囚われの姫
≪アナンシ≫渡されたメモリーデバイス、中身はキリルの映像だった。
彼女は俺を置いて逃げたことを謝罪していた。
多分、私を巻き込まないためだろうな。
とても申し訳なさそうな、その表情には不安が滲んでいた。
今は≪アラクネ≫の提案である場所に身を潜めているらしい。
盗聴や監視を恐れてこんな連絡のやり取りになったのは
わかるが、出来れば直接会って話がしたかったのに残念だ。
その≪アラクネ≫がどこまで信用出来るかが問題だけどね。
『あ、やばい、これ超まずいよ なんでいきなり…』
≪アナンシ≫が突然騒ぎ始めた。
「どうした?」
『はあ、これを見てくださいよ』
≪アナンシ≫は生放送中のテレビ放送画面を見せてくれた。
いま、続報で編成された番組らしく、
『先ほど、宇宙軍の正式な声明発表が出ました。
現在、この都市の中に本部がある、宗教団体≪オライオン≫
宇宙軍の調査によると、この≪オライオン≫の実態はテロ組織で
今回の大規模テロも≪オライオン≫の犯行で間違いないとのことです。
えっと、只今緊急宣言が出されました!
ことの重大性と追加のテロ可能性を考慮し、強制制圧を開始するらしいです。
すでに、十分な物的、人的証拠が確保された模様でーーーーーー』
アナウンサーは軍の強制制圧決定の内容を繰り返し伝えていた。
路地裏から出ると、町の至る場所で同じ内容が延々と繰り返し放送されていた。
いつのまにか俺の肩にのった≪アナンシ≫が呟く。
『まずいですよ。あそこなんですよね』
「まさか」
『彼女が隠れている所なんですよ』
中央通りの大型画面には生放送で現場の状況が映されていた。
軍人たちが忙しそうに周辺住民の避難とバリケート設置などをやっている
そして、真ん中に古代地球ヨロッパのお城にようなデカい建物が映る。
まさに、一触即発の場面
彼女はそこにいた。
「なんてことだ」
すぐさま≪アラクネ≫に繋いでくれと≪アナンシ≫に頼んだが無理だといわれた。
≪アラクネ≫はいまテロ関係で大規模なシステムチェックを受けているらしい。
人に例えるならドックいりの長期入院検査だ。
勝手に何がをやったら最後、保安維持局やらに知られてしまう。
支援は期待出来ないか
彼女を見捨てて日常に戻るか。
もうすぐ死地となる宗教団体≪オライオン≫本部に向かうか。
今回は俺が決断する番のようだ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆
宇宙軍の陣営は慌ただしかった。
≪オライオン≫本部の前に作られた指揮所には、宇宙蜘蛛の中で武力の面でもっとも
力を有する高位幹部たちが集まっていた。
個人の力の意味ではなく権力の面だ。
まず、保安維持局の副局長である レスカ・グリケーラン
宇宙軍、陸戦部隊所属、都市防衛軍 総司令官のピエトロス大佐
神経質で有名な彼は、後先考えない無慈悲な作戦のせいで幾度となく
査問を受けた問題児であった。軍の内部でも彼の言動には手を焼いていた。
同じく
宇宙軍、機動艦隊所属、宇宙防衛担当のアノルド准将
アノルド少将はこの宇宙蜘蛛だけでなく周辺の空域全体の防衛指揮官。
彼はコロニー内部での作戦よりは艦隊戦こそが花だと信じる軍人で
対テロ戦には興味がなかった。
今日は支援という名目で来たが、実は問題児のピエトロス大佐の監視役だった。
その他にも数多くの情報、戦闘関連の各部署の要人ばかりが集結している。
そして、集まった彼らの間に険悪な雰囲気が漂っていた。
「お望みなら何回でも言ってやりますよ。
軍の集めた情報がどれだけ決定的な物であっても、まず保安維持局で裏を取る必要があります。
テロリスト宣言とか迂闊すぎる!!
