救出
『トロルは完全に沈黙。シェルター内に侵入したゴブリンの駆除にも成功した模様でございます』
≪アラクネ≫が状況を整理してくれた。
あらら、結局侵入されたか。
被害者が無いか≪アラクネ≫に確認しようとした所
のそりとシェルターに出来た亀裂奥から這い出る者がいた。
どうやら、トロルやゴブリンの猛攻のせいでシェルターの入り口の損傷が酷く
ドアの開閉もままならなくなったらしい。
敵はもう無いと≪アラクネ≫が教えてくれてなかったら、ライフルで撃っちゃったかも。
そして感動の再会と。
「なんで、もっと早く助けにこなかったのかね。私を殺す気か!!!!」
「シェルター中に怪物が入って来ちゃったじゃないか」
「そうだ、そうだ。 本当に死ぬところだったぞ」
絶対言うと思った。
皆さんエリートだし。
リチャード管理局長グループも俺やキリル同様
≪アラクネ≫の手ほどきを受けたようで
今までは操作出来なかったライフサポートバンドをいじっていた。
リチャード管理局長はライフサポートバンドからの
微弱な光を出させると同時に、俺をスキャンしていった。
おそらく、あれは上位権限者の個人照合ツールだな。
「ナイブス航海士の奮戦のお陰でこっちに被害者はない。
一応、渋川シュン整備士?といったかね。
ふむふむ、犯罪歴はないんだな。
なんだ、ただの下働きじゃないか。一応礼は言っておくよ」
はいはい
家族もなく人脈もなく資産もなく階級も低い俺ですよ。
こんな下働きのお陰で普段この船の運用や維持が出来たし
今回、てめぇも命拾いしたんだよ。
リチャード管理局長の審査はまだまだ続く。
「ことが収まれば私から皆に特別補償が出るように計らうぞ。
そして、君は女だったとはね。
どれどれ」
おっさん目つきが露骨すぎるんだよ。
今度は黙り込んだままのキリルに向けてスキャン
「む、なんと……。
貴様はあのマッドサイエンティストの末裔じゃないか」
「管理局長、どうかしたんですか?」
リチャード管理局長のみせる激しい剣幕にナイブス航海士も驚きながら質問する。
「あれだよ。
50年前の大規模、ワープドライブ強奪・爆破テロの主犯
博士の血縁者だ。
なんでテロリストがこの船に乗り込んでいるんだ。
≪アラクネ≫、一体どうなってやがる
おい、こいつを逮捕しろ」
「…………っ」
キリルは何かを言おうとしたが、それよりも先に≪アラクネ≫が介入した。
『正確にワープドライブ強奪・爆破テロは41年前の事件でございます。
被害者数は約10万名、近世紀最大最悪の事件として残っております。
主犯としてドストンベーク博士グループや政界、経済界の有力人物が多数逮捕されました。
しかし、自分の容疑を認めた者はこく僅かでございます。
程んどは裁判中、または刑務所の服役の途中自殺か殺害され真相は……』
「誰が説明など頼んだ!!!! 黙れ!!!
真相はドストンベーク博士は有罪でこいつがテロリストの子孫だということだ
どうやら質の悪いジャミングツールで偽装していたらしいけど
私の上位者権限で化けの皮が剝がれたな
おい、何をしている こいつを押さえろ」
「信じられない、テロリストのだったの?」
「じゃ、怪物どもを誘導したのも、きっとこいつだ」
「おい、武装解除しろ!!!!」
シェルターからは
生存者の残りも全員出ていた。
えっとトマスさんに、ルーソ・ベルシカさんだ。
知らない人も一人いるが今はそれどころじゃない。
とうとうキリルが切れた。
「私は犯罪者なんかじゃない! 偽装などしてない!
