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コメントしづらい姿の父

クーリアが下水道でクッコルセにくっ殺されようとしていたそのころ――

(い、急がねえと……! このままじゃクーリアが殺されちまう……!)


 なんとか動ける程度には回復した体を動かしながら、俺は城の下水道へと向かう。

 そこで俺が<暗黒魔法>を撃ち込んだことで正気を失ったクッコルセが、クーリアを手にかけようとしている。

 そんなことだけは絶対に避けないといけない。

 もしそうなってしまったら、俺がクーリアを殺したも同然だ。


「おや? 聖女様? そんなに急がれてどうしたのですかな?」

「ちょっと急用があるので~、これで失礼します~」


 ただ急いではいるものの、兄貴にいたぶられた体は全快しきっていない。

 俺はマリアックの演技をしながら道行く住人に適当に挨拶をし、軽く早歩きで下水道へと急ぐ。


(クッソォ! 本当はもっと急ぎてえのに、まともに体も動かせねえし、正体をバラすわけにもいかねえし!)


 そんな現状にイラつきながらも、俺はとにかく足を進める。

 最悪、俺も下水道に入り込んで、クッコルセと戦うことになってでも――




「ヒィ! ヒィ! も、もう大丈夫だな!? 下水道は出たよな!? 虫はいないよな!?」

「ご安心ください。もう虫はいません。そろそろ降ろしてください」


(ク、クーリア!? よかった、無事だったのか! ……なんか、クソダサイ格好をしたおっさんに担がれてるけど)


 ――そうして俺がたどり着いた下水道の近くには、やたらと虫を怖がる、ダサい衣装で全身を覆うムキムキのおっさんと、クーリアの姿があった。

 最初クーリアはその変なおっさんの肩に担がれていたが、ゆっくりと降ろされる。

 状況を見る限り、あの変なおっさんがクーリアを助け出したようだ。


 いずれにせよ、クーリアの無事を確認できてよかった。


「え、え~!? クーリアさんと~……え~っと~……どなたか分かりませんが~、何があったのですか~!?」


 とりあえず俺もたまたま居合わせたマリアックのフリをして、クーリア達の方へと駆け寄る。

 よく見ると、変なおっさんの方は背中を大きく斬られた跡がある。

 もしかすると、このおっさんがクーリアを庇ってくれたのかもしれない。


 誰だか分からないし、恐ろしくダサい格好だが、悪い人間ではなさそうだ。


「シスター・マリアック。申し訳ございませんが、この陛下――いえ、フクシマンの背中の傷を、回復魔法で治してもらえませんか?」

「わ、わわ~!? かなり深い傷ですね~!? よく分かりませんが~、ケガしている人を~、放っておけませんね~」


 そうやって俺が内心訳の分からなさと感謝の念を同時に抱いていると、クーリアが変なおっさんの手当を俺に頼んできた。

 クーリアに頼まれたら断れないし、俺もマリアックの演技なんて関係なしに喜んで治療する。


 ――変な話、俺のマリアックとしての演技がいつの間にか、フェイキッドとしての俺自身にも影響を与えている。

 ただ俺としても、それが嫌だとは思わない。

 一応はかつて城で王族としての教育を受けた身だ。

 あの頃親父に教わった、『民を思う心』だって忘れてはいない。




 ――それが俺にとって、もう会うことの叶わない親父との絆でもある。




「ぐうぅ……す、すまない。恩に着るぞ。シスター・マリアック」

「いえいえ~。当然の務めですから~」


 そして俺は変なおっさんの背中の傷に回復魔法を唱える。

 かなり深い傷だが、このおっさんの筋肉のおかげか致命傷には至っていない。

 傷の具合を見る限り、やはりクッコルセの大剣によるものと思われる。


(やっぱ、このおっさんがクーリアを守ってくれたんだな。誰だか知らねえけど、本当にありがたい――ん?)


