トロル退治1
≪アラクネ≫の説明によると敵は急に現れたらしい。
しかし、幸いなことに一旦現れたら急に無くなったりはしない。
テレポートみたいな超能力を安売りする強敵じゃなくてよかった。
でも、ゴブリンのような小型のやつはライフルで対処可能だが
キリルが『トロル』とよんだデカいやつ。
≪アラクネ≫の説明だと、個体数は少なく動きはとろいけど
その8本の手足からの怪力、特に重量物を投げてくる遠距離アタッカなため
かなり厄介らしい。これは今まで≪アラクネ≫の感想などではなく、観測された犠牲者数による
評価だそうだ。
絶対会いたくないが、対策は一応考えてあるんだよな。
部屋を出て出発する前に≪アラクネ≫からのプレゼントを確認する。
そう
少ない残りの力を振り絞って俺達二人に若干の特殊能力をくれたのだ。
ライフサポートバンドの機能拡張
厳しく宇宙法律で取り締まられる領域だが、背に腹は代えられない。
これでもか!!というレベルまで魔改造した。
簡易の充電式エネルギパルス発射装置をつけてスタンガンにしたのだ。
これで殺傷力は期待できないがゴブリンの牽制には最適だ。
乱戦中の誤射の可能性まで考慮して敢えて殺傷力は低くした。
それに、簡易とは言え索敵レーダ機能をつけた。
軍用の専門索敵デバイスじゃなく、一般のライフサポートバンドの基本空間認識機能の拡張でしかないため、過信してはならないのが問題だが、あるとなしとじゃ天と地の差だ。
隣のキリルさん? 絶対、俺より年下の20台前半かだからキリルちゃんで呼ぶか。
「……………… キリル」
「よ、よう。 よろしくな、キリル…」
俺の周りの皆は心を読むのが流行ってるのか?
俺ってそんなに読まれやすい薄っぺらい人間なのか。
とにかく、また声を聴けたのは進歩だな。
キリルか、外人の名前だな。髪の毛黒いのに
と思ったら純粋な黒ではなく青みがかっているのが分かった。
瞳の色もちょっと
なんか神秘的な色だ。
いかん! 釣り目が更に吊り上がった。
質問でもして誤魔化そう。
「俺はシュンと呼んでくれ。
そういえば、お前は記憶してる時間どれくらいだ?キリル」
俺のライフサポートバンドの経過時間は二日くらい、リチャード管理局長は自分曰く最長で1っか月
らしい。
キリルはどうだろう?
彼女は一瞬、顔色が暗くなった。
そして躊躇いながら
「………。
覚えていない」
ふん、何か隠してる気がするが詮索しても仕方ない。
少なくとも今は見方だ。
多分。
「そう、お前も大変だったな。はじめて見た時はびっくりしたよ
船内で船外用のアマードスーツ着込んでいるやつがいたから」
「………」
またまた黙秘権。
しかし、言葉のキャッチボールを強要したくはない。
非常時だからこそ、互いのコミュニケーションをと叫ぶ人もいるかも知れないが
俺はそう思わない。
切羽詰まった時こそ、会話はお互いに神経を使うし疲れる、元々人と付き合いが苦手な人は言うまでもないだろう。
キリルの沈黙は、執拗に無神経な質問をしたり、パニック状態で泣き叫んだりよりは全然好感が持てる。
俺は出発の前に≪アラクネ≫にお願いして小部屋にあった使える端末を回収し、自分用の簡易整備端末を作った。
余りものの有り合わせで見た目は酷い物だが、俺の予感が当たれば必ず役にたつ
はずだ。
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シェルターまでの移動経路を確認していたら
≪アラクネ≫から報告があった。
『何とかシェルターまでの移動経路上に敵生物の索敵を終えました。距離が離れるにつれてジャミングが酷く、リアルタイムのデータではありませんが、今が移動には最適かと思われます』
「よし、いくか」
因みにリチャードさんらは≪アラクネ≫がこっちの安否は伝えたものの、自分らは武器がないから
ライフルを持っているお前らが助けに来いと言ってきたらしい。
無言で頷いた後、キリルが前に立った。
男の私が前かと思ったが、最大火力のライフル持ちが先頭でやられたら即アウト。
ライフサポートバンドのスタンガン機能である程度自衛は出来るようになったのも事実。
怖いだろうに大した度胸だ。
しかし、よく見たら肩とか震えているのが分かった。
やはり俺が前に立とう。
安全かつ、薄着美女の後ろ姿が見放題の後ろに立つのも良かったが
震える女の子の後ろはいやだっだ。
≪アラクネ≫曰く、ここからだとシェルターまで3時間程度らしい。
周囲を警戒しながら移動を開始した。
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≪アラクネ≫の説明を聞いたリチャード管理局長は内心ほっとしていた。
記憶も曖昧で生きている人間に会うことも難しかった一か月間、本当にしんどかった。
しかも、怪物まで現れて一体どうなっているんだ?
最高位意思決定議会が推進していた、あの計画が原因では?
だからあんな気味の悪いものなど搬入してはならなかったのだ。
ここで救出されるためには、やはり地球側にコンタクトを取るしかない。
しかし、どうしたらいいんだ。
どうやったら…………。
悩み続けていたリチャード管理局長は≪アラクネ≫からのアナウンスで
現実に引き戻された。
『緊急事態でございます』
「リチャード管理局長!! か、壁が…」
「なにかね? 一体…」
状況を聞こうとしたが聞くまでもなかった。
この音、この振動。
「ドーーーーーーーーーーン」
「ドーーーーーーーーーーン」
「ドカーーーーーーーーーーン 」
『現在、このシェルターは大型敵生物、≪トロル≫の攻撃をうけております』
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キリルと俺は2時間ちょっとで目的のシェルターに到着した。
移動の途中で≪アラクネ≫から知らせがあったため急いで来たのだ。
今は離れた場所に身を隠している。
ちょうどいい感じに船内物資郵送用のトラックが倒れていたので、その真下に入りこんだ。
遮蔽物があるのはありがたい。
≪アラクネ≫の観測データによると20~30メートル離れていると感知されないらしい。
ただし、定期的にとこからか情報を取ってるらしく油断するなとも言われた。
それもそのはず、その情報更新がなかったら最初の大部屋での待ち伏せのような襲撃は絶対出来ない。
やはり、出鱈目な選挙当選を狙う≪プロミネンス≫というやつの仕業かな。
とにかく、今は怪物共の関心は専らシェルターの中のグループらしくこっちには気づいた様子はない。シェルターの前は、もう縁日の露店みたいに賑わっていた。
これはないだろう。
殆どは、いや一体の除いては全部ゴブリン。
しかし、ご丁寧にちゃんとトロルがいた。
ライフルが通用しないのは前回確認済み。
時間が経って諦めてくれると助かるのだが、今のままだとシェルターの中の人々が
生を諦めるほうが早かろう。
ひび割れたシェルターの壁は≪アラクネ≫が緊急修復を試みているとのことだったが
今にも崩れおちそうだった。
基本的、必要に応じてドアが作れたりする船内の薄い壁と違って安全性を重視するシェルターなどの重要施設は決まったドア以外には出入り出来ない。
もっとも、この不思議事件以前はドアが勝手に生成されることはあまりなかった。
殆どは固定式の通常ドアを利用すれば済む。
怪物の登場とドア生成
何か引っかかるような……。
「シュン? 作戦は?」
せっかくのキリルの呼びかけだ。
「あるにはある」
さあ、トロル退治だ。




