役者集合
ミルシア・アリアドネは誰がの悲鳴で目が覚めた。
周りを見ると仄暗い室内。
自分は確かに軍との交渉のために教団本部の正門前にいたはずなのに…。
思い出した。
いきなり現れた怪物と軍が戦う最中、いつのまにか見知らぬ男が隣に立っていたことを。
そして、体に軽いショックが走るとそのまま気を失った。
最後に男がー軽いスタン効果だがら安心していいーと呟いたことを思い出した。
確かに体に異常はなかった。
(わたし、彼にたすけてもらったの?)
彼女はすこしだけ安心した。
しかし、ミルシアのそんな安心感は目の前の光景を見た瞬間、即座に消えることになる。
「あら、お姫様も目を覚ましたのね」
微笑みかける綺麗な女性。
誰?知らない。
女性は片腕がない男の肩に刺さっていたナイフを引き抜いた。
そして、ひょいっと持ち上げてはミルシアの前に放り投げた。
「ひーひいーーーっ」
「そんな驚かなくてもいいじゃない?
まあ、ちょうどいいわ。
そろそろ、その男にも飽きたとこだったの。やり過ぎると壊しちゃうし。
ちょっと休憩兼ねてお喋りしましょうね」
ミルシアは背筋が凍るのを感じた。
教団の活動の中で本当の犯罪者、問題児など色んなタイプの人間を見て来たつもりだが
彼女のような人は初めてだった。
直観的にわかる。
この女は本物だ。
「今回の私の任務は聖女のアンタとアノルド准将の身柄の確保なの。
アノルド准将は≪アラクネ≫攻略のために必要でーーー
あんたは」
ルーソ・ベルシカはミルシアを正面からまっすぐ見ながら言った。
「変異能力者だよね? どんな力なのか教えてくれない?」
「!!?……どうしてそれを?」
◆◆◆
散々切り刻まれたあげく、床に投げられた俺はすでに虫の息だ。
立つ気力も残っていない。
辛うじて意識があるくらいで、下手するとこのまま死ぬだろう。
ルーソ・ベルシカが聖女と話す内容が聞こえる。
(聖女が変異能力者だと?)
「あなたが何故それを知っているのかは知りませんが、これは気軽に人に見せてはーー」
「御託はいいんだよ!!!!!!!」
「くーーわっ、ひっくーーーーっ」
容赦なく素早いパンチが放たれた。女性相手なのに容赦などない。
腹部にもろにくらった聖女はそのまま膝から崩れ落ちた。
「まあ、あまり喚かないのね!
凄いわ。 アンタは殺すわけにはいかないしね。
じゃ、こういうのはどう?あんたが素直に話さないと彼を殺すよ」
「まーまって、まってください。
わー私、彼は知らない。全然関係ない人です」
「関係がないのに軍との戦いのど真ん中に乱入してあんたを助ける?」
「う…」
「私は気が短いわよ」
ルーソ・ベルシカは銃を俺の頭に突きつける
聖女ミルシアは戸惑っていた。
その時だった。
「バーーン ババーーン」
3発の銃声が聞こえた。
一発ははずれ2発はルーソ・ベルシカ背中に命中した。
よろめく彼女の顔は笑っていた。
「あらら、せっかちなお嬢ちゃんね。今は聖女さんの芸を見せてもらう番なのに」
軍用の狙撃ライフルで撃たれたのに少しも応える様子がない。
ライフルを撃ったのはキリル・タシュケント
俺が今一番この場に来てほしくない人だった。
正直言うと、死ぬ前にまた会えたことだけはすごく嬉しい。
しかし到底彼女がルーソ・ベルシカに勝てるとは思えない。
「キリル!!!」
「キリルさん?」
ミルシアも逃がしたはずのキリルが現れたことに驚いていた。
「シュン!!! 大丈夫??」
「馬鹿!! すぐ逃げろ!!」
「これで全員集合かな!!
いいよ、探しに行かなくて済むしお姉さん感激したよ。
特にあんたには借りがあるしね
ね、パワードスーツはどうしなのよ?」
キリルは狭い換気用の配管から這い出て現れた。
パワードスーツはおろか、貧弱なライフルとナイフが武装の全部だった。
しかもライフルでは彼女のボディアーマを貫通出来ない。
「ないわ」
「あはははははあ! 何それ?
