≪アラクネ≫の正体
◆◆◆
『あらら、皆さん どうされたんですか?
久しぶりなのに挨拶どころか、そんなお化けでも見るような眼はやめて頂けると有難いですが』
「ここは外と電磁と重力の複合のバリアで隔離されている。
どうやって入って来た?
そもそも、貴様は今頃人間共のAI精密検査で動きが取れないはず!!!」
さすがに≪プロミネンス≫すらも≪アラクネ≫の登場は予測出来なかったみたいだ。
狼狽えてる。狼狽えってる。
「シュン!、戻って来てくれた」
キリルの嬉しそうな顔が眩しい。
ふふふふ。
これで作戦は半分は成功した。
そう、≪アラクネ≫を呼んで来たのは俺だ。
◆◆◆
時空間拡張のなかへ逃げる直前。
俺は悩んだ。
どうすれば≪プロミネンス≫に勝てるが良い案が浮かばなかったからだ。
しかし、その時。
逃げようと迷っている様子の小物が目に入った。
AI≪アナンシ≫
(そういえばこいつもいたんだな。もともとはダグラス議長のものだったがいつの間にか
俺やあいつにパシらされーー)
そこで閃いた。
こいつの今の雇い主の存在を
そう、≪アラクネ≫だ。
今、何らかの足止めか、障害があって現れていないが≪プロミネンス≫と≪アラクネ≫が
敵対しているのは明白。
だって、俺とキリルを使って彼の計画を邪魔したわけだしな。
どこまでの力になるか知らないが普通のAIではないのも明らかだった。
俺は弱い。
戦闘経験は圧倒的に足りない。
≪プロミネンス≫は強敵だ。
俺が直接相対するより、あいつの敵をぶつければあるいはーーー
と思った俺は即座に作戦を立てた。
AI≪アナンシ≫を捕まえて早速≪アラクネ≫と連絡を取ろうとしたが、予測通り出来なかった。
なんらかの障壁があるのは間違いない。
多分、攻撃が当たらなかったのと同じ原理だ。
ここで万策尽きたかって?
とんでもない。
俺は本来、兵士じゃなく整備士。
技術屋としては如何にして攻撃を通すかなどよりも、どうすれば通信が回復するとか、新しいデバイスを作ったりするのが断然たやすい。
ちょうど、≪アラクネ≫との通信係だったやつもあったし。
『ちょーーーーちょっと何するんですか??!!』
自称賢者が抗議するが無視だ。
時空間拡張に猫型ドローンの≪アナンシ≫を連れて行っては即座に分解・吸収して新しい通信機を作った。
外見は最悪だが仕方ない。
それはそうとして
外では通信がだめでも時空間拡張の中だと逆に障害がなくて行けるかも。
思い付きで試してみた。
≪アナンシ≫を経由して≪アラクネ≫へのコンタクトは簡単に成功した。
俺の推測通り、≪アラクネ≫は時空間拡張の中からの呼び出しにも
答えてくれた。
そして事情を説明したら嬉々として付いて来てくれたわけだ。
(さて、後はどうなるかな?)
奥の手があるのはあるがまだ未完成だし、温存したい。
俺はとりあえず≪アラクネ≫と≪プロミネンス≫の様子を見ることにした。
◆◆◆
『あなたは≪プロミネンス≫と名乗っていましたよね?
こんなバカげた騒ぎはいけませんよ。あなたの同族の方々もお怒りの様子でしたよ』
「黙れ、この化け物が!
貴様が素直に私の要求をのんでくれたらこんなことにはならなかったはずだ。
今さらーのこのこと!!」
『変異特異点を含めて【力】の使用は元老院の許可がいるんでしょう?
許可取ってませんよね?
それに聖女ミルシア様をさらって何されるおつもりで?』
まるで子供を叱るような態度の彼女に≪プロミネンス≫が切れた。
「ふん、ふざけやがって!! 貴様にわたしの攻撃が通じないのはご自慢の時空間拡張の力があってこそのこと。
この聖女の時空間拡張能力を私のナノマシンで強化してお互いを中和すればーーー」
『私の防壁を破り、メインフレームを手に入れられるとでも?』
「今にわかることだ!!!!!」
「ミルシアさん!」
≪プロミネンス≫は躊躇なくナノマシンをミルシアの首に注入した。
「うぐっつーー!」
苦痛に歪んでゆくミルシアの顔。
「くそ、≪アラクネ≫! お前、自信満々について来るから≪プロミネンス≫なんか一発で片付けてくれるかと思ったが違うのか? ミルシアを救ってくれるんじゃなかったのか?」
「大変、ミルシアさんが…」
俺とキリルは動揺を隠せずにいた。
『え? 私は≪プロミネンス≫様と話し合うために来たのであって彼を殺すために来たのではありまえんよ。 しかも、既に首に突きつけてる状態で無事に救えるわけないじゃないですか』
うわ、援軍だと思って呼んできたのに大失敗だ。
まずはキリルの安全確保だ。
急いで≪プロミネンス≫から遠ざける。
「キリル!、こっちに!!」
「シュン、ミルシアさんが…。
あ、あなたの身体が……」
しまった。
忘れていたが体はまだ修復が終わってない。相当グロテスクな外見になっているのだった。
びっくりさせたかな。
「ごめん、まだ直してないんだ」
慌てて顔と体を右手で隠そうとした。
「その手…!」
今の俺の右手は≪アナンシ≫のドローンボディーを吸収して作った簡易の通信機
つまり見るにも無残な機械の義手だ。
身体の神経に直通させる必要があって仕方がなかったとはいえ、猫型ドローンの体が
材料だったのでかなり歪な形だ。
「……」
「うあああああああーーーーー」
ミルシアが呻き声を上げながら何かの存在に変化していった。
ナノマシンがエネルギーと熱量の影響で様々な光を撒き散らす。
それを≪アラクネ≫と≪プロミネンス≫は見守っている。
しかし、キリルはそんな光景よりも何故か俺をじっと見つめていた。
「こんなに無理して…
私がミルシアさんを助けるって言ったばかりにーーー」
「いや、違う違う。
これは俺がへましたからだよ。 キリルのせいじゃない」
キリルは俺の右手を自分の頬に持っていってはぽろぽろと涙を流した。
「私のせいで………。ごめんなさい」
何故だろう。自分の体がここまでめちゃくちゃになったのは確かにキリルのせいもあった。
戦闘は怖かったし痛かった。
しかし、そんなことなどよりも今目の前で涙を流すキリルの顔を見てる方が胸が締め付けられる。
なんとかしなくちゃ、そう思った時だった。
「これはどういうことだ?」
『何を驚いてるんでしょうか』
「わたしの構築したナノマシンが効かない!? あり得ないことだ」
≪プロミネンス≫は床に倒れていているミルシアを見ながら叫んでいた。
「≪アラクネ≫!!、これも貴様の仕業か? 貴様どこまで私を愚弄すれば!!!
この化け物がーーーー」
俺を攻撃した光線が現れる。
今回は一本だけじゃなく彼の周囲を埋め尽くすくらいの無数の線が一気に形成される。
「あれはやばい、隠れるぞ」
『ああ、もう煩いわね』
次の瞬間、≪プロミネンス≫の周囲には何も残っていなかった。
無数に浮かんでいた光線が一気に消滅した。
そう
彼の体の左半分までも。