 俺はこの変なおっさんの治療を続けていたのだが、一つ気になることを見つけた。

 このおっさんは顔も覆面で口元以外は完全に隠していたと思ったのだが、よく見ると頭頂部だけ穴が開いて丸見えだ。

 しかもそこから見える地肌はツルツルのつるっぱげ。まさに不毛の台地(頭頂部)




 ――ここにきて、俺はある可能性に気が付く。

 このおっさんの特徴なのだが――


 体は筋肉ムキムキ。

 頭は不毛のツルツル。

 声もよく聞いてみると、幼いころに聞き覚えがある。

 『虫が嫌い』といった発言をしていたが、同じように虫が嫌いな人物を俺は知っている。

 そもそもさっき、クーリアはこのおっさんを『フクシマン』などと呼んでいたが、その前に少し『陛下』と言っていたのも聞こえた。


 まさかこのクソダサい衣装を着たおっさんは――




(お、親父かぁあああ!!??)




 ――俺は必死に顔には出さず、心の中で確信した。

 このフクシマンとか言うクソダサい衣装を着たおっさんは、俺の親父ことウォッシュール王国の国王、ジーキライ・スクリームだ。

 よもやこんな形で、もう二度とまともに会うことが叶わないと思っていた親父と再会できるなどと、夢にも思わなかった。


 ――内心、俺はすごく嬉しかった。

 十年前、まだ幼いころに無理矢理引き離された親父と、こうして再会することができたのだ。

 今すぐにでも『俺はあんたの息子のフェイキッド・スクリームだ』と教えたいところだが、そんなことはシケアルの兄貴が絶対に許さない。

 教えてしまえば、兄貴は俺だけでなく、親父をも殺そうとしてくる。

 今の立場では親父に何一つ真実を話せないし、接し方が許されるのもシスター・マリアックとしてだけだ。

 それでも嬉しいことに変わりはなかった。


 変わりはなかったのだが――




(なんなんだよ!? そのクソダサい衣装はぁああ!? なんでそんなもん着てんだよぉ!? 親父ぃいい!?)




 ――そんな感動を押しのけてしまいそうなほど、親父の格好がひどい。

 全身を顔まで覆い、やたらとその筋肉を主張させてくるピッチリタイツ。

 でもなぜか頭頂部は開いていてハゲ頭が丸見えという、これでもかとダサさを盛り込んだ衣装。


(くっそ……! 色々台無しじゃねえか……! せっかく十年ぶりに会えたってえのに……!)


 俺の内心は歪な喜びで溢れかえる。


 ――どうせなら、もっとマシな姿の親父に会いたかった。




「それにしても、どうしてフクシマンはあの場所に来られたのですか?」

「ああ……そのことか。シスター・マリアックよ。もう回復魔法は十分だ。下がっていてくれ」

「は、はい~……。とりあえずこれで~、大丈夫ですし~……」


 ある程度俺の回復魔法で傷がふさがると、親父は俺にこの場を離れるように願い出てきた。

 ダサい衣装を着ていても親父との別れは名残惜しかったが、俺もこれ以上親父と接触するわけにはいかない。

 そうして俺は言われた通りその場を離れたのだが、複雑な内心と回復しきっていない体のせいで――



 ドテンッ



 ――転んだ。


(疲れるし、わけわかんねえし……。でも、親父も元気そうでよかった……)


 俺は立ち上がりながら服の埃を払い、そのまま親父とクーリアの方には振り返らずに立ち去った。

 振り返ってしまうと俺がこらえた気持ちを吐き出しそうで胸が苦しかったし、親父のダサい姿を見るのも苦しかった。

 それでも元気そうな親父の姿を見ることができ、偽りの姿ながらも言葉を交わすことができたのは、俺にとってはかけがえのない時間だった。


 それに様子を見る限り、親父はクーリアに協力してくれているようだ。

 親父はムキムキの筋肉とイカツイ顔面で近寄りがたい印象こそあるが、王としては優秀だ。

 そんな親父がクーリアの傍にいてくれるなら、俺も安心していられる。


(俺も昔は親父みたいな男に憧れてたんだよなぁ……。今じゃあ逆に、女っぽくなっちまったけど)


 俺はそんなことを思い浮かべながら、教会への帰路につく。

 ひとまず兄貴の計画通りにクーリアが死ぬことにはならなかったことには安心できた。

 そんな安心感に満たされながら、俺は心の中で一つ誇れるものがあった。


 それは『マリアック・アリビュート』という偽りの姿のために手に入れた力だが、ずっと会いたかった親父を救ってくれた力についてだ――




(俺の回復魔法で、親父を救えたんだなぁ……)

密かに感動の再会をしていた親子。

フクシマンの衣装のせいで台無しになったけど。

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