使徒≪アラクネ≫
◆◆◆
「まず、≪アラクネ≫についてどこまで知っているかを教えろ」
≪プロミネンス≫は自分がどこから説明すればいいか確認したいらしい。
キリルは作戦の第一段階がクリア出来たことに内心ほっとした。
しかし、それを≪プロミネンス≫に気取らせてはならない。
(今が正念場だわ。 上手く情報を引き出しながらシュンが戻る時間を稼がないといけない)
そう、シュンはまだ、生きている。
(確かに変だっよね。 あんな酷い状態なのにあまり痛がってなかったし……
それより、今は話をうまく引き伸ばさないといけない)
隣のミルシアを見る
緊張しているのが明らかで、上手く話せそうにない。
やはり私がーーと思ったが最初に言い出したのはミルシアだった。
「≪アラクネ≫様は我が≪オライオン≫教団に多大な支援をしてくださってます」
「ほう? その言い方だと随分と≪アラクネ≫についてよく知っているようだな。
聖女ミルシア」
「ミルシアさん?」
しかし、それ以上は語ろうとしない。
「≪アラクネ≫は統括AIのなかで最高位の地位を持つ凄い存在だとは聞きました。
しかし、教団を支援? ≪アラクネ≫はAIですよ?
人の指示がないと独断では動けないはず……」
「それはーー」
「単なるAIならそうだろう」
「≪アラクネ≫は普通のAIではないと?」
「普通のAIなどに、ここまで苦労して手に入れようとするわけがないだろう」
(たしかにそれはそうだ。また、普通ではない証拠は色々あった)
「以前、貴方だちが怪物を連れて襲撃した時、変だと思ったことがあるんです」
キリルは以前のテロ事件で時空間拡張された領域に囚われたことを思い出す。
「その時、普通空間とは完全に隔離され艦内のAIやドローンは殆どが機能を停止していた。
しかし、≪アラクネ≫だけは動いていた」
「ふん、よい指摘だ。
お前らが時空間拡張と呼ぶ領域の中ではこの水晶、マーカーがないと自らの意志では動けないし、時間が止まってしまう。ただし、変異因子を持つ者とその周辺で影響を受けた者だけは動ける。
これは生物だけに限られる。 生物は己の自己主観で時間を認識して存在しようとする意志があるからな。その【意思】こそが重要なんだ。
意思をもつものは時空間拡張領域の特異点にいる限り時間凍結からの逃げられる」
「つまり、≪アラクネ≫は自分の意思を持つAIだと?」
一変ちゃんとした説明のように聞こえて実はそうでもない。自分の意思を持つAIなど歴史上、それは数えきれないくらい存在した。自分の手で完ぺきなAIを作りたい、人間のように考えて動く、さらには人間よりも優秀な存在にーーーと願った科学者は捨てる程いた。
その創作品の中には歴史に名を遺す、稀代の殺人鬼、
戦争英雄、人間の体を手にして何千年も生きると言われる都市伝説のような存在まで
探せ結構多い。
しかし、それは過去の話だ。
危険なためにちゃんと規制で自意識など持たないようになったのだ。
明確な線引き。
一人では何も出来ない鉄の制約がだ。
この制約だけは現在どんな抜け道も通用しない。文字通り闇の未登録AIならともかく
戦艦や宇宙蜘蛛のような施設管理のAIは絶対自我など持てない。
テロ事件の後、≪アラクネ≫は厳しい検査を受けることになったと聞く。
その検査こそが、ハッキングのような外的要因による損傷を含め、自己更新や成長学習プログラムによる自我などを検知する検査なのだ。
少しでも異常があった場合は即座に廃棄だ。
そのようなシステムになっている。
そして我々はそのシステムをいつからか絶対的な信頼を持って支持していた。
もし、それが狂っていたとしたら?
「≪アラクネ≫が意思を持つAI?
面白い冗談だな。 あれはそんな、なまやさしいものじゃない。
これでわかった。
おまえらは≪アラクネ≫について何もわかっていない」
「ーーっ」
考えるだけでも恐ろしい。
AIは単なる狂人の気まぐれで事件を起こすくらいの脅威とは比べられない
力を持っている。メインプレームのAIなら言うまでもない。
前から兆候はあった。
テロ事件の時の≪アラクネ≫はいつもタイミングが良すぎた。
自分では機能不全を起こしていると主張していたが、今思うそれも怪しい。
いつも何かを狙ったかのようなタイミングで私とシュンに何かを指示していた。
そもそも、他のAIやドローンらは全滅なのに≪アラクネ≫だけは無事だった。
何故?
「あ、≪アラクネ≫様はおっしゃいました。自分は神の使いだと!! 」
突然大声を出したミルシアにキリルはちょっと困惑した。
「ミルシアさん? え? 神?」
「ふふふ、やはりか。
お前の変異能力が発現したのは≪アラクネ≫の仕業だろう」
「え? どうしてそれを…」
(いや、ミルシアさん、雰囲気から見て私でもそう推測するの難しくないです)
「ちょっと昔の話をしよう」
(謎なことをいうミルシアさんもあれだけど、この人はこのタイミングで昔話?
時間は稼げてラッキーだけど………)
「では我々種族の紹介から始めよう」
説明を始めようとする≪プロミネンス≫は何故かちょっと嬉しそうだった。
(ああ、≪アラクネ≫様よ。
我々を困難からお救いください。どうかお願いします。)
(この男、案外説明好きかも)
◆◆◆
俺は再びミルシアのアイテムボックスの中にいる。
渋川シュン、まだ生きている。
何、確かに死んだのは事実だ。
外のボディは確実に死んだ。
じゃ、今の俺は?
【ドラゴン】と戦う前に俺は自分自身の改造を図った。
やってみれば何とかなった感じなので詳しい原理は知らない。
しかし、キリルからもらった水晶と生体兵器の知識、そして俺のシステムを利用して物を構築する能力でなんとかなった。
最初こそ、材料が必要だと思って自分の体を分解して材料にしていたが。
すぐ、気が付いた点が二つあった。
一つ、俺がやろうとする戦闘能力の向上には自分の体を改造するよりも、新しい体を一から作った方がより速いという点。
一つ、何故か質量やエネルギーの保存法則を無視して大質量の物質生成が可能になっていた点だ。
何時、時空間拡張が終わるか、不安だった俺は自信の体の改造を途中でやめた。
そして、新しいボディをゼロから作り出した。
作るのはいいとして操縦はどうするか悩んだが、試してみた案外簡単に体の乗り移しが出来てしまった。
自分の体が二つになってしまった瞬間の感覚はなんとも言えない変な感じだった。