テ、テロなんで……。」
ワープドライブ強奪・爆破テロの関係者
しかも、主犯と疑われた人の家系だと今まで大変だっただろうな。
罪が子供に受け継がれる冤罪
高度に文明化したこの社会で禁止されている概念だが人の憎しみや妬みは
そう簡単に消えてなくなったりしない。
祖先が大罪を犯したからって代々後ろ指刺されるのは可笑しい。
罪は絶対無くならないし、無かったものにしてはならない。
しかし、その子孫に背負わせるまでして罪を増やす必要はない。
大事なのは忘れないことだ。
ここは黙て観てられない。
「彼女はテロリストじゃない……………と思います」
今回はみんなの視線が俺に集まる。
「考えて見てください、いくら偽装したって上位者権限や≪アラクネ≫のスキャンに掛かれば一発で身バレする。この船のセキュリティはそんなに甘くない。
そうだろう? ≪アラクネ≫」
『おっしゃる通りでございます。初めから彼女の家系にドストンベーク博士がいるのはわかっていました』
「なに? それじゃ何故黙っていた!!! 何故乗船を許した?」
『現在、彼女の犯罪容疑はございませんし、逮捕令は出ておりません。
犯罪歴にあるのは名誉毀損に関する一件のみで……』
「ほら見ろ! 犯罪者じゃないか」
「今、見るべきはテロリストか否かのはず。
そして、こんな簡単に身元がバレるのに何故私たちと行動を共にするんです?」
リチャード管理局長の怒りは少しも収まらなかった。
「システム不全を狙ったのだ。システムがずっと戻らなかったら騙し通せると思ってたんだろう」
あ、説得力ある。
しかし、そんな間抜けなことするかな。
俺が黒幕なら安全に怪物に護衛されながら高みの見物一択だ。
現にキリルはみんなにリンチされる寸前だ。
法律もくそもない大混乱上の現状。
このまま、テロリストにされたら若く瑞々しい体の女の辿り着く
未来は悲惨な物しかない。
皆、精神的に追い詰められているんだ。
しかも、今回の事件
ワープ絡みなのがいけない。
見事、過去のワープドライブ強奪・爆破テロを連想させてしまう。
「それでも彼女を信用する訳には…」
「とにかく!!!! 今は動きましょうこのシェルターはもう使えませんから
武器のエネルギは使い切りました。敵が来たら、やばいですよ」
堂々巡りにならないよう半ば無理やり話を折る。
「そ、そうよ。まずは安全を確保しましょうよ」
ルーソ・ベルシカさんから助け舟が出た。
よし、畳かけよう。
「それでは、まず周囲を警戒しながら……」
と声を出したら
「待って、何でお前が仕切るんだよ?
下級船員めが偉そうに、貴様は俺の指示に従え。
俺は1級航海士で緊急時の訓練も受けてるし、指揮経験もある
リチャード管理局長、よろしいでしょうか」
「うむ、よろしく頼むぞ」
即座にライフルを取られた。
そっか
彼らにとっては俺みたいな下級船員は準テロリストのキリルとあまり変わりないんだな。
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結局、≪アラクネ≫の索敵データが集まるのを待ってから移動することにした。
俺はライフルは取られたが、自作の整備端末はその配線やら重さやら、決定的に見た目の悪さから取り上げられることはなかった。
あくまでも指示通り動けと吐き捨てるように言われたが。
待機時間の間
俺は壊れたシェルターに潜り、まだ使えそうな物を集めた。
あっちこっち亀裂が入り今にも崩れそうだ。
それを見て、はっとしたらしく、のんびりとリチャード管理局長と話しこんでいたナイブス航海士も
色々と指示を飛ばしながら物資を集め始めた。
普通、訓練を受けていれば最初に気がつくもんだけどな。
あいつ大丈夫かな。
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大体、回収が終わってシェルターから引き揚げることにした。
俺も個人用に使えそうな相棒を見つけたので大満足だ。
皆が這い出て行って最後にキリル
だが、
壊れかけていた足場が一気にくずれた。入口から出ようとしたキリルがよろける。
手を伸ばして彼女の手を掴んだ。
間一髪。
死にはしないだろうが怪我は免れない状況だった。
この状況下で足でも怪我したら大変だ。
他の皆は近くにいるのに完全に無視してやがる。
なんか言ってやろうかなと思う俺の耳に小さな声が聞こえた。
「…………ありがと」
話好きの明るい女も花があっていいけど、普段あまり喋らない美女の滅多に聞けない
囁きってどうしてこんなに人の心を揺り動かすんだろう。
不思議だ。
不謹慎にも彼女が真打のテロリストでもついて行きたい気分になった。




