明朝パン窯火は、帰った子が眠ってから稼働確認してください
南パン窯の温度札が、夜明け前なのに裏返った。
――稼働確認済み。
窯番のルドが、まだ白い粉のついた手で札を押さえた。
「火は入っています。でも、薄焼き三枚の生地はまだ台に乗っていません。カヤも、帰ったばかりで寝台に入ったばかりです」
宿舎の小窓では、さっき北門灯をくぐったカヤの寝台返事灯が、細くとも点いている。靴は乾いていない。半刻賃金札も、翌朝出勤札も、青い保留布の下でまだ閉じていなかった。
そこへ、王宮厨房の白い回収籠が運び込まれた。
籠の札には、きれいな字で書かれている。
祝灯式準備済み。明朝供出パン数、同番号にて稼働確認済み。
「帰れた子を、そのまま朝番に数えないでください」
リリアが札の前に立った。声は小さい。けれど、前のように誰かの名を借りて読もうとはしなかった。
「帰宅完了番号は、供出パン数の読了番号ではありません。カヤさんが寝て、朝に自分で読めるまで、わたしはこの札を読みません」
カヤが寝台から起き上がりかけた。
「でも、私のせいでパンが遅れたら……」
「遅れていません」
私は温度札の横へ、三つの小さな欄を書いた。
火を守った人。
生地を置いた人。
食べる朝へ届いた人。
「稼働確認済みは、火だけの言葉です。南パン窯の朝は、火と生地と眠った人の明日の手がそろって、初めて閉じます」
「サラさん、火を落としますか」
ルドが一枚目の欄に自分の名を書いた。
「火を見ています。けれど、カヤの朝番はまだ起こしていません」
ネリアが薬棚側から小鍋を抱えてきた。
「ミナの薬粥には、薄焼き一枚で足ります。祝灯式の籠より先に、この子の喉へ届く分を焼かせてください」
私は白い回収籠の紐を切らず、青い札を重ねた。
本人睡眠待ち。
半刻賃金未閉鎖。
朝食三枚、生活側先行。
カヤは布団の端を握ったまま、ゆっくり息を吐いた。
「寝ても、欠勤になりませんか」
「なりません。帰った人が眠ることも、明日の仕事の条件です」
リリアが寝台返事灯の下へ、自分の字を添えた。
読了者は、本人睡眠を供出済みにしない。
南パン窯に、薄い火が戻った。
ルドは三枚だけ生地を置く。一枚はミナの薬粥へ。一枚はカヤの朝食へ。もう一枚は、夜番の戻り口で待つ誰かのために、温い布の下へ入れた。
大きな祝灯式のパン籠は、まだ空だ。
でも、寝たばかりの少女の朝を奪わない三枚が焼けた。
その香りが宿舎窓へ届いた時、白い回収籠の底から、別の札が滑り出した。
――生活火返却確認済み。南パン窯、王宮厨房本炉へ一時接続可。
帰った人を起こさずに守った火は、今度は本炉の名で奪われようとしていた。




