第5話 電脳双輪
「頼むからあと1週間、この城に滞在させてくれ!!」
「いや勇者よ、なぜ旅立ちの朝にベッドへ五体投地(スライディング土下座)しているのだ!?」
不眠不休のスマブラオールナイトから明けた朝。
俺は、国王の足元へ綺麗なスライディング土下座をキメていた。理由は単純。徹夜のせいで俺も慈姑も一歩も歩けないほど体力が限界を迎えていたからだ。効率厨として、寝不足のまま未知のフィールドに出るなど自殺行為でしかない。
「我が娘アルトラリアも、なぜか目が血走り『終点、アイテム無し・・・』と呪詛を呟いている・・・・。よ、よかろう。1週間の滞在と、休養の猶予を認めよう!!」
国王は昨日と同じ煤まみれの顔でガタガタと震えながら1週間のニート生活を許可した。こうして俺たちは、実家の賽銭マネーを引っ提げたまま、王宮で過ごすこととなった。
滞在3日目。俺たちのゲストルームに1人の少女が配属された。
「本日より皆様のお世話をさせていただきます、専属メイドのテラス・コルトーです。・・・あの、それは何でしょうか?」
きっちりとしたメイド服に身を包んだ真面目そうなテラスは、部屋に入るなり、慈姑が招来した『ニトリの全自動マッサージチェア(高級仕様)』に座ってヨダレを垂らしている俺をみて硬直した。
「これは、『身体を揉みほぐす神聖具』だ。テラスもやってみるか?」
「い、いえ!私はメイドですので、そのような不敬な・・・・・ひゃぅんっ!?」
背後からこっそり近づいてきた慈姑に無理矢理スイッチを押され、ウィィィンと動き出した揉み玉に、テラスは一瞬で陥落した。
「はぅあ・・・・・背中の魔力回路が、未知の圧力で強制デフラグされていきます・・・・・ハヤテ、これ凄いです・・・」
初対面にも関わらず恍惚のあまり俺をファーストネームで呼び捨てにするテラス。
ここから、俺たちの「文明の暴力」による王宮攻略が加速する。
翌日、通りかかった老魔導師長が首の凝りを訴えたため、慈姑が『ウナコーワ(冷感)』を塗ってやったところ・・・
「お、おおお・・・・・!?なんだこれは、脳の髄まで凍りつく禁忌の絶対零度呪術かァァァ!!」
と、あまりの冷感刺激に白目を剥いて気絶。周囲の魔導師たちは「触れずに氷結魔法を仕込むとは!」と畏怖を深めた。
さらに厨房では、料理長が慈姑が提供した異世界の食材の扱いに困っていたため、新たに招来した『クックドゥ(回鍋肉の素)』を差し出すと、「な、何だこのドロッとした暗黒の塊は・・・美味い、美味すぎる!私の人生を捧げた宮廷料理の修行は一体・・・?」料理長は絶望の涙を流しながら、豆板醤の圧倒的な旨味の前に敗北した。1週間の滞在の中で、俺たちの評価は城内で「手出し無用の危険な大賢者」として定着していった。
そして、滞在5日目の夜。
ゲストルームの壁には、俺の【因果の改変】によって例のごとく100インチの巨大画面が投影されていた。だが、映し出されているのはではない。
「みんな!今夜はオールナイトで『マリカ8DX』4人対戦していくよー!!」
慈姑のかけ声と共にコントローラーを握らされたのは、すっかりマウンテンパーカーが部屋着として馴染んだアルトラリア、そして新入りの専属メイドのテラスだった。
「超高速鉄馬レース(マリカ)ですか・・・私はこの緑色の甲羅を駆り、騎士道の精神で正々堂々と華麗な勝利を・・・」
「颯、慈姑、私のようなメイドが、この『キノピオ』というキノコの化け物を操作して良いのでしょうか・・・?」
すっかり俺たちと仲良くなり、ファーストネームで呼ぶようになったテラス。
