第3話 神罰の執行者達と全裸騎士
「うわあああああああああああああッッッ!!!」
「私のショッパーがぁぁぁ!アクスタが圧死するぅゥゥゥ!!」
ドガシャァァァァァン!!!
大理石の床が悲鳴を上げ、俺たちの体は派手にバウンドした。お尻を摩りながら頭上を見上げれば、そこはさっきまでいた広場の自販機前ではなく、どう見ても異世界の王宮・・・その最高峰に位置する『謁見の間』だった。天高くそびえる円柱、神聖なステンドグラス。そして、中央の玉座に座る国王をはじめ、居並ぶ近衛騎士や宮廷魔導師達が、天井の空間から降ってきた高校生2人とオタクグッズを唖然として見つめている。
「な、何事だ!?また魔王軍の襲撃か!?」
「いや待て!あの見覚えのある気高きふくらはぎは・・・我が国が誇る最強の聖騎士、アルトラリア第一皇女殿下ではないか!」
ざわめく周囲。その中心で、満身創痍のアルトラリアがフラフラと立ち上がろうとした。てか、今の会話で普段アルトラリアをどんな目で見ているかバラしてしまっている気がするが・・・。
「お、王よ・・・。時空の門を超え、伝説の、勇者様を・・・・お連れ、し、ま・・・・・・」
ガキィィィィン!!!
その瞬間、彼女の鎧から、限界突破した魔力の残滓が凄まじい稲妻となって弾け飛んだ。10円のチョコ菓子によって『10000%オーバーチャージ』された魔力の暴走。それは彼女の身に纏う最高級の青銀の鎧を一瞬で、内部から分子レベルで粉砕した。
(バリバリバリ、パキィィィィン!!)
「え・・・?きゃああああああああっっっ!?」
煙が晴れた。そこに立っていたのは、全ての防具を木っ端微塵に消し飛ばされ、辛うじて初期装備の薄いインナー(透け気味の布1枚)だけになった、ほぼ全裸のアルトラリアだった。
「「「「「殿下ァァァァァァァ!?!?!?」」」」」
近衛騎士たちが一瞬で回れ右をして、ガチで目を覆う。
「見、見るな!見るんじゃない!目が潰れるぞ!いやしかし、隙間から少しだけ・・・・ぐふっ(鼻血)」
「バカ者!国家の危機だぞ!それより誰だ、今さりげなく遠視の魔法を詠唱した奴は!後で憲兵隊に来い!」
「おのれ、不敬ながら素晴らしい・・・・!これぞ真の神の衣(全裸)・・・・・!画家に、我が国の全ての画家に今すぐデッサンさせろ!」
宮廷魔導師たちは大興奮で鼻血を吹き出しながら拝み倒している。
「ちょっと颯!大変!私のショッパーは無事なんだけど、スマホのアンテナが圏外で完全に死んでるんだけど!これじゃ推しのSNSが見れないぃぃ!!」
「当たり前だろ、異世界なんだから!それよりあの露出狂の変態騎士をなんとかしろ!おいアルトラリア、とりあえずこれ着とけ!」
俺は慈姑ショッパーから、さっき甲陽園で羽織らせていた「マウンテンパーカー(お下がり)」を引っ掴み、アルトラリアの頭から乱暴に被せた。
「は、恥ずかしい・・・・。しかし、これが勇者の世界の聖衣。なんと軽くて通気性が良く、動くたびにシャカシャカと音がするのだ・・・・」
シャカシャカした素材の現代アウターを着て、どうにか一命(社会的抹殺の危機)を取り留める王女。頭にはまだ、カラス除けの黄色いネットがうっすら絡まっているが誰もツッコまない。
「う、動くな不審者ども!皇女殿下をそのような奇妙なシャカシャカした呪いの防寒着で包むとは何者だ!」
老魔導師長が杖を構え、俺たちに鋭い視線を向ける。
「控えよ、魔導師長!」
マウンテンパーカーを正したアルトラリアが、凛とした声で謁見の間を制した。
「彼らこそ、我が禁忌の召喚術に応え、異界の地から現れた伝説の英雄。目に見えぬ毒霧(防犯用ハバネロ催涙スプレー)で上位魔族の五感を奪い、触れずして呪術の激痛(小指強打)を与え、最後は鈍色の聖剣(高級レプリカ模造刀)で空間ごと一撃のもとに粉砕した御方々です!」
「「「な、何だと・・・!?触れもせず激痛を!?」」」
「おい聞いたか、触れずに激痛だと・・・・?まさか『視線だけで内臓を破裂させる暗黒呪術』か?」
「いや、あっちのツインテールの小娘を見ろ。あのショッパーとかいう謎の紙袋、あれは確実に生贄の生首が入っている・・・!表面に描かれた美少女の絵は、生贄の呪いを封印するための結界紋様に違いない!!」
謁見の間が凍りつく。アルトラリアの熱烈なプレゼンにより、俺たちの格付けが勝手に邪神か何かの領域へと爆上げされていく。
「ほう・・・・。では、その力を証明してもらおう。魔導師長、あの『魔力測定の結晶』を持て」
玉座の国王が、威厳のある声で命じた。運ばれてきたのは、直感で1000万ゴールドはしそうな、禍々しく光る巨大な紫色の水晶玉だった。
「これに手を触れ、己の『職業』と『魔力量(MP)』を証明してみせよ。偽物なら、ここで首を刎ねる。」
「ええっ!颯、どうするの!?私、レベル1のグッズ厨だよ!?しかも残高32円だし・・・」
慈姑がガタガタ震えながら、ショッパーをガチガチに抱えたまま、おずおずと水晶に右手を触れた。
ピカァァァァン!
