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晩餐会当日有効印は、帰っていない人を会場内待機にできません

晩餐会場の裏口で、迎え馬車の灯が三つ、風に細く揺れていた。


 一つは夜番明けのロウナのため。もう一つは慈療院へ薬粥の鍋を戻すネリアのため。最後の一つは、火守りの交替を終えたルドが旧工房へ返す小灯だ。


 けれど帰宅口の木札には、同じ赤い印が押されている。


 帰宅順未記入者は、会場内待機として扱う。


 その横に、旧保守印写しの角があった。脚注にはさらに細い字で、晩餐会当日有効、と添えられている。


「待機、ではありません」


 サラは最初に印を削らず、扉の外へ一歩出た。夜気で外套の裾が冷える。まだ門の外にいる馬丁が、ロウナの外套を腕にかけたままこちらを見ていた。


「帰宅順が未記入なら、まず本人の帰る先を聞きます。会場の中に置く理由にはなりません」


 係官が困ったように筆を握る。


「しかし当日有効印です。帰宅順が空白なら、事故防止のため会場内で待機させる決まりで」


「事故防止なら、灯を返す相手を書いてください」


 ネリアが薬粥の鍋を胸に抱き直した。鍋の蓋から、かすかな湯気が逃げる。


「ミナさんの夜明けの薬粥は、わたしが戻さないと冷めます。わたしを会場内待機にすると、患者の朝も待機済みにされます」


 ロウナは外套を受け取り、木札へ自分の名を書いた。


 帰宅灯一本、本人受領。門外馬車まで未完了。


「食べました。休みました。けれど、門をくぐるまでは帰ったことにしないでください」


 ルドは火守り手順書を閉じ、三つ目の小灯を両手で持った。


「ぼくは会場に残るなら、自分で残ると書きます。火守り交替後の帰宅灯を、未記入だから待機済みにされるのは違います」


 リリアは赤い印の下へ、代理読了欄ではなく細い青線を引いた。


 未記入は、待機済みではない。本人の帰る先・灯の受領者・門をくぐる時刻を読むまで保留。


 その一行で、帰宅口の扉番が鍵を回した。ロウナが先に外へ出る。馬丁が外套を肩へかけ、迎え馬車の灯を少し高く掲げた。ネリアは鍋を抱えて慈療院行きの小路へ向かい、ルドは残るか帰るかを自分の手で二つに分けた。


 サラは赤い当日有効印を破らなかった。青い保留札で覆い、扉の脇へ貼る。


「晩餐会の都合で、人を帰っていないまま待機済みにしない。これを今夜の帰宅口の手順にします」


 扉の外から、ロウナの馬車が石畳を離れる音がした。


 その時、帰宅灯棚の奥で、返されたはずの灯が一本だけ先に消えていた。


 札には、見慣れない書式でこうある。


 帰宅灯返却済み。本人帰宅確認未了。翌朝係へ一括移送可。

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