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第2話 残高参拾弐円の物質招来(アイテム・インポート)

「はぁ、はぁ、はぁ・・・・っ!ここまでくれば、ひとまず安心か・・・・?」

俺たちはどうにか、西宮北口駅前の、あの有名な駅前時計台の広場まで逃げ延びていた。息を切らしながら自動販売機の陰に隠れる。幸い、アルトラリアには慈姑がコスプレ用に持っていた大きめのマウンテンパーカーを無理やり羽織らせたため、ただの『少しイタい服装の美少女』にカモフラージュできている。

「・・・・驚きました。これが、勇者様方の世界の『都』なのですか?なんと美しく、見たこともない鉄の馬(阪急電車)が規則正しく走っている・・・・。それに、あの光る箱(自動販売機)の中に囚われている色とりどりの小瓶は一体・・・・?」マウンテンパーカーのフードを深く被ったアルトラリアが、ダイドーの自販機に顔を擦り付けんばかりに凝視している。

「あれはただのジュースだ・・・・それより空間の裂け目はどうなったんだ?」

「あ、そうでした!私の魔力が底を突いたため、完全に閉じてしまいました。再び門を開くには、私の魔力が全回復するか、あるいはこの世界にある『高純度のマナ』を私に吸収させるしかありません」

「はぁ!?詰んだじゃねえか!こんな現代日本の西宮に、ファンタジーの魔力なんてあるわけ・・・・」

「フッ・・・慌てるでない颯。そこの自販機の下を見よ・・・奇跡のマナ(10円玉)が落ちている!!」

「拾うな勇者!異世界の門を他人の落し物で開けようとするな!!」

その時、自販機の裏の空間が、再び『バリバリバリッ!』と激しい音を立てて裂けた。

「ブモォォォォォ・・・・・・!見つけたぞ、人族の皇女ぉぉぉ!」

裂け目から這い出てきたのは、さっき倒したはずのオークジェネラル・・・ではなかった。さらに二回りほど巨大で、全身に禍々しい黒いタトゥーが刻まれた、別の魔族。

「我が名はオーク・キング!ジェネラルを倒した程度で調子に乗るなよ、人間ども!」

「やべぇっ!進化版(上位種)が来やがった!」

駅前広場の通行人たちが「え?何?ゲリラ撮影?」「あの着ぐるみリアルすぎない?」とざわつき始め、一斉にスマホを向け始める。

「おのれ魔族め、私の魔力さえ戻っていれば・・・!」

「颯、どうするの!こんなところで【因果の改変】して駅ビルとか壊したら、今度こそニュースになっちゃう!」

慈姑がパニックになりながら、空間から何かを引っ張り出そうとする。しかし、彼女の視界の端に非情なシステムテキストが浮かぶ。

【所持金:32円(デビット決済限定)】

「これしか・・・・これしか買えない・・・・・!」

慈姑の手の中に現れたのは、コンビニのレジ横でよく見る『10円の棒状のチョコ菓子×3』だった。

「お前は遠足の途中の小学生かァァァ!!!そんなもんでキングに勝てるか!」

「ブモハハハ!そんな貧弱な棒切れで、この俺の鋼の肉体が傷付くとでも・・・・」

「・・・・・いや、待て」

俺の脳内で、効率厨のオタク脳が高速で計算を始めた。

【因果の改変】。原因と結果の書き換え。

チョコ菓子(原因)が敵を粉砕(結果)する。

・・・・・・いや、もっといい方法がある。

「慈姑、そのチョコ菓子、1本よこせ!」

「えっ、あ、うん!」

チョコ菓子を受け取った俺は、それを大真面目な顔で突っ立っているアルトラリアの口元に突き出した。

「アルトラリア!これを食え!」

「は、はい!?これは一体・・・・むぐっ」

無理やり口に押し込まれたチョコ菓子。サクッ、という小気味いい音が、広場に響く。アルトラリアの目が、驚愕に見開かれた。

「な、何ですかこれは・・・・・!?脳を突き抜けるような甘美な衝撃、解き放たれる極上のカカオ、そして、サクサクとした未知の食感・・・・!体中の細胞が歓喜の声を上げて・・・・」

「よし、因果を書き換える!」

俺は迫り来るオーク・キングを睨みつけ、能力を発動した。本来なら、【アルトラリアが10円のチョコ菓子を食べた(原因)】から、【美味しかった(結果)】となるはずだ。だが、俺が書き換えた因果はこうだ。

【アルトラリアが『伝説の神の供物(10円チョコ)』を食べた(原因)】→【失われた魔力が10000%オーバーチャージされ、周囲の時空の裂け目ごと敵を吸い込む大結界が発動する(結果)】!!

「っ!?!?!?な、何ですかこの、天をも割らんばかりの膨大な魔力はァァァ!!!」

アルトラリアの全身から物理的な衝撃波を伴う青白いオーラが爆発した。羽織っていたマウンテンパーカーが消し飛び、元の美しい青銀の鎧が神々しく輝く。

「ブモッ!?馬鹿な、これほどのマナは魔王様でも・・・・ぶぎゃああああああ!?」

アルトラリアから放たれた光の波動が、オーク・キングの巨体を捉える。さらに、その余波で駅前広場の空間に、直径5メートルを超える超巨大な「次元のワームホール」が完全に再開通した。凄まじい吸引力が、オーク・キングの肉体をズブズブと引きずり込んでゆく。

「しまった、吸引力が強すぎる!私たちまで吸い込まれる!」

「慈姑!アニメイトの袋を手放すなよ!」

「嫌ぁぁぁぁぁ!私、残高32円のまま異世界に行くのォォォオオオ!?」

「いや、お前さっきのチョコ菓子×3の召喚であと2円じゃね?」

「待って!せめて自販機の下の10円玉だけは回収させてぇぇぇ!!」

「諦めろ強欲巫女ぉぉぉ!!」

俺たち3人と、絶叫するオーク・キングは西宮北口駅前広場のど真ん中で、光の裂け目へと一網打尽に吸い込まれていった。残されたのは、粉砕された自販機と、唖然としてスマホを構えたままの通行人たちだけだった・・・・。

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