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第七二号の後日補完は、濡れた包帯を今日の朝から外せません

旧工房の仮保守窓口に、朝の湿った匂いが流れ込んだ。


 薬棚からではない。慈療院の裏洗い場から、洗い場係のネリアが両腕で包帯籠を抱えて来たのだ。白い布はまだ乾ききらず、籠の底には冷たい水が薄く溜まっている。


「後日補完なら、これはどこの棚へ戻せばいいんですか」


 ネリアは、机の上の第七二号控えを見ずに、濡れた包帯籠を床に置いた。


 控えにはこうあった。


『祝灯式代理受領・第七二号。生活影響明細、後日補完。薬布・湯瓶・床灯、完了扱い』


 ユリウスは顔をしかめる。


「包帯など、乾いてから記録すればいい。今は祝灯式の配布番号をそろえる方が先だ」


「乾いてからでは遅い人がいます」


 答えたのはサラではなかった。ネリアが、籠の上に小さな木札を三枚置いた。ミナ、ロウ、夜勤明けベン。字は不揃いだが、どれも本人か担当者の癖が残っていた。


「ミナさんの替え包帯は、朝薬の前に温めます。ロウさんは足を床につける前に床灯が要ります。ベンさんは北門から戻る途中で、ぬるい湯瓶を受け取ってから寝ます。後日補完で完了にされたら、今日の朝、誰に何を渡したらいいのか消えます」


 リリアが、息を吸った。


 手袋の使いがすぐに紙を差し出す。


「では、リリア様が追認を。妹君の名があれば補完は済みます」


 以前なら、彼女の指はそこで止まっていただろう。


 けれどリリアは紙を取らず、ネリアの籠から一枚だけ濡れた包帯を持ち上げた。水がぽたりと第七二号の端へ落ちる。


「わたしの名で、誰かの今日を後日にしません」


 声は小さい。だが旧工房の机に並ぶ冷却石より、はっきり冷たかった。


「これは、わたしが読んだ完了ではありません。ネリアさんの洗い場も、ミナさんの朝薬も、ロウさんの床灯も、ベンさんの湯瓶も通っていません」


 トマが北門札の箱から、薄い青紐を出した。


「ベンの帰宅灯は、今朝まだ閉じていません。帰って寝るまでが夜勤です」


 ルドはパン皿ではなく、木の匙を二本置いた。


「薬を飲む匙も、包帯が替わるまで棚へ戻せません。完了にされたら、次の粥の数も間違います」


 サラは第七二号控えを机の中央に置き直した。赤を入れる代わりに、濡れた包帯、青紐、空の湯瓶札、木匙をその上へ一つずつ並べる。


「後日補完は、空欄をあとで埋める手続きではありません。今日の包帯を誰に巻くか、床灯を誰の足元へ戻すか、湯瓶を誰の寝台へ渡すかを未記載のまま完了へ押す命令です」


 使いの白い手袋が、包帯の水で少し濡れた。


「……濡れるので、控えからどけてください」


「どけません」


 サラは青い保留札に新しい行を書いた。


『第七二号。薬布・湯瓶・床灯・薬匙。本人または生活確認者が今日の受け取り先を書けるまで、後日補完不可』


 ネリアは初めて、籠を少しだけ机の内側へ押した。リリアがその横へ、自分の名ではなくネリアの名を読めるように札を向ける。


 ユリウスは低く言った。


「なら、第七三号はどうする。あれは王宮翻訳室第三棚の確認済みだ。旧工房の濡れた布では止められない」


 サラは、まだ開けていない第七三号の封筒を見た。封の端には、古い保守印箱と同じ欠けがある。


「止めるかどうかを決めるのも、署名者名ではありません」


 濡れた包帯から落ちた水が、後日補完の文字をにじませた。


「その確認済みが、誰の朝をまだ通っていないかです」

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