約束
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人は夢を見る。
そしてそれを実現させようと努力する。
有史以来、数えきれない夢が生まれ育ち
それらは何らかの形で実現され、人類を反映へと導いてきた。
しかし、まだ足りない。
深宇宙探査という遠大な夢を実現させるためには今の科学技術の壁を、
いやそれよりも遥かに強硬で高い現実の壁を粉々に破壊しないといけない。
素晴らしい夢を現実に。
醜い現実を夢に。
それを可能にする。
思うがまま、なんでも出来る
まさに
神のような力が必要だ。
そのためには
何としてもこの宇宙蜘蛛を制圧し、メインプレームを手に入れないといけない。
そろそろ、ゲートが閉じる。
今回の計画はここまでのようだ。
さあ、最後にこの事態を招いた犯人たちの顔を拝みに行くとしよう。
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パワードスーツのハッチをあける前に、俺とキリルは一つの目標を決めていた。
ルーソ・ベルシカを尋問してゲートの情報を聞き出したら、確認のために
大型シェルターに一旦戻ることにしたのだ。
全員死亡している可能性もあるが、その逆の可能性もゼロとは言えない。
ナイブス航海士など知ったことじゃないが、出発する際にこっそりと色々融通してくれた
ロウファン軍曹などは正直助けたい。
そして、パワードスーツのハッチをあけて出ようとした瞬間。
床に倒れているルーソ・ベルシカの隣に一人の男が現れた。
なんの前触れも、光る扉も、≪アラクネ≫の警告すらもなかった。
まるで幽霊のように忽然あらわれた。
普通の身長に変なマスクを被っているその男は
足元のルーソ・ベルシカと搬入倉庫のなかを見渡しながら唖然としていた。
「ああ、やっぱりこうなってしまったのか」
溜息まじりに首を左右に軽くふる。
「もうすぐ、ゲートが閉じる。作戦は失敗だ。
まさか、同士ダグラスと 彼女までが敗れるとは夢にも考えなたった」
しずかに視線を移して俺やキリルを見る。
「まさか、あなたが≪プロミネンス≫でしょうか?」
「いかにも」
うわ、あっさりと認めてしまった。
しかし、これちょっとワンパターンすぎて飽きた。
敵一人倒したら、すぐさま別の敵が現れるなんて酷過ぎる。
身構える俺をみて≪プロミネンス≫が話す。
「わたしは戦いに来たのではない。すでに計画は達成不可能な段階に入った。
ここでお前らを殺しても何も役にもたてやしないからな」
「行ってくれるじゃないか。それを素直に信じろと?
いままで、その女やダグラス議長なんて問答無用で攻撃して来たぞ」
あ、そういえばルーソ・ベルシカはこっちが先に仕かけたな。
「確かに、その通りだ。
信じられないだろう。
しかし、条件を満たしてアラクネのメインプレームを平和的に手に入れる作戦はすでに頓挫している。
認証に必要な生体チップ集めと高位管理局長の身柄確保を誰かさんが激しく妨害したお陰でな」
俺とキリルのことだろう。
まあ、リチャード管理局長の件はともかく敵の生体チップ集め要因であるゴブリンを
これでもか!!ってくらい虐殺したのは事実。
しかし、ゴブリンもこの時空間領域の人間は手当たり次第に殺して食ってる。
この血なまぐさい殺戮作戦のどこが平和的なのか聞きたい。
≪プロミネンス≫は懐から水晶を取り出した。
ルーソ・ベルシカが持っていた物と同じ奴だというのは中に渦巻く光をみれば間違いなかった。
「待ってくれ 一体何をする気だ」
「退場するだけだ。ついでに手駒の回収だ」
「それは、この時空間拡張から抜けられるということですね?」
「そうだ」
「じゃ、今すぐ時空間拡張デバイスを止めてください」
おお!!、さすがキリル、ずばりと言ってくれた。そう、それが最優先だ。
「それは出来ない」
「……」
だめか、やはり
「我々は時空間拡張された場所にもある程度、観測計算して物体や人を送り込む技術を保有している。
しかし、宇宙蜘蛛のような巨大な宇宙移民船を跳躍させたり、時空間拡張させる力はない。
そんなのが可能だとすると神の領域だ。
さらばだ、再会しないことを祈るよ。
私も変異の祝福をうけた同士は殺したくないからな」
≪プロミネンス≫はそこまで言い放ち手の平の水晶をぐっと握った。
そしたら雷でも落ちたかのような眩しい光が形成され二人を包み
光が収まると、そこには誰も残っていなかった。
広い搬入倉庫には
俺とキリルだけが残り、静かさが漂っている。
戦いが終わった。
2人とも何も言わないが、倉庫の静寂がそれを語ってくれていた。
2人は、その場に支え合うように座りこみ
しばらくは、その静寂に浸っていた。
◆◆◆◆◆◆◆◆
異変に気付いたのは少し前だった。
生存者がいるかも知れない大型シェルターに向いているが
ずっと移動しているのに全然辿りつけない。
これは二人とも感覚がおかしくなっているのか?
はっとして周囲のシステムを確認するがうんともすんともしない。
目の前のドアも開かないし
≪アラクネ≫は≪プロミネンス≫とあった時から全然姿を見せないでいる。
何かが始まっている。
おそるおそるライフサポートバンドの時計を確認すると
時間が逆行していた。
慌ててルーソ・ベルシカから回収した水晶を見る。
中の模様がかなり弱い光に変わっていた。
今すぐにも消えそうだ。
もしや、やつらがいっていたゲートが閉じる現象か?
呼吸が早くなる。
どうする?
どうすればいい?
せっかくシステムを自在に操れるようになったのに……。
キリルも助けたのに……。
そうだ。
今俺は一人じゃない。
もっと冷静にならなきゃ。
最後の足掻きとして水晶でも壊して見るか?
最悪、彼女だけでも……。
そんな、俺の手をキリルが握って来た。
「シュン、いいの」
「キリル?」
「理由はわからないけど、多分これでいいの」
「正直、俺もこれといった打開策がない。
作戦はもう無いんだ。ごめん。」
「ううん、違うよ。
シュンの作戦はすごかった。綺麗に最高に成功したよ。」
涙を流しながらも、微笑むその顔は
幻想的な程、美しかった。
普段、クールで無口
よく笑わない彼女だからこそ、この笑顔は尊かった。
「私ね。今まで逃げてばかりだった。
会ったこともないお爺ちゃんのことで虐められて
追いまわされて、怖くて仕方がなかった。
今度の事件でもそうだった。
だって、次から次へと敵が襲ってきたし
どうすれば逃げられるか、それしか考えてられなかった」
もう、周囲からなんの音も聞こえない。
気のせいか光も段々なくなり、重力すらも弱まって行く。
「でも、シュンは違ってた。
どんな、強敵が出ても作戦を立てては倒して見せた。
絶対、逃げなかった」
お前がいなかったら真っ先に逃げてたよ
心のなかでは思ったが口にはださなかった。
「だから、もっと嬉しかったよ。
ありがとう。 シュン
もしね。
もし、ここで生き残れたら
また会えたら
もっと、勇気を出してちゃんと恩返しするね」
「いや、こっちこそ君に………」
キリルの方に手を伸ばす。
しかし、次の瞬間、そこには誰も立っていなかった。
俺は一人になった。
そして、また記憶が途切れ、意識は暗い深淵に引きずり込まれた。