前回も私が油断しなければあんたはミンチ状態で棺桶に入ってるわよ。
それを今度は生身で私とやるっていうの?」
「待って、取引しよ!!
これをあげる」
キリルが持ち出したのは
リチャード管理局長の脊髄が入ったガラス瓶と
エネルギーの水晶だった。
二つともルーソ・ベルシカから奪ったものだ。
「ほう、それ全部私のじゃん? 取引のつもり?
まあ、聞くだけ聞くよ。 条件は?」
明らかに不機嫌なルーソ・ベルシカ。
「私たちを見逃して」
「ププーー、そんなの無理です。 それは、もともと私のものだし。
私にもっといい考えがあるよ。あんたを殺して奪う!!! どう?」
「そんなことしたら、この二つをここで破壊する」
「もし、それらを破壊すればあんたの命もないわ。
壊したければ壊せばいいよ。
その代わりにこの二人を殺すだけだから。
姿を見せた以上、あんたはもう逃げられない」
「………うっ」
交渉など最初から成立しなかった。
何しろ、圧倒的な力と経験の差がある。
ルーソ・ベルシカはすぐさまキリルに飛び掛かった。
「逃げれば助かったかも知れないのに、あんたはのこのこと!!!!」
「ーーーっつ」
ナイフは避けたが後続のキックが当たり、勢いよく飛ばされてしまった。
くっそ、あれはわざとだ。
わざと、一撃で終わりにしないでもて遊んでいる
つくづく悪趣味な女だ。
キリルは必死に回避しようと頑張りながらライフルで反撃しようとする。
「無駄よ、ほら」
「!!!!!」
キリルの手を握ったライフルのプレームごと貫通して壁に刺さったナイフ。
骨を貫通して壁深く刺さったナイフを無理やり抜こうとすれば多分手がぼろ雑巾みたいになるしかない。
苦痛が相当酷いらしく声を殺して喚くキリル
(もういい、いいからそれ以上はむりするな!!!)
でもキリルの目に浮かぶ闘志は消えていなかった。
「世間知らずのお嬢ちゃんかと思ったら意外と肝がすわってるじゃない?
ね、なんなの? あんたにこの男と聖女ミルシアって何?
なんでそんな必死なわけ?」
「わたしはその二人に助けて貰ったわ。それを返すだけ……」
「え?、それだけなの?
恋人とか昔からの知り合いとかじゃなく?」
「あったのはつい最近よ」
「あら、そう? ふん」
納得したように頷くが目は全然笑っていない。
「あんた、よく騙されるタイプでしょう?
馬鹿でしょう? 素性もよく知らないでちょっと恩があるってだけで
命捨てに来たわけ? しかも私に喧嘩売ってまでよ」
「………………」
「あんたみたいないい子ちゃんぶってる人間なんて大嫌い。
わたしは高潔で、恩は必ず返す、良い人間だから?
ふん、ほんとに反吐が出るわ。 そんなの自己満足で自滅するだけなのにーーー
まあ、いいわ 一つ試すわ。あんたが賭けに勝ったら今回は私これ以上手を出さないと約束する」
「…………本当よね」
「傭兵ルーソ・ベルシカの名に懸けて!!」
(絶対嘘だ。乗るなキリル)
「簡単よ。その手に刺さったナイフ抜いて見て
ものすごーーく痛いと思うけど二人を助けるために命かけてるあなたなら出来るよね?」
「わ、わかった」
キリルはルーソ・ベルシカの賭けに乗ることにした。
でも俺にはわかる。そのナイフは神経を貫いているためいま無理やり動かすと
凄まじい激痛が伴う。また、多分一生損傷した神経は治らない。
(くそ、こんな時に俺は何をしている!! 動け!! 頼むから動いてくれ俺の体)
焦っているのは俺だけではなかった。
顔色が真っ白になったミルシアが呟く。
「ど、どうしたらいいの、私が持ってる能力、時空間拡張なんて、こんな時になんの役にも立たない」
(い、いまなんて言った? 時空間拡張だと?)




