に刺さった刀を引き抜き、鶴姫が顔を見上げると、斜め四十五度上にハーデスが、ビームの射出方向と共に、鎌を向け、斬りかかる。ビームを避けるべく、鶴姫は後方に飛ぶ。射出されたビームは、そのまま地面に突き刺さると思われた。しかし、ビームは地面に近づくと、方向を急変させ、鶴姫の方向へ向かう。
ハーデスはもう四発分のビームを地面に降りてから射出した。中央で鶴姫を追うビームよりも早い弾速で、左右に回り込み、角度を変え、背中から鶴姫を刺す。
優希はゆっくりと中庭の中心から後退し、非常階段まで三分の一ほど歩いた時、ハーデスの射出したビームが鶴姫に命中したのを見た。
爆煙が鶴姫を中心に上がる。やがて煙は薄くなり、鶴姫の姿が見える。多少袴や胴当てや顔に汚れはあるものの、血は流れていなかった。優希は驚いた。
「ほう...。”受ける”タイプの前衛か......。」
フェンリルは驚嘆した。
鶴姫は再度刀を構え、一直線に向かってくるハーデスの鎌を捌く。ハーデスの後方から射出されるビームが鶴姫を牽制する。鶴姫はそれを躱しながら、ハーデスの鎌を受太刀し、返しの一手で、ハーデスが決めの一撃を打てないようにしていた。
優希が三分の二ほどの非常階段への道のりへと達した時、大きい金属音と共に、二つの刃が激突する。 互いの作用反作用で二人は後方へと飛ばされる。着地後すぐにハーデスはビームを五本射出する。
鶴姫は弓を持って、二人を点として結んだ直線よりも僅か斜め右方向走り出し、矢を幾つか放つ。ハーデスも矢を避けるべく、元いた二人を点として結んだ直線上へと走り出す。
ハーデスはビームを四発分構える。そして、そのうち二発を鶴姫の足元へと放つ。そのビームは、大砲の弾のように丸かった。
弾が地面と激突すると、爆音を上げ、爆煙が大きく上がる。それは衝撃波が風となって近くにあった金属バケツを跳ね上げる程の威力だった。
優希と雄也は片腕で顔を隠し、身構えながら、爆心地を見ていた。さらに間髪入れずに爆煙の中から爆音が響いた。それと同時に、ハーデスの弾が一つ、爆煙の中から現れ、優希の腰の右、五十センチ位をすり抜け、中庭から、校舎裏のフェンスへとぶつかり、爆音を上げた。
そして、中から金属音が響き出す。爆煙が晴れると、鶴姫が口から少し血を零しながらも、ハーデスの鎌を先ほどと同様に、捌いていた。二人の姿を見比べれば、優希の目線でも、どっちが優位に立っているかは自明であった。
大きな金属音が鳴り、再び二人は距離を取る。
「やれやれ、中々死なない厄介な女だ」
と、ハーデスが苛立ちの混じらせながら言った。彼は刃のついている側の手で、鎌の取っ手を弾ませていた。その姿は退屈そうながらも、次の一手を真剣に待っていると、感じ取れた。
一方、雄也は心配して鶴姫の脳内へと、
『厳しそうか?』
と、声を掛ける。鶴姫は目を閉じ、
『心配掛けて申し訳ない。相手の腕は大体把握しました。── 次の一手で、決めます。』
と、答えた。雄也は凛と微笑んで、
『おう。無理はするなよ。』
と、言った。
鶴姫は目を開いた。
鶴姫が弓を手にした時、ハーデスは鎌の取っ手を弾ませるのを止め、ビームの射撃体勢へと移行する。射出されたビームをジグザグに避け、鶴姫は矢を放つ。矢の筈巻が矢筒に多く入っている赤色と違い、黄色だった。
鶴姫の放った矢は、ハーデスの目の前で弾け、黄色い稲妻が、鏃を中心に、円形に展開される。
ハーデスの体の周りにも、黄色い稲妻が走り出す。ハーデスの手足は、その時ロックされた。
「よし!今だ!」
雄也が叫び、右人差し指の宝石を鶴姫へと向ける。雄也の宝石は赤く光り出す。
鶴姫は、再び瞳を閉じ、意識を集中させていた。
「援護、かたじけない」
と、雄也へと言った。
「── 終わらせます。」
彼女は目を開く。すると、今までの中庭の場所、コの字に囲まれた校舎を、黒が包む。そして、背景のような、闇から切り取られた和風の大きな花と、地面に広がる小さな花の鮮やかな青色で、黒く包まれた空間内を照らしていた。
