命の選択
その場の全員が固まった。
この場面で仲間の誘いだと?
「ちょ、ちょっと待ってください。話がうまく理解できません。
私たちを仲間にしてなんの得があるんですか?
それに以前お会いした時には全然……」
確かに前回あった時はほぼ無視に近い感じだった。
「正直、以前は利用価値が無かった。
しかし、聖女の能力を使えば話は変わる」
「え? 私?」
部屋の隅に隠れているミルシアにも聞こえたようだ。
(ミルシアの能力を使う? 時空間拡張能力が目当てか?)
「……私たちが従わない場合は?」
「なんのためにその男と遊んでやったと思う? ここで全員死にたいか?」
「ま、、まって! 戦いはもう、うんざりです!!」
「ミルシアさん、落ち着いてください。
シュン、今は彼に従いましょう」
「……」
キリルは満身創痍の俺に近づき体の損傷を確認してくれた。
こんな状況なのに落ち着いてらっしゃる。俺すらさっきの戦いで我を忘れかけたのに…。
やはり、キリルは凄いーー
と思った俺は馬鹿だった。
ミルシアを落ち着かせて≪プロミネンス≫との交渉に臨もうとするキリル
近くで見たら酷く震えていて、それを必死に隠そうとしている女のこだった。
無理もない。
彼女をなんだと思っていたんだ。
冷静で度胸のある女戦士とでも?、自分が恥ずかしくて死にたい気分だ。
さっき俺の前に立ち≪プロミネンス≫の攻撃を防いだ時、≪プロミネンス≫が攻撃を止める保証などなかった。
化け物になった俺でも深刻なダメージを負う攻撃、生身の人間なら一撃で体が真っ二つだ。
しかし、キリルはその前に立って見せた。
確かに俺は強さを求めていた。
戦いに勝てる強力な力を求め、自分勝手に暴れまわった挙句、
戦いに負け、知らない内にすべてを諦めていた。
しかし、まだ全部終わってなんかいなかった。
まだ、俺とキリルは生きていて、彼女は今も戦っていたのだ。
ルーソ・ベルシカよりも
【ドラゴン】よりも
俺よりも
≪プロミネンス≫よりも
確かに弱いのに
自分自身も守れないというのに
人を助けるためには諦めない
それこそがキリルだった。
◆◆◆
「本当にすみませんが、仲間と相談させてください。
ミルシアさんも動揺しています」
「今の君らに選択の余地があるとでも?」
「すこしだけでいいんです」
「ーー3分だけ与える。 逃げようとすれば即座に殺す」
≪プロミネンス≫は面倒くさいとばかりに言い捨てると
離れた場所で何かの映像パネルを広げて手を動かし始めた。
私たちは身動きが取れない俺の周囲に集まった。
「話を聞いてくれる方でよかった」
少しだけほっとした顔のキリルにミルシアが寄って来た。
「キリルさん、私たち、これからどうなるんでしょう!?」
ミルシアは誘いを受けるしかないと考えたらしく泣きそうな顔だった。
「時間がないから、早く決めましょう
まず、私は彼、≪プロミネンス≫に従うのは反対です」
「??? え? まずは仲間にならないと…殺されるかも知らないよ」
「……俺も同感だ。 あ、これはキリルに同感という意味だ」
「あなた、そんな状態でよく平気でいられるわね、戦っても勝てないのはあなたが一番身をもって知ってるじゃない?」
「私だちは彼の仲間を殺した。
しかし、彼はそれになんの興味もないみたいです。 それに前回のテロ事件の被害者たちを考えると彼と組んでも結局殺されるでしょう」
確かにその通りだ。
そして理由はもう一つある。
「俺も反対だ。理由は色々あるが今は時間がない。でどうしたい?」
俺を見るキリルの目にちょっと力が戻った気がする。
「シュン、そんな体のあなたに聞くのは酷な話だけど。
誘いに乗らずに逃げ切る方法はないかな?」
「え? あんな怖い人の誘い断ったらすぐ殺されるんじゃ!!!
まずは生き残ることです。 ね?」
「多分、あいつに大事なのは貴方一人だ。俺たちは殺す確率が高い。
そしてあいつこそ、今何かを企んでいる」
「え?」
「それ、本当?」
俺も大分回復出来たし
キリルのあの言葉を聞いたら頭がすっきりした。
俺が何故強くなろうとしたか思い出したのだ。
(俺ってやつはどこまで馬鹿なんだ。 敵を倒すために力が必要だったんじゃない。
彼女を守るためだった)
「作戦はある。
まず、ミルシアさんから俺の指示とおりにーー」
◆◆◆
「時間だ、返答を聞こう」
律儀に時間通り待ってくれた≪プロミネンス≫
案外、悪い物じゃないのかも…。
「……」
「無言か?
やはり、何かを企んでいるだろうな」
それくらい予想済みとばかりに手を動かす。
「ズーーーーーーバーーーーッツ」
彼の視線と手も動きの沿って例の光線攻撃が放たれる。
そしてそれは横になっていた俺の頭部を正確に破壊した。
「そんな!!」
「シュン!!」
「まあ、これくらいじゃ死なないんだっけ?」
「ズードドドドドーーーーーーーン」
次の数十発の攻撃は俺の体を完全に蜂の巣にしていた。
「これで死んだのでしょう。 最初から彼だけは殺すつもりでした
貴方たちへの見せしめとしてね。
さあ、無駄な抵抗はやめて」
「何も殺すことはないでしょう!!」
「……」
「あ、それと私の指示に従ってもらうには、まずこのナノマシンを体に注入して貰う」
「え?、仲間にしてくれるって…」
「私の≪アラクネ≫掌握を手伝う途中で貴方たちが裏切らない保証が欲しいだけだ。
なに、全然大したものではない。
ただ、臨時で作ったもので痛覚を刺激する機能がちょっと不安定だ。
私の命令を聞かなかったら死んだ方がマシだと思うくらいの苦痛を味わう仕組みだが
下手すると本当に死んでしまう」
手に取って見せるのは何かの虫のように蠢く小型のドーロンだった。
(やはり、シュンのいう通りだった)
「まってください」
「何かね? ナノマシンの注入を拒めば君にも死んでもらうしかない」
「私にあなたと戦う力などありません。
逃げることも出来ません。
ただ、すこしだけ話を…。
一体、この計画の目的は、≪アラクネ≫とはいったい何なのか教えてください!!!!」
「き、キリルさん」
「……ふん、よかろう。
どうせ仕事をしてもらうためには敵の正体を正しく知る必要があるしな」
◆◆◆
(上手くいった。 さあ、時間はあまりない。早く作戦通りあれを作らないと…)
俺、渋川シュン
まだ死んでなどいなかった。
問題です。主人公は何故死んでいないのでしょうか?
次の話でご説明致します。
ヒントは主人公は臆病でずるいということです。
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