しかも、性急にマスコミへの発表とか何を考えているんですか?」
レスカ・グリケーランはまたも抗議の念をつよく示した。
「わたしも、マスコミの件はやりすぎだと思う。
しかし、市民たちが不安がっているのも事実。
今回のテロでの死傷者数が多すぎる。
何かしら保安維持局でテロリストに対する捜査の進展があったなら我々軍が
直接動く必要もなかったでしょうな。
そうだろう、ピエトロス大佐」
アノルド准将はピエトロス大佐とはあまりいい関係ではなかったが
保安維持局との対立なら話は別だ。
軍組織の動きには賛同の意を示す
ピエトロス大佐は答える
「今回の宗教団体≪オライオン≫の制圧は確実な証拠があってこその作戦!
テロリストをこれ以上放っておくわけにはいけないからであります。
証拠は以前から私だちの特別捜査員が集めたデータを≪アラクネ≫が分析して判定を下しました」
「しかし、AIの≪アラクネ≫は現在、徹底的な調査を行ってる最中では?」
「だから、証拠に関する情報の提示は今すぐには出来ない。今は一刻も早くテロリストを叩くのが先決である」
レスカ・グリケーランとしては聞いた言葉を疑いたくなるような暴言だった。
証拠は今はないが後からだす、取り合えず叩くだと?
証拠は後で作り上げるとして『生贄』を作るつもりだろう。
普段犬猿の仲の陸戦隊指揮官と機動艦隊指揮官が仲良く作戦に乗り気なのも怪しい。
不満に満ちたレスカ・グリケーランの抗議を無視しピエトロス大佐は続ける。
「前から宗教団体≪オライオン≫は胡散臭い噂が絶えない所だったのであります。
「特に、聖女などと呼ばれる若い小娘が長になってから特にな」
宗教団体≪オライオン≫は確かに色んな噂があった。
教団の人が奇跡を見たとか、教団の聖女は超常現象を引き起こせるとか。
広い敷地の中に化け物が住んでいるとか。
宇宙蜘蛛誕生に纏わる秘宝が隠されているとか……。
また、宇宙蜘蛛が建設された初期から存在するくらい、古い建物の神殿はまるで
お城のように大きく、広大な敷地はちょっとした治外法権区域のようになっていた。
今回制圧作戦があまり反対なく可決されたのには、外との外交など殆どなく
わが道を行く教団への畏怖から由来したのも大きかった。
大きな災難が起こると基本、被害者だちと異質な集団に矛先が向く。
実際の教団は基本市民の水準に満たない、社会のあぶれ者、訳ありものなどなどの
受け皿であって意外と自由な団体だった。
巨大な犯罪組織にはなってなかったが、教団には犯罪歴がある人は多かった。
今、話に上がった聖女も教団一の有名人であり、犯罪者だった。
もっとも一般的な犯罪よりは、地球の環境政策の批判、過激な政治的扇動みたいな
政治犯的な罪状ばかりで教徒だちは聖女と崇拝していた。
名はミルシア・エリアーデ
僅か、二十歳で群を抜く綺麗な美貌、甘美な話術は信徒らを熱狂させた。
不思議な力を使うと噂されていて、日ごろ宇宙軍の腐敗を批判していた。
軍としてはちょうといい『生贄』である。
「ああ、これは壮観な光景だ」
ピエトロス大佐の目の前には着々と突撃準備を進めてゆく軍用パワードスーツ
通称、≪ミノタウロス≫がずらりと並んでいた。
その数は優に200を終えていた。
2.5メトル級でやや小型だが、装着された兵装は単なる宗教団体を相手するには
大人げないと言われても仕方がないくらい殺伐とした物だった。
煙幕やスタン系の武器も一応もってはいた。
しかし
新型の高性能爆薬を使用した誘導式ミサイルランチャー
電磁加速式マシンガン
高速散弾銃
高出力エネルギ収束ライフル
近接戦闘用の超振動ブレード付きのバトルソード
予備の弾薬なども、きっちり装備していた。
この戦力が投入されるなら前回事件の1000体単位のゴブリンだって
瞬く間にひき肉にされただろう。
「これ本当にテロリスト検挙と調査のための部隊編成ですか?」
「勿論」
教団にこもっている聖女ミルシア・エリアドネ
彼女らの命はもはや風前の灯火だった。




