女神との遭遇
穴の中は狭いがちゃんと通れる幅のウォタースライダーチュウブみたいな構造だった。
そして俺たちが通過した後は、直ちに塞がってしまうらしい。
5分くらい穴の中を滑り落ちて出た場所は小さな事務室だった。
久しぶりに見る明かりのついている操作端末がなんとも懐かしい。
近づいて操作を試みるが何らかの上位者権限でロックされているらしくまったく操作出来なかった。
普段なら電子システム整備士らしく原因分析に入るのだが今はそれどころではない。
部屋中を確認してみる
俺たちが落ちた穴はもう痕すら残っていなかった。
「≪アラクネ≫ いるんだろう?」
『はい、ちょっと待ってくださいね。
出来れば他の生存者と連絡取れるパースを生成出来ないか、今テスト中です』
ーーーーーーーーーー
『あらら、ダメですね。 やはり一筋縄ではいきませんかね。
もうしばらく、おまちくださいね』
こいつ普段の丁寧語はどっかに消えている
こっちが素じゃないかな。
「………」
女はまた、黙秘権行使中のようだ。
こんな美人、お目に出来るだけでも眼福ものだが緊急時にずっとこんな態度じゃ
ここから先は思いやられるな。
美人という生物はろくでもないやつが多いし…
でも、ここはまずはっきりしておく事がある。
「なんの理由で話さないのかわからないが、これだけは言わせてもらう」
「………」
「まずは助けてくれてありがとうかな? スーツで庇ってくれなかったら今頃俺は死んでいた。
改めていうけど俺は渋川シュンだ。よろしくな」
「………」
なんのわけか知らんが、こういうタイプの人に挨拶くらいしろとか、
いろいろ聞いたりするのは良くない気がする。
まずは情報を集めないと
そう思ってライフルの残弾数を確認したり体の怪我を確認してたりしたら、やっと≪アラクネ≫から
声が掛かった。
今回は部屋の中央に≪アラクネ≫のアバター立体映像付きだ。
いつみても、盛りすぎなそのルックスはゲームかアニメの神のようだった。
地球の神話に出る妖精をモチーフしたと聞いたことがある。
『大変長らくお待たせいたしました。そして申し訳ございませんが、他の生存者たちとの通信はやはり妨害されています』
丁寧語に戻っている。
「通信もいいけど、今この船でいったい何が起こっているんだよ
説明してもらおうか。
お前さんが顔を出したのはある程度のシステムは復旧出来たんだろうな?」
≪アラクネ≫は苦笑いを浮かべてすこし躊躇ったあとこう述べた。
『実はこちらとしても、よく分からないのでございます』
「え?」
「………」
彼女はこの船の総合管理AIの筆頭でいわば女王、いや神にも匹敵する存在のはずだが
分からないとはいったい………。
テロリスト集団のせいとか、一時的システム不全だったらよかったんだけどな。
うん、今必要なのは情報、そして計画だ。
さっきの怪物どもに囲まれたりしたら完全にアウトだ。
「じゃ、知っている範囲でいいから説明をお願いするよ」
『まず、他の生存者の方々から多かった質問の内容を含めて説明致します。
現在、船のメイン制御システムは私の手から切り離されております。 生命維持関係の部分と動力系はなんとか辛うじて確保してる状況でして、通信やドアの解除、ドローンの支配権などがうまく作動しません』
「でも、さっきドア作って俺達を助けたよな?」
『あくまでも限定的な範囲と時間だけです。本来なら怪物達がドアから侵入するのを阻止しようとしましたが出来ませんでした』
「そうだ、あれはなんだ? 怪物? まさかエイリアンなのか?」
『申し訳ございませんが正体不明です。 どうやって船内に入ったかも、ドアとかを解除して襲ってくるのかもです。他の生存者の方々とも議論しましたがここになんの記録もなく侵入すること自体あり得ないのですから。しかも……』
「しかも……?」
『あの生物達は皆さもお持ちの生体チップのような物を持っており船内では信じがたいごとに一般市民として認識されています』
「そんな、馬鹿な?!!」
宇宙船の船員の身元確認や管理はかなり重要な問題である。
それもそのはず、作業人員の確認やサポートのような通常の目的以外にもテロリストの侵入防止や船員の反乱勃発時の鎮圧や緊急パージなどなど。
過去の数多く歴史に残るAIの暴走を防ぐために必ず重要な船内生活ルールの変更、重要な決定は人じゃないと実行出来ない。
それも最高責任者と船内構成員の必要人員数を確保しないと何もできない。
緊急発令で抜け道がすこしがあるといっても怪物が市民権持ちなんてあり得ない。
「外部からのシステムハッキング攻撃かな?」
いかしそれならすでに防壁とかが作動してとっくに気づいたはずだ。
『AIの私からの見解ですとあり得ないことですが、今の現状はシステムが乗っ取られ謎の生物兵器が船内を占拠してる状態です』
「やつらの目的はなんだ? テロリストと思われる組織からの連絡は?」
『多分ですがセンキョじゃないかと』
「ああ、占拠だな」
「いいえ、占拠じゃなく選挙でございます」
「はあ?」
しゃれの冗談か
この状況で?
このAIやはりいかれたか。
『気など狂ってませんし、冗談でもありません』
こいつ、人の心を読む機能でもあるのか?
「なんの冗談だよ、怪物が選挙なんて」
『なぜ、市民の生体チップをもっているのか疑問で探ってみましたが、どうやら犠牲者から抜き取ってそれを自分の体に埋め込むらしいです。単に埋め込むだけで適応するはずがありませんがそれを擬態できるなんらかの技術が適用されているらしいのです。
船内にコルードスリップ状態の乗務員ブロックがあるのはご存じでしょう?』
「ああ」
これだけ大きな船だとどうしても余剰人員は発生してしまう。例えば重罪の犯罪者や長期失業者やいろんな不要とされる余剰人員は、次の帰還時までにコルードスリップ処理を受ける。
『現在、コルードスリップ区画は完全に破壊されて収容者400名は全員死亡しているはずですが』
「その人らのチップ全部あいつらの物になったと?」
『チップの反応は全部生きていますし、生存者が怪物に殺されたらまたチップが奪われます』
「やっぱり、エイリアンか?」
『不明です。地球の技術で作られた生体兵器の可能性もあります。むしろチップへのハッキングの手腕をみると地球からのほうが信憑性があるかと』
「それで目的は選挙というのは?」
『ご存じのとおり、AIの暴走やハッキングのテロを防ぐために、重要な決定決定は人じゃないと実行出来ません。これだけは何物にも逆らえない不可侵の領域なのです。絶対多数の生体チップパルスからの可決、それはどんなハッキングよりも強力で安全かつ効率的に全船を掌握出来てしまいます』
「船員を皆殺しして怪物どもが取って代わると?」
『セキュリティが起動出来ない今は時間の問題かと』
「今、この区画の生存者数は?」
『6人でございます』
少なすぎだろう。
「ちかくの……」
質問を続けようとした私の腕を女が掴んだ。
驚いて振り返ると
壁がまた光出していた。




