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暗黒の力を落とす清掃用務員

"フェイキッドの亡霊"に残されたのは、服従という選択のみ。

(ここらへんでいいかな)


 "フェイキッドの亡霊"の姿で教会を出た俺は、聖ノミトール学園内の建物の屋上を飛び回りながら、辺りを見回してみる。

 俺に<暗黒魔法>の拡散を依頼した兄貴は、校門のあたりにいるのがチラリと見えた。

 兄貴の見えるところでやった方が、後々グチグチ言われることもないだろう。


(この位置なら、本校舎を狙うのが一番手っ取り早いか)


 俺は人目につかない位置で、"ファルコン"の内部に瓶に入った<暗黒魔法>を一本分充填する。

 そして、その"ファルコン"の銃口を校舎に向け――



 バシュン! バシュン!


 ゴボォオオオ!!



 ――装填されていた<暗黒魔法>を数発発射。

 着弾した<暗黒魔法>の魔法弾は、不気味な音を立てながら校舎を包み始めた。


(気味の悪い光景だぜ……。これを俺がやったんだよな……)


 <暗黒魔法>に覆われていく校舎を見ていると、自分で自分のやったことに反吐が出そうになる。

 兄貴の言いなりになってこんなことをしているとクーリアが知ると、俺のことをどう思うだろうか?


 ――いや、どう思われるも何も、嫌われる要因なんて腐るほどある。


 本当は男のくせに、あざといまでに女のフリをしている。

 本当は死んだはずの人間なのに、生きていてこうやって暗躍してる。

 本当はやりたくないことを、言われるがままやってしまっている。

 本当の自分を隠してばかりで、嘘ばかりついて、ただ逃げている。


 ――俺にできることといえば、クーリアへの淡い恋心を『実らせない』ことぐらいだ。




(……考えてても仕方ねえか。俺のやることはここまでだ。後は兄貴が勝手になんとかしてくれんだろ)


 結局、ここでも変なところで他人任せにして、俺は教会へと戻っていく。

 こんな行動の一つ一つを見ても、俺がクーリアと釣り合うようには思えてこない。


 ――本当に自己嫌悪ばかりが募る。





(ハァ……。本当に気分悪いな……)


 教会に戻った俺は自室でレインコートのフードと『笑い狐の面』を外し、部屋のイスへと腰掛ける。

 ため息をつきながら俺は『やってしまった』という、後悔の念に苛まれる。

 クーリアの"汚れ"掃除に協力しようと思った矢先に、俺自らがその"汚れ"の正体である<暗黒魔法>を学園内にばら撒くという愚行。

 本当に自分で自分のやってることが分からない。

 そもそもは俺の心の弱さが招いた、自業自得なのかもしれないが――




(……でも、学園内の様子は心配だな。ちょっと探ってみるか)


 ――そんな臆病な俺でも、やはり自分のしでかした騒動の顛末は気になる。

 シケアルの兄貴が適当に解除して終わりなんだろうが、それでも俺は学園内の様子を観察するため、目を閉じて意識を研ぎ澄ます。


 俺が<アブソリュート(完璧なる)アクター(役者)>として手に入れた各種スキルのサーチ能力があれば、教会の自室にいながら学園中の様子を本当に見聞きしているかのように探ることができる。

 俺はその能力を使い、学園内の観察を始める――




「……談話中、失礼いたします。少々お掃除をさせていただきます」

「え? メイドさん? あ、はい……。いいですけど……」


(え? クーリア? 掃除してんのか?)


 ――そうして俺の脳内に飛び込んできたのは、学園内を掃除するクーリアの姿だった。

 ハタキで埃を落とし、雑巾で家具を磨き、モップで床を拭きあげている。

 その際に生徒達の邪魔にならないよう、軽く声をかけながら周囲の警戒と配慮も怠っていない。

 洗練された無駄のない掃除。

 しかし何より驚くべきことは、クーリアが掃除した後にある――




(あ、あいつ……本当に<暗黒魔法>を掃除して(消して)やがる……!?)




 ――クーリアの手によって、<暗黒魔法>は本当に消滅していた。

 しかもクーリアには<暗黒魔法>がハッキリと見えているらしく、次から次へと<暗黒魔法>へと向かっていく。

 話には聞いていたが、こうして目にしてみることで改めて実感する――


 ――<清掃用務員>。

 そのとんでもないスキルの力を――


(本当にクーリアの奴がいれば、兄貴にも勝てるんじゃ……?)


 俺はその光景を見て、わずかながらに希望を感じ始めた。

 はたから見るとただ掃除しているだけのようだが、クーリアは確かに<暗黒魔法>を捉え、どんどんと無効化している。

 俺が何年もシケアルの兄貴に囚われ続けた要因を、クーリアが取り除いてくれている。

 少し前にココラルの嬢ちゃんも言っていたが、クーリアは俺にとって――




 ――本当の<勇者>かもしれない。




(でも、いくらクーリアが<暗黒魔法>に立ち向かえると言っても、あのシケアルの兄貴に勝つのは難しいかもな……)


 それでも少し考えると、俺の心には別の不安が芽生えてしまう。

 クーリアの<清掃用務員>の力は確かにすごい。

 だが、<暗黒魔法>を操っている兄貴の力は、そんな想像の上をも行くほど強力だ。


 ついさっき兄貴によって徹底的に痛めつけられ、恐怖心を再度植え付けられたこともあるだろうか。

 俺はクーリアに期待を寄せつつも、それ以上の心配に囚われてしまう。


 もしクーリアでも兄貴に勝てなかったら?

 もしクーリアが兄貴に負けてしまったら?


 ――もしクーリアが兄貴に殺されてしまったら?


(ダ、ダメだ……! そんなことだけは、絶対に……!)


 その可能性が頭をよぎった時、どうしようもない恐怖心が俺の身に走り、それまでの希望さえも消し去ろうとする。

 クーリアに希望を託そうとしたかと思えば、今度はクーリアが兄貴と対面することを恐れてしまう。


(本当に、俺ってダセえよなぁ……)


 ただでさえ他人任せなのに、考えさえもまるで統一されない。

 本当の自分の思いを出すこともできず、ただ恐怖に支配されて人の害となる存在へと成り果てている。

 本当に俺は弱い。心が弱いにもほどがある。


 そんな俺と比べて、クーリアはどれだけ強いことか。

 今もこうして俺が広げた<暗黒魔法>を消していき、曇りなき意志で自分のやるべきことを行っている。


 『嘘で塗り固められた亡霊』である、俺。

 『心も行動も真実の転生者』である、クーリア。




 ――比べてみると、改めて思う。

 俺とクーリアはとてもじゃないが釣り合わない。

 俺のこの淡い初恋の感情さえも嫌になってくる。


(いっそ本当に、『亡霊』になっちまいてえよ……)


 俺は一人教会の自室で自己嫌悪に陥る。

 それでもクーリアのことが気になるし、心配にもなってしまう。




 俺は困惑しながらも、クーリアの動きを観察し続けた――

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