とある奇妙な商店にて
(どうしてこんなことに……)
商店が立ち並ぶ通りから道をいくつか外れたところにあるとある武器屋。
そこは他とは少し違う武器を取り扱う店として、知る人ぞ知ると言われている店だった。
その店内の、さらに奥にあるいわゆるバックヤードで、赤毛が特徴ななかなかの器量よしの少女が、
まるでこの世の終わりのような悲壮な面持ちで膝を抱えて部屋の隅にうずくまっていた。
その傍らでどこか陰気な雰囲気のある背の高い少年と、どこかピエロのような雰囲気を感じさせるメイクをした怪しい男が、並べた宝石や硬貨を眺めながらワイワイと話し込んでいる。
「これだけありゃぁあんたに用立ててもらったこの魔道具の代金には足りるだろ?」
「たぁしかにぃ。では、これぇで契約は成立といぃうことで。」
そう言ってメイクの男は懐から取り出した契約書を少年に渡した。
しかし、その表情はメイクでわかりにくいものの、どこか残念そうな表情が見えた。
いや、そんなことよりも、と少女は今の状況を考える。
この国の法律では、窃盗の罰は盗んだ金額と同等の労働。しかも国による奴隷契約を課せられたうえでの労働だった。
例えば、金貨で10枚盗んだ場合、一枚も使わずにつかまり、持ち主にすべて返還出来たとしても金貨10枚の奴隷として扱われる。
さらに、もしも5枚使っていて、その分が返還できなかった場合では、金貨15枚分の奴隷となる。
とはいえ、自分がやった様な小銭狙いのかっぱらい程度で、わざわざこの法律が適応されるようなことはない。法律上そうなっていたとしても、少額ならせいぜい牢屋で一晩明かす程度で許してもらえたであろう。
ただ、今回はこの妙な男が出てきてしまったためにかなり状況が悪くなってしまった。
事実はどうであっても、今回のことは第三者から見て、私とこの男がグルで仮面の男(?)から持っているお金を巻き上げたと思われるであろう。
窃盗どころか強盗罪である。
それでも金額が少額ならばよかったのに、いざ少年が奪ってきたポーチからは自分の見たことのないほどのお金や、価値のありそうなものがどんどんと出てきた。
おそらく自分では何年奴隷になっても返しきれないほどの金額かもしれない。
もうこうなったら、この少年を無視して逃げ出すことすら危ない。
どうもこのダイモンとか言う少年、今回のこと以外にもやらかしているようで、衛兵に追われているらしい。
いくら私が知らないといったところで、おそらく参考人として牢の中に放り込まれるであろう。
そしてそうなったら、スリ程度とは違い、しっかりと私には罰が与えられるに違いない。
今あちらで広げられているものの総額がいくらなのかわからないけれど、おそらく私なんかが何年働いても稼げるような金額ではないだろう。
返せる見込みがない場合の罰は、奴隷の首輪による完全な意識の喪失。
人形のようにされて一生を過ごすことになるかもしれない。
少女は暗い未来の想像に押しつぶされそうになっていた。
ダイモンは上機嫌だった。
城から逃げ出す羽目になり、まるで犯罪者のようにビクビク隠れながら王都をさまよっていたとき、たまたまこの店の親切な店主が匿ってくれ、何とか安心して過ごせるようになった。
今の状況を何とかしなければと、目的もなくあがくように町を這いずり回っているところに今回の強盗騒ぎ、
あの場では追ってくる衛兵にろくに説明もできなかったが、おそらく今頃は目撃者たちの証言によって自分の行いの正しさが証明されているはずだ。
そうすればいずれ城で起こった不幸な行き違いも解けることだろう。
さらに自分のハーレム計画の第一歩、少女との劇的な出会いも完遂できた。
彼女は、今はまだ先ほどの強盗騒ぎのショックでおびえてしまっているようだが、そのうち助けた自分に対して感謝することになるだろう。そうして行動を一緒にしているうちに……
さらには、今回手に入れたかなり金額であろう品々。
これを元手に装備を整え、栄光の異世界生活は始まることであろう。
少年は明るい未来の妄想に舞い上がっているのだった。
商店の主、カワタは目論見が外れ、少し不機嫌だった。
計画にはなかったものの、自分のところに転がり込んできた転移者。
もしも彼を自分の異能で支配することが出来れば、もしかしたら我等の目的に大きく近づくことができるかもしれないと思い、魔道具を後払いで売るという契約を結ばせたのだが……
正直本当に代金をこの世間知らずが用意できるとは思わなかった。
まあ、いいだろう。どうせこの少年を支配することはもともと予定にはなかったことだ。
それにしても……
一体どこから持ってきたのだろうか、現金もそうだが、アイテムポーチから出てくる品物は、見事な細工の施された小物などは、綿密に作られており製作者の腕の高さがうかがわれる。
……というか、これらに似たものが、最近市場を騒がせていたような……
ダイモンがポーチの中身を次々と取り出して確認していく中、それは他のものと比べても一線を引くことがうかがえた。
「おお……!!なんかすげえのが出てきたな。」
ダイモンの呟きにほかの二人がふと視線を向けると、ダイモンがドレスをポーチからをとりだしているところだった。
ただのドレスではない。その素材のすべてに至るまでが風絹を惜しげもなく使っており、その意匠は繊細ながらも全体のイメージを洗練されたものへと際立たせている。
しかし、そのイメージと同時に、向こう側が透けるほどの薄さの風絹を重ねて作られているそれは、どこか踊り子の衣装を思わせる、なんというか……少しセクシーさを感じるものでもあった。
そしてそれを見たダイモン以外の二人の反応は、どちらもその顔を青ざめさせていた。
(あれ……まだ孤児院にいた時に絵本で見たことがある。
確かエルフの偉い人が着るって書いてあった奴にそっくりだ。)
(これぇは……そぉれにさっきの細工物。まさか、この男がポーチを奪ったという相手ぇは、エルフなんではないでしょうねぇ。)
特に資源のあるでもないこの国で、エルフとの交易によってもたらされる恩恵は計り知れない価値がある。
それを失わないためにも、国内ではエルフに手を出すことは、最大の罪として扱われる。
2人の様子に気が付かないダイモンは、それを雑に扱いながらも店主に問いかける。
「なあ、これはかなりいい値段になるんじゃねぇ?買い取ってもらえたりするのか?」
「ぅええ?いえ、それぇは、家ではぁとても扱えないしろものぉですよぉ……」
(他の細工物ならぁまだしも、これはぁ持っているだけでもやばい。さすがに知らなかったとは言えないものですねぇ。)
(アハハ……エルフに手を出しちゃってるなんて、もしかしたら縛り首?……ほんとにどうしてこんなことに……)
「そんなにすげぇ装備なのかよ……なあ君、これ着てみるか?」
「ハハハ。ケッコウデス」
いま、自分がどれくらいやばい状態なのかを知らないのは、ことを起こした本人であるダイモンだけなのであった。
(それにしぃても、この男の言うフードに仮面の少年、こないだ忍者等を買って言ったあの客でぇすよね?
あの少年がぁエルフ……確か、ちらりと見えた髪は白かったよぉうな……まさかでぇすね。)




