今日はよく投げられる日です。
「がぁ、くっ。ちくしょう!!」
さっきから私の投げるスパイクを叩き落そうと必死に腕を振り回しているダイモン。
しかし、最初に投げつけた刀を叩き落せなかったぐらいに不器用な彼には、絶えず飛んでくるスパイクをすべてかわし切ることなんてできないだろう。
「てめぇ。この卑怯者が!!」
何か言っているが知ったことか。そのままハリネズミになればいいんだ。
何度も殴りつけられた恨みをここで晴らしてやる。
とはいえ、さすがに今の状況ではまずいと思い至ったのか、ダイモンがそのあたりの廃材の中に潜り込んでしまった。
さすがに見えない相手に当てられるほど器用じゃないしね。
爆弾があるなら放り込んでやれるのに。
「シラユキちゃん!!」
ダイモンが廃材の中から出てこなくなったので、自由に動けるようになったマリンさんがこちらに駆け寄ってきた。
「マリンさん。大丈夫でしたか?」
「シラユキちゃんこそ。ああ、血が出てるじゃない。」
ふと自分の状態をみてみると、フード付きコートに隠れていないところは見るからにボロボロだった。
ていうか、隠れているところもだいぶ痛みを感じている。
何とか耐えているけれど、実はかなり限界が近い。さっきから一歩も歩くことが出来なくなっている。
「実は、結構しんどいです。」
「やっぱり……早く治療院で見てもらわないと。」
「でも、それより先にあれをどうにかしないといけません。」
ダイモンが隠れている廃材の山に視線を向ける。
と、ちょうどその瞬間に例の光の玉が廃材の山の中からとびだしてきた。
「げ、まずい」
あの大きさの廃材から現れる影は、きっとこちらまで届いてしまうだろう。
それを感じ取ったのか、マリンさんが動けない私の前に立ちはだかった。
「マリンさん!?危ない!!」
「大丈夫、たぶんあれなら……」
光の玉が光をまき散らし、あたり一面を照らして影を映し出す。
と、思った瞬間、一瞬だけあたりを照らしただけで光の玉は消えてしまった。
「はあぁ?どうなってやがる。なんで光らねぇんだよこのポンコツが!!」
ダイモンが隠れているであろう廃材の中から、彼の罵倒が聞こえてきた。
「やっぱり、あの光は魔法道具だったのね。」
何故か訳知り顔でつぶやくマリンさん。
「マリンさんが何かしたんですか?」
「私の本は、知らない魔法なら最初の一度だけ無効かすることができるの。」
そう言ってマリンさんは本の一ページを開いて見せてくれる。
そこに今まさに新しいページが生まれているところだった。
おそらくその新しいページに描かれている魔法陣がさっきの光の玉を生み出す魔法陣なのだろう。
「これで私もあの魔法を使えるようになったわ。」
ダイモンは廃材の陰から様子を伺っているようだったが、焦れたのかそこからさっき私が投げたスパイクを
こちらに投げようとしていた。
まあ、棒手裏剣術は練習もしてない素人にできるものじゃないから、ろくに投げることもできていなかった。
でもそろそろダイモンも光の玉の魔法が使えることに気が付くころだろう。
そもそも最初から使えなくなったわけではないのだし。
でも、私たちはすでにその攻撃に対策を立てれている。
それに気が付かず、こちらに仕掛けてきた時が勝負だ。
こちらも廃材に身を隠し、体力を回復させていると、やっと気が付いたようでダイモンの隠れている廃材から光の玉が打ち上げられた。
周りを一通り照らした後に、意気揚々と言った感じにダイモンが廃材からはい出てくる。
「なんでさっき使えなくなっていたのか知らないが、これなら問題なく戦えるぜぇ。」
ダイモンの足元から伸びる影が、彼の周りを囲むようにうごめいた。
なんとなく結果は解るけれど一応スパイクを投げつけておく。
すると当然のように彼の周りの影がスパイクを防ぐ盾のようにダイモンをまもる。
「くはは、そこにいたか。いい加減チュートリアルにしては長いんだよ。さっさと倒されろ。」
こちらを認識したとたん、ダイモンを守っていた影が槍のようにとがり、こちらに矛先を向ける。
さらに私が隠れている廃材の影もうごめきだし、私を捕らえようと絡みつこうとしてくる。
「マリンさん!!」
「フラッシュスフィア!!」
私とは違う瓦礫に隠れていたマリンさんが、合わせて相手と同じ魔法を使う。
マリンさんから放たれた光の玉は、側面から影を照らして私に迫るそれをかき消した。
「なにぃ!?」
想定外だったのだろうダイモンが慌てている。
その隙に私は廃材の山から飛び出し、彼に向かって駆け寄る。
「っ、まずいか。」
迫る私を見たダイモンは、いったん距離を取ろうと私から逃げようとする。
(さすがにこれ以上逃げられると私の体力が持たない……こうなったら。)
私はとっさに精霊魔法を使う。
周りからは解りづらいように、ダイモンの足元だけ草や蔓が伸びてダイモンの逃走を阻む。
