探索開始
よし、決めた。
「探索命令受諾しました。渋川シュンと キリル・タシュケントの2名は只今より
任務に出発します」
「なんだと? 今、リチャード管理局長の話を聞いてないのか?彼女は即拘束だ」
ナイブス航海士はここぞとばかりにリチャード管理局長の名前を出して来た。
「それです。
現時点で一番重要なのはダグラス議員探索だし、その任務には彼女が必要だからです。
彼女がテロリストという証拠は今のところ、何もありません。
彼女は船外作業スーツの運用のプロです。
怪物共の戦いで船外作業スーツのパワーがとても有用であることが分かりました。
彼女以外にもここに船外作業スーツのライセンス拾得者がいれば全員連れて行きたいくらいです。
もっとも」
たっぷりと間をおいてこう言った。
「安全性がある程度確保されたここと違って、探索任務なんて生還率が限りなく低いですけどね」
ほら、出て見ろ。
出たらキリルの立場が危ないからやめてくれるとありがたい。
運が良かったのか誰も名乗り出る人はなかった。
『渋川整備士の提案は理にかなっています。小人数での戦力確保のためにはスーツを使った方がいいですね。 そしてリチャード管理局長、すこしご提案したいことが…』
≪アラクネ≫は助け舟にしてはすこし胡散臭い内緒話をリチャード管理局長と数分も続けた。
ナイブス航海士やコンウェール少尉まで入れてだ。
話が終わるとまるで厄介者を追っ払るかのように、こう言った。
「わかった。 2名の出発を許可しよう。但し、シェルターから必要以上の物資の持ち出しは禁ずる。
必要最低限の物だけを許可する。定期的な報告も忘れるな」
あっさりと許可が出た。
気が変わる内に出てしまった方がいいと思い、すぐさま荷造りを始めた。
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リチャード管理局長はシュンとキリルから離れた場所でコンウェール少尉に言った。
「脱出計画はいいとして、あいつらが本当のテロリストの可能性もある。 切り離すだけじゃなくここで始末したり尋問して情報を得た方がよくないかね?」
「命令してくださればいますぐにも」
『泳がした方がよろしいかと、本物のテロリストだったら切り札として何かを仕掛けてくる可能性が高いでしょう。
管理局長の身の安全を考慮すると危険すぎます。
テロリストじゃなかったら陽動として使えるかと。
万が一でも不穏な動きがある場合わたくしがご報告いたしますので
ご安心ください』
「ダグラス議員探索はどうされますか? 本当に彼らに任せてしまって」
「馬鹿かお前は、≪アラクネ≫の機能が一部でも回復したんだ。
それでも音沙汰ないのは、生きてる可能性は無いに等しいい。
我々はこのシェルターの分離及び脱出作業に取り掛かる」
「おっしゃる通りかと。
機密維持が命のこの脱出作戦であんな不穏分子は排除した方がいいですね」
3人は互いに頷き合った。
そしてこの会話に参加してしていた≪アラクネ≫は
誰にも聞こえないくらい小さい声でこう呟いた。
『憎み、蔑み、差別
私はAIに生まれてなんて幸せなんでしょう』
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探索に必要な物資は案内役を買って出たロウファン軍曹に要望を出して探してもらうことにした。
その待機時間中にまずはパワードスーツ探し。
シェルターには保存状態のいい船外作業スーツが保管されてあったので一番丈夫そうなタイプを借りることにした。
実はこれに乗れる人って意外と少ない。
便利だし誰でも怪力になれるからみんな喜んで飛び込みそうだと勘違いされるかもだが実態はまるでちがう。
そう、無茶苦茶きついのだ。
いくら温調機能付きで人体工学的に設計されているとしてもだ。
狭苦しいし関節の身動きが制限されるのは当たり前、しかも構造的に完全ロボット型の作業ドロンに力で負ける。製造コストでも負ける。作業継続時間でもまける。
たまに過酷な環境に人が直に近づく必要がある場合は防護服としては素晴らしい性能を発揮するが
如何せんトロいので逆に危なく場合もある。
自立型のドロンが様々な仕事をしてくれる今となっては無用の長物に等しい。
AIの干渉なしでスタンドアロンで動けるのは今回のような非常時には大いに助かる機能だが
それも実は≪アラクネ≫が力を取り戻しつつある今、ほどんど存在意義が薄くなっている。
あいつらが馬鹿で助かったのかな。
キリルは前回使用していたタイプよりも分厚い装甲のパワードスーツを選んだ。
流石に体のラインがクッキリと出るインナースーツのままは恥ずかしかったらしく
ハッチが開けたらすぐに身を埋めて隠れてしまった。
むっちりしたボディの妖艶な美女は消え去り、強固な装甲のパワードスーツ乗りが現れた。
今まではちょっと視線を移すだけで眼福だったのに、残念でならない。
程なくしてロウファン軍曹が要望の食料や着替えなどを持ってきてくれた。
キリルの要望した服は部下の女子隊員に探させている途中らしく
後で届けてくれると。
よし、武器の確認から始めるか、キリルから待ったがかかった。
え?
着替えとシャワー?
流石に同じ服でずっといるのは女性にはきついよな。
全然気がつかなかった。
『い、一緒にいかない?』
『え?』
今、誘われたのか
ははは、冗談でしょう。騙されないぞ。
しかし
キリルの目は冗談を言っている感じではなかった。
その瞳には情欲など邪念はなく、躊躇いと恐怖の色が滲み出ていた。
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一時間後
俺とキリルは着替えと補給を終わらせてシェルターから出発した。
見送りはロウファン軍曹や物好きな生存者が何名かだけ。
ダグラス議長が向かったという第10番搬入倉庫に向かうことにした。
2人とも振り返ることなく黙々と歩き始めた。
≪アラクネ≫は今移動ルートの確認中で音沙汰なし。
1時間くらい移動したら、シェルターなど完全に見えなくなっていた。
怪物も現れない。
追手も無いと見ていいだろう。
「そろそろ、さっきの話のつづきをしようか」
パワードスーツが動きが止まり、キリルがハッチを開ける。
パワードスーツを着る以上、仕方なかのか相変わらず体のラインが強調される
ぴったりの服だが、今度はケープのような物を被っている。
それでも激しく胸の部分が盛り上がっていて逆に煽情的に見えるのは気のせいかな。
「ここなら大丈夫だと思う」
そう先ほどシャワー室では最後まで話が出来なかったのだ。
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一時間前、キリルは私をシャワー室に誘った。
そして一室に入り、ドアを閉めた後。
突然服を脱ぎ出した。