最初の方こそ、和気藹々(わきあいあい)と遊んでいた俺たちだったが、夜の2時を過ぎる頃には騎士道も、主従関係も、友情でさえも完全に崩壊した、泥試合となっていた。
「テ、テラスゥゥゥ!!!貴様、主君である私に向かって、『赤甲羅』を3連射するとは何事だァァァ!!」
「うるさいですアルトラリア様!レース場に身分の差などありません!そこへ、『緑甲羅』を反射させて・・・・・はい、場外へ行ってらっしゃいませ♡」
「なにぃぃぃぃぃぃぃぃ!?!?!?落ちる!虚空へ落ちる!ジュゲム、早く私を釣り上げろ!!」
マウンテンパーカーを振り乱して画面に絶叫する王女と、普段のおとなしさが嘘のように目が血走った狂犬メイド。リアルでもアルトラリアがソファの上で悶絶してのたうち回る。
「フハハハ!見ましたか!このまま私が1位でゴール・・・」
「させないよテラス!キノコ3連打でショートカットォォォ!!」
慈姑が狂ったようにミニターボを連発し、インコースを抉る。
「へへん終わりよ!・・・って、え!?ちょっと颯、なんで私の画面に『キラー』が突っ込んできてんの!?」
俺の画面が突如として巨大な黒い砲弾に変形し、時速500キロで慈姑のヨッシーを跳ね飛ばした。
「フッ、俺の【因果の改変】で『最下位の俺がアイテムボックスを叩いた(原因)』をを『最初からキラーが出る運命だった(結果)』に・・・」
「ちょっと待って!?私のヨッシーが急に弾道ミサイルに轢き殺されたぁぁぁぁぁ!!てか、【因果の改変】を使うの禁止って言ったでしょ!!」
混沌を極める最終ラップ。キラーから元の姿に戻った俺が1位を独走し、2位の慈姑を引き離そうとしたその時。最後方から、禍々しい羽の生えた青い悪魔・・・『トゲゾー甲羅』が飛来した。目標はもちろん、1位独走中の俺だ。ターゲットのロックオンマークが俺のロゼッタの頭上でピコピコと明滅する。
「げぇっ、トゲゾー!?誰だ投げたのは!」
「私です、颯!!」
絶叫で申告したのはまさかのテラス。
「テラス、お前最下位なのに何でトゲゾー投げてんだよ!!逆転は不可能だろ!」
「いえ、自分が上がれないのであれば、全員引きずり下ろすまでです!堕ちろ、ハヤテぇぇぇ!!!」
「ファーストネーム呼びで殺しに来るの怖すぎるわ!!」
ドガシャァァァァァン!
俺の効率厨ロゼッタが青い大爆発に巻き込まれて宙を舞う。その爆風に巻き込まれ、すぐ後ろを走っていた慈姑のヨッシーもクラッシュ。
「やった!今の内に・・・!」
その隙を突いて、バックヤードからジュゲムに釣り上げられ、奇跡の戦線復帰を果たしたアルトラリアのクッパが猛然とスリップストリームをかけて追い上げてきた。ゴールラインは目の前。あと、一転がりでアルトラリアが逆転勝利という、その瞬間。
「甘いですアルトラリア様!そこには前のラップで慈姑が『よっしゃアイテム交換!いらなくなったこのバナナは捨てとこ』と言って、捨てたバナナが・・・」
「慈姑、許さんぞぉぉぉぉ!!!」
スリップしたクッパがまたもや虚空へ。驚きと怒りで、大理石の床に向かって本日3度目となる『リアル・ダウンA』を決めるアルトラリア。衝撃で床が踏み抜かれそうだ。
「あ、棚ぼたでまた私が1位です!ふふ、楽しいですね、まりか」
翌朝、「2周目のショートカットにさえ失敗していなければ・・・」と呟きながら、魂の抜けた顔でマッサージチェアに揺られるアルトラリアと、1人でタイムアタックに挑戦している狂犬メイドの姿を見た国王は、「勇者の秘術は、我が国の上下関係すらも粉砕するのか・・・」と、畏怖を通り越してただただ恐怖していた。
こうして、また1秒も眠らないまま城を出発する日がやって来るのだった。




