表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
パンドラの恋人  作者: 櫛名田慎吾
第六章
33/46

挙動不審

 △ △ △


「なあ俊、結局指定校推薦は受けないんだろ?」


 十月も半ばを過ぎようとしていた学校で、いつものように弁当箱をぶら下げた粕谷が僕のところに近寄ってきた。僕は少し長くなってきた長谷川綾の後ろ髪から視線を移して、くるっと粕谷の方を振り返る。


「うん、受けないよ」


 指定校推薦を受けると面接でヘマをしでかすとか、学校や社会で素行不良をやらかすような余程のことがない限りそこで受験は終わる。指定校推薦に受かればそこに行くしかない。それでいいならいいし、あとで悔いが残りそうなら受けなければいい。そこからは各家庭や個人の問題でどれが正解なんて、そんなことは誰にもわからない。


 僕はといえば、いま粕谷に言ったとおりに推薦は受けずに国公立の理系学部を受験するつもりでいた。


「優花ちゃん、ブツブツ文句を言ってない?」


 ニヤッと笑みを浮かべた粕谷が聞いてくる。確かに粕谷の言う通り優花は多少ブツブツと文句を言っていた。優花自身は既に推薦の校内選考に応募していて、早々に行き先を決めている。まあアイツはちょっとした家柄の娘さんだし、世間的にもお嬢様大学と呼ばれるところに行ければそれでいいのだろう。


「まあな、ちょっと不満を言われたけど、しょうがないじゃん」


 弁当箱を取り出しながら僕がそう言うと、「だろうな」と粕谷は苦笑いをして前の椅子に座った。


 △


 夏休みが明けた三年生は受験のムード一色に変わっていった。先ほど言ったAOや推薦入試の校内選考があったり、月に二度ほどの模試があったりして、すべてが受験中心に動いているような気さえした。バッサリと髪を切った長谷川のイメチェンにしても、夏期補習の初日のインパクトは凄かったけれど、今はもう誰もそのことに触れるクラスメイトはいなかった。


 長谷川綾は髪を短く切って以来確かに変わった。僕から見るに外見だけでなく内面も変わったように思う。相変わらずクールはクールだけれど、氷姫と呼ぶほどの寄せ付けないオーラではなくなって、クラスメイトとも多少は会話をするようになっていた。


 ただ不思議なことに僕の前だと言葉数が少なくなって、なぜか急に沈んだり、粕谷がいると粕谷の方ばかりと喋ったりするようになっていた。粕谷は頭の良いヤツだから、そんな長谷川の行動の変化に気づかないはずは無い。その長谷川の行動は粕谷自身が好かれているのではなくて、むしろ長谷川が僕を避けている、もしくは僕の前では長谷川が挙動不審になっているのだと、少し前から見抜いていた。


 長谷川の挙動がおかしいと僕が気がついたのは、夏期補習が始まってしばらく経ったときだった。最初はあのラブホテルに泊まった一件で、長谷川の挙動がおかしくなったのかと思った。けれどいくら思い出してみても、ラブホテルに泊まった日には普通に、いや普通以上に話し込んだし、それから以後僕と長谷川の間には何も特別なことはなかった。なのに長谷川の様子が僕の前でだけはおかしくなっている。そのことが僕には本当に謎だった。


 僕と長谷川の距離に違和感を覚えた粕谷には「俊がヘンなことしたんじゃないか」、などと冗談交じりに言われたけれど、さすがに親友の粕谷とはいえあのラブホテルの一件だけは言えない。そして、それが言えないから適当なことしか返事ができなくなって、結局長谷川綾と僕の奇妙なギクシャクとした関係は、今も解消されないまま続いているのだった。


 僕自身としては、長谷川が他のクラスメイトと多少なりとも話をするようになって良かったとは思っている。けれど、あれだけ僕の前では自然体で話してくれていた長谷川が、なぜ僕には挙動不審に接するようになったのか、それだけはこの先学校で会える内に原因を確認しておきたかった。


 そんな九月が終わり十月も始まって下旬に差し掛かった頃のこと、長谷川が二~三日学校を休んだ。人付き合いが悪かった頃でも学校だけは休まなかった長谷川が、連続で高校を休むなんて珍しい。体調を崩して風邪でもひいたのだろうかと粕谷と帰り道に話をしたその翌日、長谷川が学校を休んでいることなんかよりも、もっと大きな出来事が我が家を襲った。


 その出来事は、僕と長谷川綾の将来をも根底から変えてしまうことになったのだけれど、その時の僕はそんなことになるなんて思ってもいなかった。


 僕と長谷川の将来を大きく変えてしまった出来事、それは僕の父親が突然警察に逮捕されたことだった。そしてその容疑は、――本当に思いもしない、十八歳未満の少女との援交だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