さすがに周りに自然が少ない場所なので、ため込んた力を使わなければならない。
「なんだぁ!?急に草が絡みついて……」
うろたえるダイモン目がけて、忍者刀を構えて突撃する。
それがダイモンへ届こうかとした瞬間
「ちぃ、これは使わないつもりだったが……」
突然ダイモンの足元の影が、彼の体を這いあがるように体に巻き付き始め、ほぼ一瞬で体中を黒く染め上げた。
そしてそのまま鎧のように形を変えて、私の攻撃を受け止めてしまう。
(そんな……これ以上はもう……。)
振り絞った体力も底をつき、その場にしりもちをついてしまう。
「これは見た目があんま好みじゃないから使いたくなかったんだがな。」
確かに今のダイモンの見た目は、どこの悪役だと言いたくなるような漆黒の鎧姿だった。
その場にへたり込んで動けなくなっている私をまた持ち上げて、今度こそ邪魔が入らないうちに勢いをつけて廃屋のような家に叩き付けた。
そこで私の意識はついに途切れた。
「そんな……シラユキちゃん!!」
ダイモンに投げ飛ばされたシラユキは、壊れかけた家の屋根をバキバキと壊しながら見えなくなってしまった。
マリンは隠れている場所から出ることもできず、その様子を見ていることしかできない。
(衛兵はまだ来ないの?これじゃあシラユキちゃんの無事を確かめにもいけないじゃない。)
「うん?なんだこれ」
ダイモンはシラユキを放り投げた後、自分の足元に何かが落ちているのに気が付いた。
それはシラユキの持っていたアイテムポーチだった。
「うお!?すげぇ、見た目以上にものが入るアイテムボックスってやつかな?しかも中身はお宝ってやつか。」
中にはシラユキが旅の資金として貯めていたお金や、細工で使う宝石やインゴットが入っている。
しかもそれだけではなく、貴重品としてまとめていた為に、とんでもないものまで入れていたのだが、ダイモンはそれには気が付かなかった。
「盗賊倒してお宝ゲットってね。やべえ、いくら入ってるんだこれ。まあ、悪いことして手に入れた金だろうし俺がもらっても構わねぇよな。」
ダイモンがそれを懐にしまい込んだところで、ようやく衛兵たちが道の向こうからやってくるのが見えた。
どうやらバスターも一緒のようだ。
「奴だ!逃がすなよ。」
衛兵達ががダイモンを視認して腰の剣を抜いた。
それを見たダイモンも、さすがにこれ以上はまずいと思い至ったのか、逃げることにしたようだった。
「げ、あいつら…… 俺は人助けしてるだけなのに、あいつら融通聞かねぇんだよな。おい、逃げるぞ」
「ええ!?な、なんなの?」
何かをつぶやいたダイモンは、この場ではすっかり忘れ去られていた少女をひょいと抱え上げ、衛兵たちとは反対側へと逃げ出した。
それを逃すまじと追いかける衛兵たち。
嵐のように駆け抜けていった彼らを物陰から覗き見ていたマリンが、ようやく潜めていた息を吐いたところで、バスターが駆け寄ってきた。
「悪い、あれから抜け出すのに手間取ってな。衛兵と途中で合流できたんだが、ここがなかなかわからなかったんだ。
さっきのが例の召喚された戦士だったのか?」
「多分……私も途中からしか状況がわからないんですけど、シラユキちゃんが襲われてたから。
……!!そうだ、シラユキちゃんは?」
マリンはバスターとともにシラユキが投げ込まれた崩れかけた廃屋へ駆け寄る。
慌てて中を探してみると、シラユキの着ていたコートの裾が、崩れたがれきの中からはみ出しているのを発見した。
「大変!!早く助けないと。」
「何?埋まっちまってるのか。」
幸い瓦礫は軽いものばかりで、コートを引っ張るだけでがれきの中から引っ張りだすことができた。
「シラユキちゃんだいじょう……ぶ?」
しかし引っ張り出したコートには中身が入っていなかった。
「バスターさん、どうしよう!シラユキちゃん溶けちゃった!?」
「んなわけねぇだろうが、しっかりしろ。」
マリンがだいぶ錯乱しているようだったが、ここに埋まっていないとなるとシラユキはどこに?……と、
バスターがあたりを見回すと、ちょうどマリンの頭上あたりの壊れた梁から白銀の糸の束のようなものが
垂れ下がっているのを見つけた。
というか人がそこに引っかかっていた。
「おい、マリン上っ上!」
「え!?わあ!!」
どうやら小柄なそれは、気を失っているようで苦し気なうめき声を上げながらも動こうとはしていなかった。
2人がかりでどうにか梁の上から降ろすことには成功したが……
「こ、この子がシラユキちゃんなの?」
「首元に仮面が引っかかってたし、間違いないと思うんだが、でもなぁ……」
確かに二人の知るシラユキは小柄だったが、今目の前に横たわっている少女は、いや、幼女は
明らかに二人の知るシラユキと比べてもさらに小柄だった。
「バスターさん、どうしよう!シラユキちゃん溶けなかったけど縮んじゃった!?」
「んなわけねぇ!!……よなぁ?」