水晶の表面に、この世界の神聖文字(なぜか日本語)が浮かび上がる。
【職業:異界のグッズ厨(電子決済の奴隷)】
【魔力:2(残高連動型)】
静まり返る謁見の間。
「・・・・・2?」
老魔導師長が信じられないものを見る目で水晶を二度見した。メガネを取り出してゴシゴシと拭く。
「ば、馬鹿な・・・・。我が国の歴史上、最も魔力が低いとされた『最弱のドブネズミ』ですら魔力は5だぞ・・・!?2ということは、呼吸をしているだけで魔力不足で絶命しかねん数値だ!!」
「おい、魔導師長!よく見ろ、水晶の奥から微かにパルスを感じる!」
「これは、心音か!?違う、魔力が『2』の状態で完全に固定されている!増えも減りもしない!」
「なんという魔力制御・・・・!
我々なら一瞬でマナが暴走して気絶する領域。あえて限界まで魔力を削ぎ落とすことで、世界そのものに存在を認知させない『隠密』の究極系・・・・!」
「さすがは伝説の英傑・・・・。ドブネズミ以下で生きる男、いや女か!常識が通用せん!」
「ちょ、ちょっと失礼ね!てか私の魔力は32円と連動してたはずなのに、なんで2に減ってるのよ!」
「バカ、お前さっき10円のチョコ菓子3本買っただろ!32円から30円引かれて、今の残高2円だよ!」
「ああっ!?本当だ、今月あと2円しか使えない!!」
「魔力じゃなくてリアルな所持金残高の提示だな・・・」
横で話を聞いていたアルトラリアも「慈姑様は魔力の無駄遣いをを最も嫌う合理主義者なのですね・・・」と深く勘違いして涙ぐんでいる。
「次は俺か・・・クソ、ここで『一般人』とか出たら確実に首をハネられる・・・。よし、書き換えるぞ!」
俺は冷や汗を流しながら、水晶に手を触れた。
【因果の改変】。世界のプロトコルをハッキングする。本来なら、【俺が水晶に触れた(原因)】から、【俺のありのままのステータスが表示される(結果)】。これを書き換える。
【俺が水晶に触れた(原因)】→【この世界のプログラムが俺のステータスをオーバーフローバグと認識し、水晶が測定不能で粉砕される(結果)】!!
ジジッ、ジジジジジッ!!!
「ぬおっ!?水晶の輝きが・・・黒く染まっていく!?」
「ば、馬鹿な!魔力回路が逆流している!おい、離れろ魔導師長!その水晶はもうダメだ!」
「いや、私は魔導の真理を・・・ギャァァァァ!」
カウンターストップを起こした水晶が、真っ赤に点滅し始める。
ドッカーーーーーーーーーン!!!
謁見の間の真ん中で、国宝級の魔力測定水晶が派手な音を立てて木っ端微塵に爆発した。破片が国王の顔面に直撃していい感じに煤まみれになる。
「ひぃぃぃぃぃ!国宝がぁぁぁぁ!今年度の予算がぁぁぁ!」
「触れただけで、神の遺物を内部から破壊した・・・・!これが因果を呪う男の真の力・・・!」
「間違いない、あの男、世界の理そのものを拒絶している・・・。我々が必死に築き上げた魔法体系を、鼻で笑うかのように粉砕したぞ・・・!」
静まり返る謁見の間。
顔面が真っ黒になった国王と大臣達は、ガタガタと震えながら、俺たちを神を見るような目で見上げていた。
「素晴らしい・・・素晴らしいぞ異界の勇者よ!その底知れぬ破壊の力、まさに魔王を滅ぼす神の刃!」
「旅の支度金としてアルパ金貨1万枚を授けよう!頼むからこれ以上我が国の設備を壊さないでくれ!」
完全に勘違いして予算を爆盛りしてくれた国王と、怯えまくる大臣たちを置き去りして、慈姑が死んだ魚のような目で、自分のスマホを見つめていた。
「どうした慈姑?まだ魔力(残高)2のショックから立ち直れないのか?」
「違うの・・・異世界に着いた瞬間、日本銀行の『海外利用制限セーフティネット』が異世界転移のバグで大暴走して、実家の神社の口座から私のデビットカードに、毎月勝手に『お賽銭の10%還付(自動キャッシュバック)』される設定に強制変換された・・・」
画面を見れば、ピコンという通知と共に【残高:120002円】の文字。
「あ、魔力が12万に増えた」
「おい!お前の能力、ついに現実世界の実家からマネーロンダリングし始めたぞ!罰当たりが過ぎるだろ!」
「あの、勇者様?送金の話はさておき、まずは、我が国の最高級の寝床へ・・・」
こうして、金貨1万枚(+実家の賽銭10%)という不正な富を得た俺たちの異世界生活が、本格的にスタートしたのだった。




