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第七三号の確認済みは、洗い場番表の名を乾かしていません

慈療院の裏洗い場には、朝の湯気と石鹸の匂いが残っていた。


 旧工房の仮保守窓口へ控えを運ぶ前に、サラはネリアの案内で乾燥棚の前に立った。三段目だけ、包帯が半分も乾いていない。木札には、ミナ、ベン、ロウ、と患者と夜勤明けの名が並ぶはずだった。


 けれど棚の端に挟まれた王宮翻訳室の薄紙には、別の言葉が押されている。


『祝灯式代理受領・第七三号。王宮翻訳室第三棚、確認済み』


 ユリウスは濡れた床を嫌うように靴先を上げた。


「第三棚で確認済みだ。これで第七二号の後日補完も閉じられる。包帯の乾き具合まで待つ必要はない」


「ここも第三棚です」


 ネリアが小さく言った。


 彼女は乾燥棚の三段目へ手を伸ばし、濡れた包帯を一枚、棚から外さずに持ち上げた。水がまだ糸の間で光っている。


「王宮翻訳室の第三棚で何を確認したのか、わたしには分かりません。でも慈療院の第三棚では、ミナさんの替え包帯はまだ乾いていません。ベンさんの湯瓶布も、ロウさんの床灯拭きも、まだ渡せません」


 白い手袋の使いが、あわてて薄紙を示す。


「確認済みとは、書式確認のことです。現物は後ほど――」


「後ほど乾くものを、今朝の確認済みにしません」


 リリアが、ネリアの横へ立った。


 前の夜、彼女は濡れた包帯を持ち、追認を拒んだ。今朝は違う。彼女は濡れた布を自分の名の代わりに使わなかった。乾燥棚の番表を取り、空いている担当欄へ自分ではなくネリアの名を読める向きに直した。


「確認済みなら、誰が何を見たか書けます。わたしは、この棚を見ていません。ネリアさんは見ています」


 サラは第七三号の薄紙を乾燥棚の上へ置き、青い保留札を三つに分けた。


『第三棚確認一。包帯の乾き具合。ネリア確認まで未完了』


『第三棚確認二。湯瓶布の温度。ベン受け取りまで未完了』


『第三棚確認三。床灯拭き。ロウの足元に戻るまで未完了』


 ネリアは自分の名を見て、一瞬だけ息を止めた。


「……洗い場係一名、ではだめですか」


「だめです」


 サラは乾いていない包帯の端を指で確かめた。


「洗い場係一名では、誰が濡れていると止めたのか分かりません。名前がなければ、次に濡れたまま配られたとき、誰の手順が消されたのかも読めません」


 ネリアはうなずき、番表の空欄に自分の名を書いた。濡れた包帯を、乾いたものの棚へ移さない。湯瓶布はベンの受け取り札と一緒に残す。床灯拭きはロウが足をつくまで三段目から外さない。


 小さな決まりだった。けれど洗い場の朝が、王宮翻訳室の紙一枚で終わったことにされずに済む決まりだった。


 ユリウスの声が固くなる。


「現場の名をいちいち入れれば、確認済みの意味が崩れる」


「崩れるのではありません」


 サラは薄紙を裏返した。


 第三棚確認済みの裏、旧保守印箱と同じ欠けのある封の下に、別の写しが貼りついていた。


 洗い場番表。


 そこではネリアの名が黒く塗られ、代わりにこう書かれている。


『祝灯式洗浄担当 一名 処理済み』


 ネリアの指が、乾きかけの包帯を強く握った。


 サラは青札をもう一枚取り、黒塗りの横へ置く。


「次に戻すのは、包帯ではありません。濡れていると止めた人の名前です」

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