「魔術結界......。殺りに出たな......。」
フェンリルが小さく呟く。
鶴姫は刀を手に持ち、鋭い目線でハーデスを睨む。ハーデスは、先程の影響で身動きが取れず、汗を流す。
「此れは拙者の生きた海であり、沈んで行った命でもある。大山祇神の力と共に其方の命、今斬り捨てん。」
「蒼華暗夜・一刀両断──!!」
鶴姫のその言葉と同時に、暗闇の中に鮮やかな青の斬撃軌跡、斬撃音が響く。そして、黒で包まれた世界は崩壊し、景色が中庭へと戻った。再び刺す日光に、優希は目を眩ませた。
斬撃はハーデスへと確かに、伝わっていた。体を斜めに服ごと斬られた跡と、そこから血が滲み出ているのがよく見えた。やった。と、優希と雄也と鶴姫は確信した。しかし、その三人の期待はあっさりと裏切られた。
「不死の定」
ハーデスは小さく呟いた。
その言葉を皮切りに、流れる血が止まり、終いには滲んだ血が、さっきまで見えた赤ですら、消えてしまった。雄也は悔しげに、
「まだだったか...。」
と、言った。するとハーデスは「いや...」と呟いてから、
「あんたらの勝ちだ。この技を使って耐えたところで、あんたらに抗いきれる体力は生憎持ち合わせていない。」
と続けた、そして、
「でも、俺は負けてもいないし、負けてやる気もない。」
と、言った。
その瞬間、ハーデスの足元に、半径百五十センチ程の魔法陣が描かれる。雄也と、鶴姫は身構えた。
しかし、ハーデスは魔法陣とともに、消えていった。雄也の顔は一瞬、悔しそうだったけど、すぐに安堵した顔になった。
優希が、雄也に労いの言葉をかけようと、雄也の方向に行こうとした時だった。
「伏せろ」
と、鋭い口調でフェンリルが言った。優希は少し戸惑いながらも、身を屈ませた。すると、優希の目の前に、弾が、地面に弾かれた。
「(狙撃、後ろか!)」
と、優希が後ろを振り返った時だった。
「ぐぁっ」と、雄也の声が聞こえ、同じ方向から、ドサッ、と重いものがゆっくりと落ちた音がした。
「この野郎!」
と、フェンリルが叫び、右腕と一体化するように、氷の銃を作る。銃身はライフルの様な形をしていて、先端の方は上下二つに別れていた。その形は、レールガンそのものだった。
氷のレールガンから、二発、氷でできたつららのように鋭い銃弾が、狙撃された方向へと、射出される。
「当たったか?」と、優希が聞くと、「いや、逃した」と、懺悔の念が籠もった答えがフェンリルから返ってきた。
優希とフェンリルが振り返ると、そこには、一つの屍と、力尽き果てた鶴姫の姿があった。雄也からは早くも死臭が漂っていた。
「◎△$♪×¥●&%#!!」
読み取れない叫びが、鶴姫から発せられ、鶴姫は青い光を放ち、消滅した。
優希は、すぐさま職員室前の公衆電話へと走り、救急車を呼んだ。しかし、雄也は即死であり、警察も駆けつけ、遺体を回収した。
*
「ふぅ。宝石魔術って凄いね。危うく死ぬとこだったよ。」
黒いフードを被った、赤髪の少年が言う。
「そうね。ハーデスじゃなければ、私の宝石魔術を切るまでも無く、死んでいたわね。」
黒く冷え切った様な服を来た、黒髪の女性が言った。
「全く、全宝石持ちと、相手してこいだなんて、姉さんも人使いが荒いよ。」
ふてくされたような声で、ハーデスは言う。
「『彼を知り己を知れば百戦殆うからず』とも言うでしょ。ハーデスだからこそできる戦法なんだし。」
”姉さん”は答えた。
「でも結局、狙撃で奪われちゃったよ。宝石。あの距離とあの威力が、あれも多分宝石持ちだよ。」
ハーデスは言う。”姉さん”は息詰まった顔をして、空を見上げた。
「そうね。あの”狙撃手”は、考えものね。容赦なく人間を狙ってくるし。」
と、”姉さん”は言った。そして、
「今考えたって、仕方が無いわね。次、探しましょう。私も気を付けるわ。」
と、言い加え、ヘルメットを被り、バイクに跨って、その場を去った。




