蜘蛛の風景
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キリルがいるらしい、≪オライオン≫は
かなりの歴史を持つ宗教団体で、最初は様々な団体の寄せ集めだったらしい。
そしていつしかそれぞれの隔たりがなくなり、助け合う内に今の形になったとか。
古い歴史の分、謎になってる部分も多い。
現在教団の位置は居住区でにしては人の出入りがあまりない場所だ。
面積こそ凄いが、周辺の環境システムや構造物が老朽化し過ぎて危険なため
半ば放棄に近い感じで使用を認められている。
辛うじて大衆交通で行けるけし、人もまだ結構住んでいたりするが
まともな市民は近寄らない場所になっていた。
つまりそこでどんな戦争をやらかそうが一般市民にはあまり被害がない。
今、俺が乗っている高速電車の折り返し時点にもなっている。
ふと窓の外をみた。
高速電車の窓には郊外ののどかな風景が映っていた。
勿論、いくら宇宙蜘蛛の中が広くとも、外がこんな風景画のように
自然豊かなわけはない。
実際の風景は殺風景な機械の配管やら、灰色のブロック型ビルばかりだ。
昔はそのままの風景を映したが、ある時からそれはなくなった。
ずっと眺めてる内に心が廃るからだ。
窓に映る景色は市民たちの精神安定のための立体映像に変わった。
全幅が40キロメトルにも、およぶ宇宙蜘蛛の中央ブロック
その中には様々は空間、建物、道路、店などが点在している。
ここ、居住区から空のように見える部分も全部立体映像で
その中身は宇宙蜘蛛を動かす動力室や研究施設で埋め尽くされている。
実際はそらの空いてる部分など殆どなかった。
密閉した空間というのは人間に相当な重圧感を与える。
それを少しでも減らすための苦し紛れの方策だった。
いわば、狭苦しい独房の囚人が天井にペンキで青い空を描いたようなものだ。
この蜘蛛の中はどこもかしこも、こんな感じだ。
紛い物の自由と希望で満ちている。
以前はそれでもかなり満足していた。
今日の空の立体映像は綺麗だなとか、明日の社員食堂の人工豚肉は
普段よりもいいやつが使われていたなとか
些細なことが嬉しかった。
いや、あまり他に夢もなかったからか?
事実、この蜘蛛のなかの住人の殆どが現実にはさほど期待してないだろう。
市民の心理治療のための仮想現実とか老若男女が愛用している。
俺もやっていた。
しかし、今はやめた。
何故かシステムの力を勝手に使えるようになった今はわかってしまった。
その仮想現実プログラムにはある催眠暗示が含まれていた。
軽い、依存性と記憶への干渉。
事情を知ってからは吐き気がした。
何でもかんでもシステムを弄れる誰かが勝手出来る仕組みになっていた。
はは、これは傑作だ。
このシステムを考案したのが誰かは知れないが凄い。
今まで俺は全然気が付かなかった。
そんな感じで騙されているのが都市のなかに数万人もいる。
ぞっとした。
このまえの≪プロミネンス≫の言葉を思い出した。
割と平和的に≪アラクネ≫を手にしようとしたと。
今ならわかる。
大差ない? 違う。
≪プロミネンス≫がまし? 違う違う。
≪オライオン≫教団を襲撃しようとしてる軍が一番悪い?
それも違う。
俺は逆に嬉しかった。
何故か膨大な力を手にした。
しかし、これからどうすべきか、わからなかった。
いや、何かをやるとして、どこまでやっていいのかが大事だった。
それで、力を持っている他の奴らはどうなんだろうって気になった。
そして、いざ蓋を開けて見るとびっくりするくらい周りが好き放題やっていたのだ。
すこしの良心の呵責も感じさせない完ぺきな黒なのが返って驚きだ。
嬉しくないはずがない。
後10分でキリルがいる≪オライオン≫教団に到着だ。
もはや、俺の心に力の使用に関する躊躇などはない。
まあ、力などと気取った言い方だが、ちょっとシステムを上手く利用出来るようになった整備士
のままなんだけどな。
最後の準備として俺は高速電車のシステムに干渉を開始した。
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ミルシア・エリアドネ
彼女酷く動揺していた。
彼女の目も前にあるのは純白の礼服と黄色の礼服の二着
もしかすると、死ぬかも知れない。
バカバカしいと笑われようともこれは譲れない。
最後のお洋服選びに真剣に悩んていた。
裕福な家庭に生まれた彼女は、上流階級の立派なお嬢様だった。
あまり人を疑わないのが取り柄で可愛いい服を着るのが好きな女の子
それが彼女だった。
しかし、幸せだった家庭も両親の離婚で終わってしまった。
原因はお互いの浮気、しかも数年にも渡ってのことだったし、
隠し子をはじめ共同資産の転売までも発覚。
荒れに荒れた騒動が落ち着いたころ、彼女は人の愛情が信じられない人間になっていた。
成長し、一人になっても多額の資産を持って生活には困らなかった彼女。
優秀で眉目秀麗だが就職する気もなく暇を持て余すばかりだったが
偶然にも≪オライオン≫教団を訪れる。
いつの間にか【聖女】と呼ばれ教団の最高責任者になっていた。
いまになって思うと不思議だ。
私は何故≪オライオン≫教団に来たんでしたっけ?
思い出せない。
普段、レクレーションの一環でやっていた仮想現実プログラムで
中世のRPGのようなものを楽しんでいたことはある。
その影響だったかな?
「ミルシア様、いらっしゃいますか?」
「ええ、あーはい、出ます! ちょっと待ってください」
服選びとかしてる場合じゃない。
最後の交渉がまだ残っている。
話し合いで上手く行く可能性はある。
うん、まだ頑張れる。
ミルシア・エリアドネは慌てて着替えては部屋を出た。
彼女は何故か白の礼服を選んでいた。
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キリルはミルシア・エリアドネから言われた地下通路を走っていた。
しかし
これで本当にいいのだろうか?
胸騒ぎがする。
「ミルシアさんは大丈夫だといっていたけど、多分危ないよね」
このまま逃げていいのかな。
でも、生き残らないと再びシュンに会うことも出来ない。
恩返しも永遠に出来なくなる
自分を匿ってくれた恩人への恩と
危機から何回も助けてくれたシュンへの恩
逃げたいのが本音だ。
けど、胸の奥底から何かの声が聞こえる。
(まだ、わたしにはやれることかある)
心を決めてキリルがミルシアの所に戻ろうとした瞬間。
物音がした。
(!! これはパワードスーツの歩行音だわ)
咄嗟に隠れるキリル
「そこにいるのはわかっている、大人しく出てこい。
この地下通路も
すでに軍で封鎖済みだ。のこのこと出てきやがって」
やはり、センサーに引っ掛かったらしい。
通路には武装した兵が2人銃口を向けていた。
「おい!、早く出ろ」
「俺らはこのまま、撃っちゃってもいいんだぜ?」
キリルはミルシアのことを心配する所ではなくなってしまった。




