賭け
キリルは傭兵ルーソ・ベルシカの提案した賭けに乗ることにしたらしい。
震える左手で必死にナイフを抜こうと力み始めた。
苦痛に耐えながら
必死に声を殺してだ。
くそ、もう見ていられない。
俺は今まで何をやっていた。
何をして来たんだ。
あのこを守りたかったんじゃないのか?
軍とか【ドラゴン】と敵対して来たのはなんのためだ。
彼女があれだけ苦しんでいるのに………
くそくそ!!! 頼むから動いてくれ 俺の体。
その時だった。
隣の聖女が自分の能力は超空間拡張だと暴露したのを聞いた。
(!!! もしかすると。これは使えるかも知れない。
最後の賭けになるけどこのまま殺されるよりはましだ)
俺は急いでそして死ぬ気で聖女に声をかけた。
「ちょーーちょっと俺の話を聞いてくれ!!」
◆◆◆
「ーーーーーーーーーーーーうううああっーーーふーーーああっつ」
キリルは手のナイフを抜くために一所懸命に頑張っていた。
想像を絶する痛みが全身を駆け巡る。
体中で汗が噴き出ては手の傷から出たちと混ざりぽたぽたと落ちる。
かなりの時間をかけてやっとナイフを抜いた時にはもう傷口があまり痛くなかった。
「へえー根性あるわね。 薄々気が付いているかもだけどさ。
あんたもうその手は一生使えないわ。
だって無理やり動かして神経がぐちゃぐちゃになってるんだもの」
「……多分そうだと思った」
「あら、驚かないわね。詰まんないわ。
じゃ私が約束守らないってことも予測できたんでしょうね」
「……多分絶対そうすると思った」
「え? ほんとに!?
じゃ、なんであんな痛い思いしてナイフ抜いたわけ? あんたもしかしてマゾ?」
「……わたしはね」
気力すらもほぼないよでそのままへたり込むキリル。
「あなたがいういい人間でも高潔な人間でもなんでもない。
別に肝がすわってるとかもよくわからないし……多分違うと思う。
私は弱いから、だって一人では何も上手くやれない」
ルーソ・ベルシカさえも呆れたのかずっと聞くだけになっていた。
「わたし、キリル・タシュケントは弱虫で口下手な普通の女よ
絶対貴方に勝てない。 しかしね
じかんを稼ぐことは出来た。
私が信頼する人が作戦を立てる時間を…ね」
そこでだ
俺はキリル力の限り叫んだ。
「キリル!!!、その水晶を俺に投げろ!!!」
キリルは思いっきり水晶を投げたつもりだったが右手が使えないし
体に力がうまく入らないのか変な方向へと飛んでいってしまった。
しかし、もし正確に投げたとしてもルーソ・ベルシカによって横取りされたに違いない。
「水晶を投げろだと? 今さら死にぞこないが大人しく寝てればいい物を」
あさっての方向に転がっていく水晶。
満身創痍の俺にそれを取りに行くととなど出来なかった。
その時
『貸一つですよ!』
いきなり現れた猫の姿の≪アナンシ≫が敏捷に動き出してはキャッチ。
俺に届けてくれた。
「たのむ」
「はい、時空間拡張」
俺は手にした水晶と共にミルシアが開いた時空間拡張に入った。
「なーーー!!!???」
「ほ、本当に入ったーー」
「シュン!」
◆◆◆
超空間拡張
未知の異能で作られた空間。
その領域の中では時間の経過が止まる。
ただし、この水晶があれば話は別だ。
明らかに力を大分失いかけているが、まだ使えてよかった。
これがあれば俺は超空間拡張の影響を受けない。
つまり、外の一瞬でもここでは何日でも何年にもなる。
しかし、前回もいきなり外に出されたので実際どれくらい持つか分からない。
今すべきことはそとのあの女を倒すことだ。
策はある。
あるのはあるが、あまりにも危険だし時間が掛かり過ぎるので試せなかった。
けど、もう選択の余地などない。
キリルが右手を犠牲にして作ってくれたチャンスだ。
絶対に生かす。
あんなにボロボロになりながらも俺を最後まで信じてくれた。
あんなの見てしまったら仕方がない。
助ける。
いや、絶対助ける。
死んでも助ける。
さあ、始めよう。
整備士の本領発揮だ。
対象の仕組みを理解して機能を維持、拡張、削除、改変する。
ただし、今回は周辺のシステムとか壊れたドローンの修理なんかが対象ではない。
対象は俺の命
材料は俺の肉体
設計図は俺の全記憶と意思、すなわち魂だ。
俺自身という人間のシステムを全部ぶっ壊して作り直す作業になる。
彼女を救うためだ。
怪物になることなど些細なことだ。
◆◆◆
「超空間拡張だと?
前回の妨害はあんたの仕業かい!?
おい、答えろ!! まさか、あんた変異特異点も作れるのか?」
ミルシアに近寄り頭に銃を突きつけるルーソ・ベルシカはシュンの行方よりも
聖女の能力に驚いたみたいだった。
「し、知らないわ
私はこの能力を使えるようになったのはつい最近なのよ。
あなたが何を言っているのかわからないわ」
「惚けるなよ、今すぐに頭に風穴開けてあげようか? あん?」
「変異特異点……」
キリルも聞き覚えのある単語だった。
それより、シュンは何故超空間拡張の中に入ってのだろう?
中に入ったら時間が…、そうだ中でもあの水晶があれば時間が止まらずに動く。
それを利用する気だわ!!
「ふん、小癪な手ばがり考えて。
まあ、いいわ。聖女さん死にたくなければ今すぐ超空間拡張に入った男を出しなさい。 あんたが作った領域だから自由にコントロール出来るでしょう?
すぐやりなさい。 じゃないと」
こんどはキリルの頭に銃口を向ける。
「わかったわ。だから撃たないで」
今すぐ超空間拡張を解除したらシュンは元の空間に戻ってしまう。
問題は中でどれくらい時間が経過したかだ。
それについてはこの場の誰も検討が付かない。
脅迫でミルシアは仕方なく超空間拡張を解除しようとした。
しかし、超空間拡張の扉が閉ざされるよりも早く
中から手が出て来た。
続いて頭、体が現れる。
「え? シュンなの?」
キリルもそう聞くしかなかった。
完全に閉ざされた超空間拡張の扉の前には一人の男がしゃがんでいる。
だが、その形状は人間の物ではなかった。
全身は外骨格で覆われていて、角や尻尾まである。
不自然に長い両腕は成人の腰回りくらい太く、目には爬虫類のような縦線が入った赤い瞳孔が。
人じゃない。
どっちかというと
あの生物に似ていた。
そう【ドラゴン】だ。
割れたガラス瓶を片付けする途中で指を切ってしまいました。
少しの間、更新が出来なくなってしまいます。
本当に申し訳ございません。




