第4話 不眠の神々と闇夜の電脳饗宴
「・・・はぁ。宮廷料理、美味しすぎて逆に胃がびっくりしてるわ」
「分かる!駅前のラーメン屋のコテコテ脂とは格が違うもん!」
王宮の最高級ゲストルーム。部屋の中央に置かれた黒壇のテーブルには、異世界の極上イノシシ肉のローストや見たこともない果実の盛り合わせが並んでいた。贅を尽くした夜ご飯を完食し、満腹になった俺・・・拝郷颯は、ふかふかのシルクのソファに深く腰掛けた。
「さて、腹も膨れたことだし・・・やるか、慈姑・・・」
対面に座る幼馴染の七條慈姑が、それを聞いて不敵な笑みを浮かべた。彼女が懐から取り出したのは、液晶画面が淡く光る現代日本のゲーム機・・・Nintendo Swich。
そして、実家の神社から不正マネーロンダリング(自動還付)したばかりの12万円の残高を使って招来した、『大乱闘スマッシュブラザーズSPECIAL』のパッケージ。
「おい、コンセントがないのにどうやって起動してんだよ」
「ふふん、12万の威力を見くびらないで。Amazonで、『大容量ポータブルバッテリー(20万mAh)』も一緒に買ったから、明日の朝までオールナイト対戦し放題よ!!」
「よし、俺が因果を改変して『ただのSwichの画面(原因)』を『部屋の壁一面に投影される100インチの超高画質モニター(結果)』にしてやる」
空間のシステムが書き換わり、王宮の歴史ある壁画(おそらく初代国王の建国神話)の上に、突如として、鮮明な「スマブラのキャラクター選択画面」が巨大プロジェクターのように映し出された。建国の父の顔面に、任天堂のロゴがジャストフィットしている。
「うお、大画面!いくよ、颯、私のガチ勢フォックスに勝てると思わないことね!!」
「ハッ、お前こそ俺の効率厨マルスの先端当て間合い管理から逃げられると思うなよ!ちなみに負けた方は明日アルトラリアのパーカーを洗濯な!」
夜の22時。異世界の王宮の片隅で、高校生2人による不眠不休のスマブラ対決が幕を開けた。
深夜3時。
「おい!今の上B、絶対に崖掴んでただろ!異世界の処理落ちか!?判定バグってんだろ!!」
「はい、マルスの復帰パニッシュ〜!今の台経由の絶妙なコンボ、神がかかってたわ!」
「クソ、因果を書き換える!『俺が場外に吹っ飛んだ(原因)』を『慈姑のコントローラーのスティックが一瞬だけ左に暴走した(結果)』に・・・」
「ああっ!?ちょっと、私のフォックスが虚空へ向かって急降下自滅したんだけど!チート能力をスマブラに使うのやめてよ!」
2人がプロコンを握りしめ、近所迷惑も忘れて、醜い内輪揉めを繰り広げている、その時だった。
(コンコン・・・・・)
「あの、勇者様方、夜分遅くに恐れ入ります。少々よろしいでしょうか?」
ドアの隙間から恐る恐る顔をだしたのは、昼間の爆発で服を失い、未だに慈姑のお下がりのマウンテンパーカーを羽織ったままのアルトラリアだった。
「ん?アルトラリアか。どうした?眠れないのか?」
「はい、日中に起きた魔力測定水晶の崩壊、そして我が鎧の分子レベルの霧散・・・。世界の理が覆る瞬間を目撃した興奮で、脳が昂ぶってしまい、一睡もできず・・・」
アルトラリアは言いかけ、壁一面に映し出されたカラフルな画面に目を丸くした。
「な、何ですかこれは・・・!?壁の中で、小人の戦士たちが光の速さで殺し合いをしている・・・!?もしや、これは魔王軍との戦いを遠隔で予知する、国家機密の戦術シミュレート鏡ですか?!?」
マウンテンパーカーをシャカシャカ鳴らし、戦慄する王女。
「いや、ただのゲーム。スマブラだよ」
「すま・・・・ぶら・・・・?なんと禍々しくも気高き響き・・・!あそこにいる黄色いドブネズミ(ピカチュウ)など、体中から最上位雷撃魔法の数百倍の電圧を放っているではありませんか!!これが、勇者の世界の軍事演習・・・」
「お姉さん、これめっちゃ面白いよ!やってみる?」
慈姑が満面の笑みで、新品のプロコン(さっき賽銭マネーで召喚した)をアルトラリアに握らせた。
「えっ!?わ、私がこのような、触れただけで魂を吸われそうな漆黒の魔道具を扱ってもいいのですか・・・・!?くっ、精神を集中せねば、この『十字の呪紋』と『右側の4つの生贄のボタン』に闇の力で肉体を乗っ取られる・・・!」
大真面目な顔でコントローラーを両手でガッチガチにホールドするアルトラリア。
「キャラは・・・このピンクの丸いやつ(カービィ)にしよう。操作は簡単、このボタンを連打すれば空を飛べるし、このボタンで相手を飲み込めるから」
「なるほど・・・・。この一見愛らしい球体、敵の魂を剥ぎ取って己の糧とする『暴食の魔獣』ですか。御意、我が全霊を賭けて操作いたします!」
こうして、異世界のポンコツ聖騎士を加えた、深夜のガチ大乱闘がスタートした。
朝の5時。東の空が白み始めた頃。
「はぁぁぁぁーーーっ!これでも喰らえ、暴食の魔獣の下必殺技!!」
ドガァァァァァン!!!
アルトラリアがプロコンのボタンを親指が折れんばかりに物理的に強打した瞬間、彼女自身の体から物理的な青白いオーラが爆発した。
「おい、待てアルトラリア!カービィが岩になった勢いで、お前自身がリアルに大理石の床を踏み抜いてるぞ!下の階から苦情が来るわ!」
「ああっ、すみません!?カービィと我が精神が完全にシンクロしてしまい、ついリアルに魔力を脚部に流し込んでしまいました!」
「ちょっとぉぉぉぉっ!ヤバいヤバいヤバい死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!!!!」
画面を見れば、アルトラリアのカービィが慈姑のフォックスを崖際で完全にハメ殺していた。
「あ、また勝ってしまいました。ふふ、楽しいですね、すまぶら」
徹夜明けで目がバキバキになり、クマを作ったアルトラリアは、すっかりスマブラの快感(ハメ技)に魅了され、見たこともない邪悪な笑みを浮かべていた。
「嘘でしょ・・・。私のガチ勢フォックスが、初心者の『崖際カービィ下B連打』に完封されたんだけど・・・・。騎士のくせに戦い方がセコい!!騎士道精神はどこいったのよ!?」
「セコいとは不敬な!これは我がレーンディア王国に伝わる、相手に何もさせずに絶望を与える徹底的な防衛戦術(ガン処理)です!」
「いや、ただの初心者ハメだよ!!王国の防衛戦術がカービィのストーンでたまるか!!」
カチャカチャ、カチャカチャと、不眠不休でプロコンを操作し続ける3人。
その日の朝、旅の出発の挨拶のために部屋を訪れた国王と老魔導師長は、目が完全に血走り、マウンテンパーカーを着たまま「次は終点、アイテム無し、タイマンで勝負です!!」と呟く愛娘の姿を見て、再び「これぞ、精神を極限まで追い込む勇者の国の秘術・・・!」と、涙を流して畏怖を深めるのであった。
こうして、1秒も眠らないまま、俺たちの魔王討伐の旅(2日目)が幕を開けた。




