交渉
「ちっ、全部見られたか ついてないね」
ルーソ・ベルシカの目にこもる殺気が強くなった。
「ちょっと待ってくれ。1ラウンドはこっちの勝利だろう?
すこしくらい、冥土の土産ってのを渡してくれてもいいじゃないか」
「……」
「答えてください。この水晶と生体組織の瓶はなんですか?」
何も言わない彼女の代わりに俺が答える。
「俺達がリチャード管理局長から受けた任務はダグラス議長の探索、船の異常現象の原因究明だった。そして、ダグラス議長がいなくなった今、その事実と≪アラクネ≫の調査内容をリチャード管理局長に報告すれば任務は終わる」
「そうよ?」
戸惑うキリル。
「そして任務はここで終わった」
「え?、でも≪アナンシ≫は破壊されたし、まだリチャード管理局長に報告出来てないよ?
私もあまり会いたくないけど、せめて警告だけでも……」
「もう必要はないんだよ」
「?」
『シュン様はその瓶詰めにされているのがリチャード管理局長ということですね?』
「!!!!!」
「そうだ。
この水晶が今回の事件の黒幕で多分入口
これであってるか?」
ずっと無言だったルーソ・ベルシカはやっと口を開いた。
「大体、あってる。
ああ、どんだ貧乏くじをひいてしまったわ。
リチャード管理局長の認証が自分の生体情報な時点でラッキーだと思ったら
こんな伏兵がいるとはね?
後はダグラス先生だけ確保して逃げれば終わるとこだったのに」
またも深いため息。
「あんただちのせいで随分と計画が狂ってしまったわ。どう責任取ってくれるつもりなのよ?」
「それより、答えろ。この時空間拡張から逃れるにはどうすればいい?」
「はははは、逃げる? そんなの出来るわけないじゃん?
そして勘違いさせて悪いけど、そいつはゲートなんかじゃないわ。
いわば道標ね」
「道標だと?」
「因みに絶対壊しちゃだめよ。そいつが無くなるとこの時空は閉ざされてしまう」
「死ぬってこと?」
「ふーーん、難しいことはよくわからないが、そうなるんじゃないかな。
あ、そろそろ準備も終わったし2ラウンド行こうよ」
体の埃を振り払いながら近づいてくるルーソ・ベルシカ。
そして彼女の後ろ側の壁が一気に光だした。
久しぶりだけど、怪物の出現信号だ。
ざっと1000体は余裕で超える。
壁を埋め尽くす勢いで次から次へと出現ドアが形成される。
いまなら、わかる。広大な船の中でこいつらは短距離の跳躍を繰り返していたんた。
何かの制約があるのか壁から壁へとしか飛べないし、時間もかかるが明らかな空間跳躍だった。
すこしの謎は解けたがまだ知らないことだらけだ。
一体こんな高度の技術を持つやつらが何故宇宙蜘蛛なんか狙う?
メインプレームにあれだけ執着する理由はなんだ?
こんな周りくどい作戦まで……。
いや、まさか違うのか?
俺の考えがもし正しければ
事件の犯人は別にいる。
でも、今は敵さんが目の前にいる。
戦って生き延びなければ何も始まらない。
「最後に提案してあげる。
大人しくそのバックの中身を私に渡して降伏するなら仲間にしてやってもいいよ」
「誰が……」
「俺は興味あるけどね。それと大型シェルターにいたみんなはどうなった?」
「ふふふ、さあ?」
実は聞かなくても分かることだ。
こいつはあのダグラスと協力関係にある。
原理は知らないが怪物どもを操れるし指定した場所へと跳躍させられる。
そして、怪物の目的はより多くの生体チップ回収と3人以上の管理局長。
先ほどまでの言動からみても、とても残忍で容赦がない。
多分、全員殺されたはずだ。
リチャード管理局長があんな瓶詰になたのを見ると間違いない。
こいつらは我々を人間とみなしてない。
なら、答えは一つだ。
「俺は降参するよ」
「シュン正気なの?」
「キリル、冷静になってくれ。二人ともダグラスとの戦いでかなり消耗してるじゃないか。
あんな、怪物の大軍とは戦えないよ」
「でも、わたしあの女は信用できないよ。もしかするとロウファン軍曹とかも……」
「わかっている、俺を信じてくれ」
キリルはすこし迷ったが、すぐ心を決めたらしく頷いてくれた。
「シュンがそこまでいうなら」
そして、透き通った綺麗な瞳で俺を見つめ何かを訴えてくる。
声にはしないが、あれだ。
作戦は?
その視線だ。
「おい、聞こえただろう?、そっちの言う通りにするから見逃してくれ」
「あらら、本当に? また、騙すような真似したら手足を落とすだけじゃ済まないわよ」
ルーソ・ベルシカも信じられなかったらしく脅しをかけてくる。
「武装は捨てる、パワードスーツもパージする。
だから、それ以上近づかないでくれ。
そっちこそ、変なことしたらこの瓶ぶち割るからな。
キリル、すまないがパワードスーツを降りてくれ。
あ、そうだ 倒れたらしゃれになんないから床にちゃんと固定して」
「!!、わかった。
でも、外からワイヤをかけないといけないわ。
ちょっと手伝って」
やはり、このこはすごい。
わかってくれる。
「しょうがないな。 ワイヤどこに掛ければいいんだよ?」
と近づく俺
キリルは透かさずアームで俺を掴んではハッチの中に放り込んだ。
狭いけとちゃんと入れた。
流石に邪魔なのでカバンは中身だけ出して捨てた。
キリルの操縦を妨げないよう後ろ側にまわる。
キリルを後ろから抱きかかえる形になったけど仕方ない。
仕方ないのだ。
「やっぱり、嘘だったのね。まあ、いいわ。そのパワードスーツでいつまで持つかな?」
一気に怪物どもが襲い掛かってくる。
後は
ご存じ
あれだ。
もはや、回数制限はない。
搬入倉庫のシステムは完全に俺の見方だ。
「キリル行くよ」
「はい!」
一発目
人工重力反転
悪鬼のように顔で何かを叫ぶルーソ・ベルシカとその他、怪物共は、天井側に墜落して行った。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
あれから結構時間が経過した。
全部で8回くらい繰り返しで人工重力反転を放った。
流石に警告アナウンスとかは流れるし、身軽な人だから、ルーソ・ベルシカさんは壁にしがみつき未だ健在だった。
でもその顔は蒼白だ。
3回くらいは攻撃をもろに食らっていた。
そして、普段なら人が『緊急停止』と叫べばインターロックが作動して人工重力反転は作動しない。それが超危険環境操作時のシステム上の絶対ルールだ。
それを彼女も思い出したのか、3回目て『緊急停止』と叫んでくれた。
人工重力反転は作動しなくなった。
しかし、その直後彼女は真っ逆さまに墜落して行った。
そう罠だったのだ。
実は≪アラクネ≫経由で彼女のテロリスト疑惑を報告、彼女の人権やシステム命令権を剥奪しておいたのだ。いくら、強化改造人間でもここまで罠に嵌ってくれれば、後は消化試合になる。
他の怪物共はすでに息絶えていた。
念には念を入れて、キリルと仲良く隅っこに避難した後
倉庫全区域に特大の電撃を発生させて何分か待った。
あっちこっちで肉の燃える煙と電撃の閃光が生じる。
まるで巨大な電子レンジだ。
そろそろ、いいかな。
さあ、交渉の時間だ。
同じパターン過ぎるとお思いでしょうか。
申し訳ございません。主人公の地味さを醸すためでございます。
今日もお読みいただきありがとうございます。
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